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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
110/118

110・その後のAKR47・4

小悪魔マユ・110

『その後のAKR47・4』    




 ――人に話してしまった。もう、このマユのアバターにも長くは居られないだろう。


 拓美は、そう思ったが、「これでいいんだ」と言う自分が芽生え始めていることに、初めて気づいた……。


 潤は、一時危篤に陥ったが、医師たちの懸命な治療のお陰ということになっていたが、拓美との会話で、頭上に迫っていたあの世を回避して、一命を取り留めた。回復も早く、四日目には、ベッドに身を起こしてみんなと話ができるようになった。


――AKR47、仲間を救う命の連携!――


 特に拓美の処置が絶賛され、潤の両親からも感謝され、マスコミからも賞賛を受けた。ただし、アバターの出昼マユとして。


「はい、みんな、こっち向いて!」

「はーい!」


 ベッドの潤を真ん中に、入りきれるだけのメンバーが入って写真が撮られ、カメラが回った。

 十分という時間制限で、マスコミが取材を許されたのだ。

「時間がないので、わたしが決定を言います」

 会長の光ミツルが手を上げた。

「実際の活動は、退院後の復帰からになりますが、潤を加えた新ユニットを結成します」

 病室のみんなから、歓声があがった。

「ユニットの名前は、三つ葉のクローバー」

 黒羽ディレクターが、続けると、みんながズッコケた。あまりに平凡……。


「平凡すぎやしませんか?」


 事務所に場所を移した記者会見で、ベテランの芸能レポーターが声を上げた。

「平凡だからです。ちなみに、他のメンバーは、桜井知井子、矢頭萌。合計三人のユニットです。AKRの中でも、平均的な力の三人です。三つ葉のクロ-バーのように平凡だが、可憐で可能性を秘めています」

「将来、力がついたら、四つ葉のクローバーと改名することを宣言しておきます」

 光ミツル会長と黒羽ディレクターが、簡潔に説明した。

「なお、デビュー曲の作詞は、仁和明宏さんにお願いして、快諾を得ております」

「現在、申し上げられるのは、ここまでです」

「もっと詳しくお願いしますよ!」

 芸能レポーターが食い下がる。

「できたら、説明しますがね。ぼく達も、まだ、ここまでしか決めとらんのです」

「あとは、そこでびっくりしている、知井子と萌に感想聞いてやってください」

 そう二人に振って、光と黒羽は会長室に向かった。


――間もなく列車が通過しますので、白線の後ろにお下がり下さい――


 会長室の白線は特別製で、駅の構内アナウンス、そして列車の通過音やホームの振動まで再現できるようになっている。窓ぎわのスリットからは、列車の通過に見合った風が「バン!」と吹き出した。

「あいかわらず、こんなので遊んでるのね」

 仁和が、風に髪をなぶらせながら背中で言った。

「あんたから電話をもらってタマゲタよ。かれこれ二十年ぶりだもんな」

「そうね、黒羽クンが、まだ駆け出しのADだったもんね」

「とりあえず、仁和さんの言うとおりにやったけど、これでいいんだね?」

「ええ、取り越し苦労かもしれないけど、みんなの役に立てればって、そう思って」

「しかし、いいんですか。仁和さんはオモクロとも専属の契約なさってたんじゃ……」

 黒羽がADに戻ったように、お茶を淹れながら言った。

「ハハ、ミツルクンも、敵に塩を送ってるじゃない。オモクロとか、神楽坂24とか」

「ハハ、敵も適当に強くなってもらわなきゃ、面白くないからな」

「あいかわらずね。でも、わたしのは、もっと真面目。人の魂に関わることだから……」

 そう言って、仁和は、おもむろに香をたき始めた。

「で、本当なのかい、このAKRが……」


 拓美には、そこまでしか聞き取れなかった。仁和のたいた香が結界になって、感じ取ることができなくなっていた。

 しかし、会長室の三人からは悪意めいたものは感じなかった。それどころか、暖かいいたわりの気持ちさえ感じられた。そして、そのいたわりは、入院している潤に向けてのものだけでないことも気づいた……。


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