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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
117/118

117・消えゆく者・1

小悪魔マユ・117

『消えゆく者・1』    




 それから、いろんなことがあった。


 レコード大賞の受賞曲をAKR47のメンバーが感激の内に歌っている間、ほんの一瞬テレビの画面にノイズが走った。

 それは、マユのアバターから、浅野拓美の霊が抜けていき、マユ本来の魂に入れ替わる瞬間。ほんの0・5秒ほど、強烈な電磁波が出て、中継カメラに影響を与えたから。


 そして、観客席の前方にある出場者の席から、神楽坂24の仁科香奈の姿が忽然と消えた。


 仁科香奈は、マユが拓美にアバターを貸すために自分の魂の居所が無くなり、急ごしらえしたアバターで、魂が抜けてしまえば存在出来なくなる。

 AKRの歌が終わって、大歓声が静まったころ、仁科香奈の横に居た神楽坂の子が気づいた。

「あ……香奈……?」

 最初は、気分でも悪くなったって席を外したのかと思われたが、楽屋にも化粧室にも香奈の姿は無く、マネージャーやスタッフ総動員で、ホール中探したが見つからず、除夜の鐘が鳴るころには警察に捜索願が出された。


――アイドル蒸発!!――


 マスコミも、一カ月ほどは、特集番組を組むなどの大騒ぎになったが、神楽坂24に新メンバーが補充され、梅が堅い蕾をつけるころ、世間は関心を失っていった。

――これでいい……マユはそう思った。

――あんたの、やってることって訳分かんない!

 オチコボレ天使の雅利恵からは、そんな思念が送られてきたが、利恵も何かを察したのか、それ以上のことは言ってはこなかった。


「さあ、がんばるんだ。三つ葉のクローバー!」


 黒羽が三人の顔を見ながら言った。

「はい!」

 元気の良い返事が、萌、知井子、潤の三人そろって発せられた。

「萌は愛情、知井子は信仰、潤は希望。そして、三人の想いが一つになったとき、幸福という、四枚目の葉っぱが現れる。稽古通り対応できるように……いいね」

 念を押す黒羽の後ろで、会長の光ミツルが笑っている。

「そろそろ、スタンバイお願いします」

 ADが密やかに声をかけた。三つ葉のクローバーのデビューは、坂東テレビの看板歌謡番組「ヒットチャート10」の最後に行われる。AKRのメドレーが終わって、スタンバっている三人にカメラが向けられる。



《ハッピークローバー》


 もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり

 白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘


 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー

 これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明


 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印 

 茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ


 なんで、そんなにくわしいの くわしいの


 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ


 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー

 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー


 四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの 

 踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの

  

 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに


 ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー 



 一番が終わって、それは現れた……一瞬の決めポーズになった三人の後ろから、その子が現れた。そして、三つ葉のクローバーは四つ葉になり、曲は二番、三番と続いた。

「やった、カメラを通しても透けない!」

 モニターを見ながら司準教授はガッツポーズ。

「本番中よ」

 横の仁和明宏が、頬笑みながらたしなめた。


 マユは、驚いた。四番目の子は、そっくりだった……浅野拓美に! 



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