105・オモクロ居残りグミ・5
小悪魔マユ・105
『オモクロ居残りグミ・5』
「お父さん、いいかげんにしてよね!」
加奈子が、切れた……オモクロ・E残りグミの最近の名物になりつつある加奈子と父の親子ゲンカである。
『居残りグミ』は、プロモのできもよく、動画サイトのアクセスも、発表の一週間で百万件。オリコンチャートも、AKRの『コスモストルネード』オモクロの『秋色ララバイ』に続きベストスリーにまで入ってきた。
別所プロディューサーは、一気に攻勢をかけることにした。
『居残りグミ』は成功したとは言え、やはりオモクロの二軍というイメージを払拭できない。そこで、短期に巻き返しを計るため、新曲をあいついでリリースすることにした。とりあえず想いをストレートに表現しようということで、みんなで知恵を絞ったが、電動車椅子で稽古場にしている会議室(スタジオは、本体のオモクロが使っている)にやってきた加奈子の父高峯純一が、一言口を挟んだことで、一気に話がまとまった。
「東京タワーで、どうですか?」
加奈子は正直ギクっとした。オモクロのセンターを外されてから、なにかと自分と東京タワーを引き比べるようになってきた。美紀のケガで選抜復帰することになったら、新人の真央にあっさり入れ替えられ、病院のロビーで腐っていたとき、目に入っていたのがスカイツリーと東京タワーであった。
病院のロビーのガラス張りから見える東京タワーは、周りの高層ビルに囲まれ威勢がない。そんな東京タワーにネガティブなシンパシーを感じていたことが思い出され、加奈子は父の提案に真っ先に反対した。
「それ、いけるかも……」
別所がプロデューサーの感覚で反応した。そしてネットで検索したり、実際メンバーで、東京タワーにも行ってみた。電動車椅子のバッテリーが切れていたので、父の予備の車椅子を加奈子が押した。メンバー十二名、スタッフ四名、そして加奈子の父十七名は、程よく目立った。加奈子親子の親密感(実際はケンカばかりしているが、車椅子を押していたりすると、絵としては甲斐甲斐しく見える)
「バッテリーの残量、どうして確かめなかったのよ!」
「それだけ、加奈子のことを心配してやってたんだよ」
「もう、それが余計なことだって言うの!」
こういう遣り取りも、遠目には、仲の良い親子に見える。その姿をスマホで撮っていた年輩の夫婦が気づいた。
「あ、あれ、高峯純一さんだわよ!」
若い人には知られていないが、年輩の人たちの記憶には、前世紀のバブルのころの高峯の活躍ぶりは、自分たちの良き時代の記憶とともに美しく雄々しいイメージとして残っていた。
「ウワー、高峯純一さんだ!!」
シルバーツアーのご一統さんが周りに集まった。
シルバーツアーのご一統さんは、オモクロ・E残グミはおろか、オモクロにもAKRにもウトイ。往年の大スター高峯純一の世話をするスク-ルメイツかなんかのように思っている。
あっと言う間に、高峯純一のサイン会、握手会になってしまった。
「あんたたち偉いわね、ちゃんと大先輩のお世話なんかしちゃって。あなたなんか、大先輩とはいえ、他人とは思えない甲斐甲斐しさよ!」
「いやあ、これは、わたしの娘ですから」
高峯純一がクチバシッテしまった。
さすがに、ガイドのオネエサンはオモクロもオモクロ・E残グミのことも知っていた。
「あ、あなた、オモクロの桃畑加奈子ちゃんじゃないの!?」
「そういや、大正製菓のグミのCMやってたわよね」
と、シルバーの方々の思考回路がつながった。
大騒ぎになってしまった。
シルバーツアーのご一統さんたちと、修学旅行と敬老会の団体さんの合同見学のようになってしまった。そのうちに、だれがたれ込んだのか、芸能レポーターや放送局までやってきた。
別所は、プロディユーサーとして、この偶然の機会を逃さなかった。
「今度、東京タワーをテーマにして新曲を発表します」と、ぶちかました。
で、ゆっくりと東京タワーを見学しているうちに、新曲のイメージが膨らんできた。
《東京タワー》
キミと登った東京タワー スカイツリーもいいけれど キミとボクには程よい高さだよ
二人そろって 高所恐怖症 二人に程よい距離だった
神保町駅徒歩7分 見上げた姿は333メーター 赤白姿のストライプ
ボクの心もストライプ 告白しようか止めようか
太陽背にした東京タワー 焦らすねボクの心を 神保町から7分に高まるテンションさ
キミはスキップ、一歩先 それがとても遠く愛おしく
やっと踏んだキミの影 はじけた笑顔眩しくて、赤白姿のストライプ
ボクをせかせてストライプ やっと追いつき照れ笑い
ああ 東京タワー ああ 東京タワー ああ ああ 東京タワー
展望台を一周する間に、一番の歌詞ができてしまった。
事務所に帰って、みんなにご披露。すぐに二番も三番も出来たが、父の高峯が、こう口を挟んだ。
「東京タワーなら、御成門から徒歩6分だろうが!」
これが、親子ゲンカの始まりであり、芸能人高峯純一の再生でもあった。
そして、オモクロ・E残りグミの飛躍へと繋がっていった……。




