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プロローグ
古びた本の甘い香り。床に漏れる光に照らされ、淡く輝く埃。カーテンに包まれる小さな身体。膝を抱える細い腕。彼女の伏せられた睫毛は、頬に淡い影を落としていた。
気がつくと僕は、その窓際の彼女の元へ、夢遊病者のように近づいていた。僕の気配を察した彼女は、小さな頭を揺らし、僕をその漆黒の瞳で見上げた。僕はその瞳の病的な美しさに見蕩れた。次の瞬間、彼女は硬直している僕に優しく微笑み、言葉を紡いだ。
「ねえ。私──」
微かに風が吹いた。彼女の髪が揺れる。
彼女はその後の言葉を、全く何でもないそぶりで続けた。
「私の──私の代わりに死んでくれない?」