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プロローグ

 朝、庭に出ると痴女がいた。


「ささ、乗って下さい!」


 ??????


 もひとつおまけに。


 ??????


 誰だってそうではなかろうか。いつものように学校へ行こうと、朝起きて、トイレ済ませて、歯を磨いて、トーストを食い、着替え、玄関を出て、……そこに全裸の、年端もいかない美少女が立っていたら。こちらにケツを突き出していたら。あまつさえ「乗って下さい」。俺の脳内で処理できるキャパシティを超えてしまった。


「お前は……何なんだ?」


 女性経験なんてほとんどない俺にはあまり直視なんてことはできなかったが、決心して、そう言いながら相手をちらちらと確認する。いや待て、何故俺が罪悪感を持たなくちゃあならないのか? 相手が! 勝手に! うちの庭にいるんだから! 俺がそれを見ても何の問題もない。たまにやってくる野良猫だって全裸だ。しかもオスだ(意味不明)。


 黒く長い髪。ただ、所々には赤いメッシュが掛かっている。目はくりっとして大きく、胸は……まあ普通? こんな格好を見られているというのに、恥じらう様子もない。先ほど『少女』と形容したが、高校生の俺よりはいくらか幼い印象を持てる……。うん、会ったことはない。会ったことがあったとしても、人んちで朝っぱらから全裸になるような奴を、俺は知人とは認めたくない。だが不思議なことに彼女には――――少し見慣れたような雰囲気があった。


「やだなあ、忘れたんですか?」相手は自身の口元に手を添え、けたけたと笑う。


 おかしい。俺は記憶喪失にでもなっているということだろうか。……両親は海外でお仕事。姉は短大生。家は一軒家。ペットはなしだが、時々雀が部屋に入ってくる。うん、正常…………なのか? もし本当に記憶を失くしているなら、俺とは別に『確認する人』がいなきゃ駄目じゃないか? でもその『確認する人』が記憶喪失でないと言い切れるのか? よし、では『確認する人を確認する人』も付けて手を打とう。打たねーよ!!!


「名前を……名乗ってもらおうか」ちょっと待って俺こんな口調で喋ったことないけど……まあ良いかめんどくせえ。


「ひどい……私を忘れたんですか苗人さん……」


「なっ……!?」


 泣かせてしまった。可愛い女の子を泣かせてしまった。しかし何故こやつ、俺の名前を……。大変なことをしてしまったような自覚はあったが、女の子に下の名前で呼ばれたのなんて何年ぶりかわからず、少し戸惑ってしまった。


「あなたのことはよく知っていますよ。植木苗人さん。学校へ行く途中、誰もいない時にセーラームーン(初代)の主題歌を口ずさんでいるのも……」


「それはね!!!!! 姉が見てたからなの!!!!!! 俺が好きでは……何で知ってんのよおおおおおーーーー!?」オネエ口調になっていた。


 息遣いが荒くなり、ぜえぜえと呼吸を続ける。整える。相手はそれをじっと見ている。しばしの沈黙。


「お前さ、ほんとに誰なんだよ」一呼吸おいてから、もう一度問う。


「ひどい…私を忘れたんですか……」


「あーもう無限ループかよ! なろうでやってくには仕方ないのか!?」


 せめて相手の名前でもわかれば何か進展するかもしれないのだが、埒が明かない……。


「悪いけど、ほんとにちょっとしたド忘れなんだよ。君の名前を……聞かせてほしい」


 俺も少し落ち着いて……改めて、相手を傷つけないよう努めて聞いた。


「えっとそれは……型番ですか? それとも、あなたに付けてもらったほうですか……? はたまた、商品名、でしょうか?」


 相手は困ったように首を何度か傾げた。その状況に、俺も首を傾げた。


「まあ、私は苗人さんのものですから! あなたに付けてもらったお名前を発表しますね! 私は『俺専用不死鳥の羽ばたきフェニックス号EX』。これからもよろしくお願いします!」


 ……こいつ、俺の自転車だ。

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