114・三つ葉のクローバー・3 爆笑記者会見
小悪魔マユ・114
『三つ葉のクローバー・3 爆笑記者会見』
みんなが拍手で迎えてくれた。
事務所の前からスタジオまで、メンバーやスタッフの人たちが笑顔で並んでいる。事務所前には、たかが研究生上がりの新メンバーの復帰とは思えないほどのマスコミの人たちも集まって、事務所のビルに入るのも一苦労だった。
「潤、おかえり! 復帰おめでとう!」
リーダーのクララが花束と激励の言葉をかけてくれた。そして、いっそう高まるみんなの拍手。
「さあ、ちょっと忙しいが、今から記者会見だ。潤、スタジオへ」
黒羽ディレクターが、スタジオのドアを開けた。スタジオには、各社を代表する芸能記者やレポーター。最後尾の何台ものカメラが、驚く潤にレンズを向けた。
「みなさん、ほんとうにありがとうございました……」
復帰の挨拶と会見は、ほんの十分ほどで終わった。潤は、ちょっと拍子抜けがした。
「では、ここから、AKRから枝分かれする新ユニットの発表をさせていただきます」
黒羽が宣言すると、「おかえり、潤!」の横断幕がハラリとめくれて、新しいものが現れた。
『新ユニット 三つ葉のクローバー結成発表!!』
「さあ、知井子、萌、前へ! あ、潤はそのままで」
立ちかけた潤が、黒羽の言葉でずっこけ、みんなが笑った。
「わたし……居ていいんですか?」
「潤もメンバーの一人だよ」
「え、うそ……!」
「改めて紹介します。三つ葉のクローバー、小野寺潤、桜井知井子、矢頭萌、の、三人です。ちなみに、このユニットにはセンターもリーダーもいません。名前の順番は、単なるアイウエオ順です。デビュー曲は決まっていますが、まだ発表はいたしません。なんせメンバーの潤など、たった今、知ったばかりですから」
潤が顔を赤くし、みんなが暖かく笑った。
「この子達は、AKRでも、とびきり優秀……というわけでもありません」
また、スタジオは笑いに満ちた。
「AKRを、お花畑に例えれば、この三人は、ありふれた三つ葉のクローバーです。でも、三つ葉のクローバーというのは、人から注目されることもなく、路ばたで踏みつけにさえされます。そうやって傷ついたところから……むつかしい言葉では成長点といいますが、そこから、新しい四枚目の葉っぱが生まれて四つ葉のクロ-バーになります。そういう可能性を秘めた意味をこめて『三つ葉のクローバー』というユニット名にしました。この三人は、経験の浅い者や、ドンクサイ者たちです」
みたび、スタジオは笑いにつつまれる。
「しかし、その分、他の者たちよりも苦労はしております。挫折も経験しております。心身共に。なあ潤」
「あ、はい。一時は心臓止まりかけました」
またも、笑いがおこった。
「で、でも、マユ先輩なんかが、一生懸命助けて……あ、マユ先輩。帰ってからのお楽しみって、このことだったんですね!?」
「三人に、それぞれハンドルネームを与えます。マユちゃんよろしく」
リーダーのクララが、マユを指名した。マユは色紙を持って前に出てきた。
「潤ちゃんは『希望』奇跡の復活はAKRの希望、 知井子は『信仰』……友情というAKRの信仰、萌は『愛情』ファンのみなさんや、仲間への愛情」
マユ(の姿をした拓美。このことはクララと潤しか知らない。光会長、黒羽、仁和はうっすら感づいている)は、色紙を三人に渡した。思いの外ヘタクソナ字であった。
「なお、色紙を書いたのは、会長の光ミツル先生です」
「いや、なかなか味わいのある字だ!」
ヘタッピーと思っていた記者がお世辞を言ったので、今度は大爆笑になった。
「みなさん、今、新しいニュースが入ってきました」
光会長が、よく通る声で言った。
「AKRが、レコード大賞にノミネートされました!」




