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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
118/118

118・消えゆく者・2

小悪魔マユ・118

『消えゆく者・2』    




 四番目の子は、そっくりだった……浅野拓美に!


 三番の曲が終わると、三人そろっての決めポーズのあと、その四人目の子は消えた。

「みなさん、今、ここにいた子は、HIKARIプロの、わたし達の情熱。そして東京工科大学の司先生の手によって生み出された、わたしたち三つ葉のクローバー四枚目の葉っぱです。わたしたちとみなさんの情熱とか愛情とかがマックスになったときに現れる、バーチャルアイドルです」

 リーダーの萌が切り出した。

「みなさん、もう一度会いたいですかあ!?」

「うおー!」「ハーイ!」「会いたい、会いたい!」などの声が一斉にした。放送局のコンピューターにも、視聴者の「もう一度会いたい!」というメールが殺到。


 もう一回コールが高まる中、その子は現れた……。


「ありがとう、みなさん。みなさんの熱い思いで、もう一度、みなさんに会えることができました。三つ葉のクローバーへの、みなさんの愛情がマックスになったとき、それをエネルギーにして、わたしは現れることができます。わたしは四枚目のクロ-バーの葉っぱで、花言葉は『幸福』です。でも、まだ名前がありません。この《ハッピークローバー》のCDを買っていただくと、命名カードが付いています。どうか、それに素敵な名前を書いて送ってください。素敵な名前付けてもらえるの楽しみにしています。とりあえず四枚目の葉っぱ『幸福』からのお願いでした。じゃ、また皆さんの愛情で会えますように……」

 その子は、両手を胸にあて、優しい笑顔のまま消えていった。

「やっぱり、どう見ても拓美ちゃん……」

 ため息をつくマユに、密やかに声が掛かった。


 マユちゃん、わたしに付いてきて


 それは仁和さんだった。返事も待たずに仁和さんはスタジオを出て行った。マユは、引き寄せられるように、そのあとに付いた。

 着いた先は、大きなガラスがはまったロビー。そのロビーのガラスの外には、東京の夜景が眼下に広がっていた。この一年見慣れた東京の夜景が。ああ、あのあたりが学校……事務所はあのあたり……なにか、その夜景は、とても懐かしく、愛おしく思えた。


「さあ、こっちへ……」


 仁和さんのガラスの前には、いつの間にかガラスのドアができていた。ノブが付いているのでドアには見えるが、ガラスはガラス、素通しで夜景が見えている。

 仁和さんがドアを開けると……二十畳ほどの応接室のようになっていた。不思議なんだけど、マユは不思議には感じなかった。

「失礼します……」

 そう言って、部屋に入ろうとしたとき、思念が飛び込んできた。


――入っちゃダメ! そこは……。


 仁和さんがドアを閉めたので、その思念は消えてしまったが、それは、オチコボレ天使の雅部利恵のものだった。

「今のは……」

「そう、オチコボレ天使の雅部利恵よ。あの子は、立場を超えて、あなたに友情を感じ始めている」

「仁和さん……」

「まだ気づかない……あなたの担任よ」

「あ……サタン先生!」

「そう、この世界にいるんで、こんなナリしてるけど。はい、これ……」

 仁和……サタン先生は空中から、A4の紙を取りだし、マユに渡した。

「追認合格書……」

「そうよ、おめでとう。晴れて単位認定……」

「わたし……」

「愛情を持ちすぎてしまったわね、この世界に」

「わたし、まだやり残したことが……」

「もういい。マユ、あなたは十分に知った。人間は苦悩の果て、いろんなものを失って、試練を経てその精神を高めていくものだって。でしょ……いろんなことがあったわね、浅野拓美の救済も見事でした……」

「あのバーチャルアイドルは……」

「創ったのは人間よ。わたしはあの子のデテールに関して口を挟んだけ……」

「そうだったんですか、よかった……」

「さ、あっちのドアから、もとの魔界に戻りましょう」

「わたし、まだ、ここにも、フェアリーテールの世界にもやり残したことが」

「ダメ、これ以上関わっちゃ、マユは自分を見失ってしまう。マユはあくまでも悪魔なのよ」

「オヤジ……ギャグですか」

「そういうノリでオサラバしなさい……この期に及んで、そのカチューシャを締め上げたくはないわ」


「……分かりました」


「今度は、任務として、この世界に。そのときまでは……ね」

「はい」

 サタンがニコリと笑うと一瞬で、魔界と現世の狭間の部屋は消えてしまった。


「消えた……」


 美川エルの衣装を着た雅部利恵は、ガラスの前でため息をついた……。



小悪魔マユの魔法日記・第一部……完


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