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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
102/118

102・オモクロ居残りグミ・2

小悪魔マユ・102

『オモクロ居残りグミ・2』    




 波紋は意外なところから広がってきた。


 ほんとうに、オチコボレ天使の後始末は大変だ。

 香奈のアバターの中でぼやくマユであった……。


《居残りグミ》のプロモーションビデオは、東京郊外の廃校になった高校を使っておこなわれた。

 廃校といっても、この年の四月までは現役だった学校で、校舎の中などは、現役のころのまんま。

 校庭や中庭などに少し雑草が生えている。制作費が安いので、エキストラの人たちといっしょになって、草刈りをやるところから始めなくてはならなかった。


「いいウォーミングアップになったね!」


 額の汗をタオルで拭いながら、加奈子が笑った。どこまでも前向きな明るいリーダーだ。やっぱりオモクロのセンターを張ってきただけのことはある。と香奈マユは感心した。

――オチコボレ天使の雅部利恵が余計なことをしなければ、この加奈子たちだけでも、かなりの線まではいっただろう。

 その元凶の雅部利恵は、美川エルというオモクロの研究生になり、抜群の歌唱力、リズム感、ルックス、スタイルで。すぐに選抜メンバーに加えられ、選抜メンバーの端っこで、オモクロをここまでにした自負心とともに。アイドルとして注目される喜びに浸っていた。

 

 マユは、本来のアバターをアイドル志望の幽霊、浅野拓美に貸してあり、そっちはAKRの選抜メンバーとして活躍中。


 マユは、香奈という臨時にこさえたアバターに入って、加奈子たち「居残りグミ」のバックとして支えていた。なんでオチコボレ天使の尻ぬぐいを、ここまでやらなきゃならないのかという怒りもあったが、加奈子たち、本来のオモクロのメンバーたちのがんばりには正直驚いて、「居残りグミ」を売り出すことに生き甲斐を感じていた。


 午前中は、草刈りを手早くすませ、エキストラの子たちといっしょに女子高生の制服に着替え、校庭で昼休み風景の撮影。


 思い思いに、グラウンドで遊んでと、エキストラの子たちにディレクターが指示するが、なかなか自然な昼休みにはならない。所在なげに突っ立っているか、不自然に騒ぐだけ。ディレクターがいちいち動きを付けるが、数が多く、なかなか全員の演技指導に手が回らない。

「あなたたち、そこでトスバレー、あなたたちは向こうのベンチで……そう、『秋色ララバイ』ハモってて。

 で、あなたたち三人、いや四人で、わたしたちの前をキャッキャいいながら駆け抜けてくれる……そう、走りながらジャンケンてのいいかも。それをカメラさんがおっかけて、わたしたちと重なったとこで、歌になる。どうかしら、別所さん」

 加奈子は、あっと言う間に、冒頭のシーンを決めてしまった。

「カナちゃん。監督の才能あるよ」

 ディレクターの別所は正直に誉めた。後ろのほうで、女先生役の仁和明宏さんがニコニコ笑って、こう付け加えた。

「そのあと、ドローンで上から撮って、その端っこに、あたし歩くわ。三分のプロモだけど、放課後の居残り担当の先生出現のいい伏線になると思うの」

「あ、それ頂きます」

 ディレクター兼監督の別所は、こういう点にプライドがないので良い物はなんでも採用。絵コンテはあっさり書き換えられてリハーサル。



 今日のテストも赤点で、予想通りの居残り学習、居残り組。

 夕陽差す中庭のベンチ、待ってるキミが大あくび、その口目がけて投げるグミ。

 見事に決まってストライク……とはいかずに、キャッチする手は左利き。


 ニッコリ笑ってグミを噛む。ゼリーより硬く、キャンディーよりは柔らかく。

 その食感に、キミが戸惑う。まるで、ボクが初めてコクった時のよう。

 あの、ハナミズキの花の下、左手だけを半袖まくり、ソフトボールの汗滲ませて、ボクをにらんでいたね。

 あとの言葉困って、ボクが差し出すグミ、キャンディーと勘違い。グニュっと噛んでキミが笑う。

 歯ごたえハンパなグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、だけど心に残る愛おしさ。

 居残りグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、青春の歯ごたえさ~♪

 


 リハーサルは一発でOK、一応ランスルー、カメリハをやるのは別所の、良くも悪くも生真面目なところ。

 しかし、みんなのテンションは適度に上がって、冒頭のシーンワンはワンテイクでOKが出た。


 そして、次の教室でのシーンの準備にかかったころ、女教師役の仁和明宏さんが呟いた。


「なにか、変なものが混ざり込んできた……」


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