27・フェアリーテール・1
小悪魔マユ・27
『フェアリーテール・1』
「よく食べるわね……」
里衣紗の声が降ってきた。
マユが目を上げると、里衣紗と沙耶が並んで立っている。
「あんたたちだって」
里衣紗と沙耶は、食堂特製のフライドポテトを持って、ホチクリ食べていた。
「あたしたち、Bランチと、これだけだよ」
沙耶に言われて、マユは自分のテーブルに目を落とした。
A定食(B定食に、ぶっといトンカツが付いている)に、かき揚げ丼、きつねそば、脇には、沙耶たちより一回り大きなフライドポテトが、ドデンと置かれていた……たしかに多い。
「あ、昨日AKRのレッスンとかあったし……」
「でも、知井子は、あれだよ……」
里衣紗の目線の先には、テーブル二つ分向こうに知井子が、玉丼の空になったのを置いて、アイスを舐めながら、練習曲のスコアを見て、テーブルの下、足だけでステップの練習をしていた。
「同じAKRなんだよね……」
「あ……わたしの体って、燃費悪いのよね。アハ、アハハハ」
と、その場はごまかした。
マユの体は、二人が同居していた。マユと、幽霊の浅野拓美……。
マユは小悪魔ではあるが、体は、まったくの人間である。使っただけのエネルギーは補給しなければならない。それも、今は二人分。当然、食事もするしトイレにも行く。
で、今、マユは女子トイレの個室の中にいる。と言って、用を足しているわけではない。いくらラノベとはいえ、トイレの個室の状況を描写することまではしない。
しかし、トイレ本来の使い方をしていなければ別である。
――ねえ、拓美。わたしの体に同居してるのは……まあ、同意する。暫定的にだけど。
――ごめんね、レッスンで体力使うもんだから……わたしって、サブリーダーでもあるわけでしょ。スタジオには一番に入って、最後に出るの。
――リーダーの大石さんもいるでしょう。
――クララはクララよ。トップとサブは自転車の前と後ろ。どっちが力を抜いても自転車は進まないわ。
――でも、拓美って幽霊じゃん。空気も吸わないのに、食事はするわけ?
――マユの体に入っているから、お腹が空くの!
――拓美って、生きてたころ、かなりの大メシ食いだったんじゃないの?
――そういうマユの体こそ、燃費悪いんじゃないの。自分でも言ってたじゃないの。
――あの状況じゃ、ああでも言わなきゃ、ごまかせないじゃん!
そのとき、個室がノックされた。
「あ、ごめんなさい、今空けるから……」
マユは、急いで水を流し、個室を出た。
目の前に、知井子ぐらいの背丈のカワイイ子が立っていた。
手を洗いながら、鏡越しに他の個室が全て空いていることに気づいた。
そして、今の子が、個室に入らず、じっとマユを見ている。
鏡の中で、視線が合った。マユは、少しドキリとした。
「あなた、小悪魔のマユさんね」
その子は、ニコリともせずに言った。
マユは、大いにドキリとした……。




