プロローグ
「どういったご用件でしょうか?」
騒がしい冒険者ギルドのホールでも相手の耳に届くよう、声を張り上げる。もちろん、営業スマイルも忘れない。
ついさっき、爬虫類を専門としたパーティーが帰還したばかりで、いつもより三割増しでうるさい。でも、浮かれている彼らに水を差す気にはなれない。
冒険者の皆さんが無事に戻ってこられたことが一番。いつもなら注意するところだけど、今日ぐらいは大目に見てあげないと。
「あの、依頼をしたいのですが」
服装は一般的な地味な色合いの格好。こういう場は初めてなのか、若干怯えた様子で落ち着きなく周囲を見回しているから、人と接することが少ない人なのかしら。
顔に特徴もなく体格は少しやせ気味。指名手配犯や要注意人物に当てはまらないわね。受付として、相手を見極めるのも大切なお仕事。
「どのような、ご依頼でしょうか。このギルドには様々な依頼に対応できるよう、あらゆる事柄に対応できる人材を取り揃えております。ドラゴン退治から民家の修復、荷運び等の雑用まで、どのような依頼でもお気軽にご相談ください」
そう。冒険者といっても得意分野は異なる。魔物退治一つにしても、爬虫類系が得意なパーティーもいれば、植物系に特化したパーティーだっている。
町の雑用も戦闘が苦手な冒険者には大事な収入源。冒険者のことを何でも屋とか便利屋と揶揄する人もいるが、人々の役に立っているのだから苛立つ必要はない。むしろ、誇るべきだと思う。
私としては命を落とす可能性のある魔物退治より、街の雑用の仕事が増えてほしいと思っているぐらいだから。
まあ冒険者の皆さんは、雑用を嫌う気性の激しい方が多いのが難点だけど。
「どんな依頼も大丈夫ですか?」
「はい。もちろん、尋常ではない難易度の場合や、報酬の問題で依頼を出しても引き受ける冒険者がいなければ、どうしようもありませんが」
「報酬の方は大丈夫だと思うのですが、その、あの、ですね……」
言いづらいようで、眉間にしわを寄せて体をもじもじさせている。ちょっと、気持ち悪い。
って、依頼者に対してそんなことを思っては失礼よね。でも、ここまでためらうということは、どのような厄介ごとを口にするつもりなのかしら。
「うちの店の料理について相談したくて。最近、近くにできた店に客を取られてしまい、このままでは潰れてしまいかねないのです。冒険者の皆さんは大食漢だと聞き及んでいますので冒険者の方々が好きそうなメニューを、開発する手伝いをしてくださる方を探していまして」
「それは、料理ができる方が好ましいのでしょうか? それとも味見役で?」
この答えによって手配する冒険者が変わる。味見だけなら大食いで新人冒険者に頼めばいい。食べるだけの依頼なら喜んで引き受けてくれる。
「そ、その。少しは料理ができて、舌の肥えている方がいると嬉しいのですが……そんな都合のいい人いませんよね?」
「いえ、その要望にピッタリの冒険者がいますよ」
私が即答すると、依頼人は驚いた顔をした。
「うちのギルドで唯一、職業が料理人という、とっておきの冒険者がいます」
「りょ、料理人ですか? えっ、料理人が何故冒険者に」
彼の職を話すとみんな同じ反応をする。不思議に思われて当然だ。
冒険者の職業と言えば、戦士、狩人、僧侶、魔法使い、といった戦闘職ばかり。その中で異彩を放つ料理人という職業。
それもただの料理人じゃない。凄腕の料理人だ。
食事に関する依頼の殆どを任せている、料理に特化した彼。
「では、依頼内容を教えていただけますか。どんな無理難題でも必ず解決してみせますよ」
自信満々に断言した。
料理に関しては全幅の信頼を寄せている彼に任せれば、依頼は完遂される。
私が最も信頼している冒険者――料理人センなら必ず。