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人類滅亡は夢の中で。  作者: 糠床の王
第1章 【夢の中】
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第9話 『霧の中で』


 バイトを始めてから二週間が過ぎた。

 週一なので、あれからまだ二回しか夢の中には入っていない。二回とも俺がエンプサを倒したのだが、七星ほどではないが、それでもかなりあっさりと終わらせることができてしまった。

 せっかく美少女と二人になれるというのに、俺のコミュニケーション能力の低さと七星の寡黙さがあいまって全く会話をせずに終了してしまう。

 エンプサが弱すぎるのだ。あいつらがもう少しやっかいな相手であれば、二人でいられる時間は増えるし、そうなれば自然と親交も深められるはずなのだ。

 仮にも人をそれなりに苦しめている存在なのだから、もう少し強くてもいいとおもうのだが。

 そんな理不尽な不満を抱えながらベッドに入る。今日はバイト開始から三度目の月曜日。

 夢の中の世界は毎回違った景色が広がっている。先週は緑豊かな草原、その前はどこか駅前の繁華街だったか。

 今日はどんな世界が待っているのだろうか。そんなことを考えながら俺は目を閉じ、眠りにつく。


 気がつくと俺は霧のなかにいた。

 霧はかなり濃く、数メートル先も見通せない状態だ。これじゃこの夢がどんな世界なのかも分からないし、エンプサを探すのもかなり時間がかかりそうだ。というか七星とも合流できるか不安だぞ。

 俺は霧のなかをあてもなく歩き始める。地面は石かなにかで舗装されているようだが、建物のらしきものはいっこうに見つからない。

 やばいやばいやばいやばい!

 俺は不安と恐怖で焦り始めた。無いとは思うが、もしこんな時に高レベルのエンプサに遭遇したら間違いなくやられる。

 息が荒くなり、半ばパニックになりかけ、俺は七星の名前を呼びながら走る。


「七星いーーー!!!どこだーーーーー!!!おーーい!」


 聞いてないぞこんなの!チョロくてたんまり稼げる上に美少女と仲良くなれるバイトじゃなかったのかよ!

 怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

 七星……誰か……


「化野くん……?」


「のぅお!?」


 突然後ろから声をかけられ、変な声がでてしまった。


「どうした……の?汗も……すごくかいてる」


「いや、七星がなかなか見つからくて……それに、すげー霧だからさ、ちょっと戸惑っちゃって」


 どうやら七星も夢の中に入っていたようで、俺はひとまず安心することができた。ほんと良かった……


「それにしてもこの霧……何か異常事態、ってわけじゃないのか?」


 夢の中でこんな会話が交わせていること自体、異常事態ではあるのだけれど、それはひとまず置いておいて俺は七星に尋ねる。


「たまに…………こういうことある。なんでかは……わからないけど……」


「そう……なのか」


 夢をみてる人の精神状態、とかと何か関係があったりするのだろうか。ともかくも、とりわけやばい状況ってわけではなさそうだ。


「でも…………この霧が出てると……時間がかかる……とっても」


 それは俺も懸念したことではあったが、やっぱりそうなのか。

 普段でも、別にやつらは俺たちに自ら近づいて来るようなことはない。たまたま、気がついた場所の近くにいることはあるが、そうでなければしばらく歩き回って探すことになる。

 いつもなら数分で見つけることができるが、この霧の中じゃ、確かに厳しそうだ。

 とはいっても、エンプサを倒さなければ、仕事をしたことにならないし、なにより夢から出られないため、俺たちはとりあえず歩き始める。

 そこで俺はふと気づく。

 今のこの状況こそ、まさに俺が望んでいたものじゃないか。いつもと違ってエンプサを仕留めるのに時間がかかる。これはチャンスだ!霧サンキュー


「そ、そういえば、七星って高校生……だよな?どこ校なんだ?」


 やや唐突だったかもしれないが、俺は当たり障りのない質問から会話を始める。ここから話を発展させていくのだ。


「……高校は…………開城……だけど」


「えっ!?」


 開城っていったら超のつく名門私立高校じゃねえか。そういえばそのセーラー服は開城の制服だったな。まじか…………なんていうか、七星がいっきに遠い存在になってしまった気がする。別に俺の高校だって悪くはないけれど、せいぜい中の上くらいだからな…………


「そ、そうなんだ。すげーな!めちゃめちゃ頭いいとこじゃん。俺は間戸高校ってとこなんだけど……知らねぇよな?」


「うん…………きいたこと……ないかも……」


 開城と間戸じゃあかなりの距離があるし、うちの学校は別に有名でもないから地元の人以外じゃ知らなくても当然か。


「部活とかは何かやってたりするのか?」


 俺はすかさず次の話題へと移る。


「部活は…………剣道………………最近は……あまり行ってない……けど、それより……化野くん……」


「そうかあ、剣道って格好いいよな!なんていうかこう洗練されてる感じ?俺なんかは別に部活とかはやってないんだけどさ、そういうのに打ち込めるってのはなんか羨ましいよ」


 なんかいい感じに会話が進んでいってるんじゃないか?このままどんどん七星のことをきいていこう。


「ところで七星は……」


「化野くん」


「……はい?」


 あれ、なんかまずいこと言っちゃったかな、なんとなく声に刺があるように聞こえたんだが。


「その……今日のエンプサ……は、ちょっと強くて…………危ないから……私が倒すね?」


 あ……エンプサね。そうそうエンプサ。俺たちはそいつを倒さなくちゃいけないんだ。てっきり怒っているのかと思ったがそうでもないようだ。

 俺は安心し、ため息をつくと、


「まあ、ちょっと強いっていったってたかが知れてるわけでしょ?そんな、危ないってのは大げさだろ。皆も今までに手こずったことはないし、死人が出たこともないって言ってたし」


 それに七星は多分かなり強い。俺一人だけならともかく七星がいてくれればこっちがやられることはないはずだ。


「それ…………誰にきいたの……?」


「え……勅使河原とか、あとは他の曜日担当してる人たちからきいて……」


 なんだか七星の様子が……

 これは……怒っているのか?悲しんでるようにもみえるけど……


「どうした?何か変なこと言っちまったか?」


 やばい、しょっぱなから好感度下げるようなことやらかすとかどんだけ人との会話慣れしてないんだよ俺は。


「そう……じゃなくて……ちょっと……というかだいぶ間違ってる……」


「間違ってる?」


「そう…………エンプサの中にはとっても強いのもいる………………それに、人が死んじゃうことは…………それなりに……ある」


「え……………………」


 だって、エンプサは雑魚ばっかで……だから人が死ぬこともまずないって………………


「ちょ、ちょっと待てよ。嘘だろ?それじゃあ、俺は騙されたってことかよ?」


「………………」


「おい!なんとか言えよ!」


 俺はひどく動揺していた。死ぬかもしれないことに、騙されていたかもしれないことに。

 俺は歩みを一端止め、七星の方を向き、怒りと不安混じりにつめよるが、七星は俯いたまま口を開かない。七星も含め、全員で示しあわせて俺を騙してたのか?でも、それになんの意味があるんだ。

 俺は一度深呼吸をし、


「話してくれ。大丈夫だ。何をきいても大人しくしてる。そもそも、こんな怪しいバイトに手を出した俺にだって責任はあるからな。だから、何か知っているなら、話してくれ」


 落ち着いた口調でそう七星に尋ねた。

 七星はしばらくじっとしていたが、やがて覚悟を決めたように俺の顔をみる。


「……多分……でしか分からないけど……ツトム以外のバイトの人は…………代わり……が欲しかったんだと思う…………」


「代わり……?」


「化野くんは…………夢が……どうなると終わるのか……知ってる?」


 七星はおそるおそる尋ねてくる。


「そりゃあ、エンプサを倒したら……だろ?それがどうしたってんだ」


 エンプサを倒せば夢から覚める。それはもう何度も実際に経験していることだ。それが今さらなんだというのだろうか。


「一つは…………それであってる。でも……もう一つあって……」


そこで七星は一度息を吸い込み、


「夢の中で誰か一人でも死ねば………………そこで夢は強制的に中断される……の」


 申し訳なさそうにそう言った。

 代わり、つまりこういうことか。実際にはやばいエンプサがごろごろいて、いざ自分がやられそうになった時の捨て駒が欲しいから、俺にあんな嘘をついたってことか…………

 ちくしょう!とんだブラックじゃねえか!


「七星も……そう……なのか?」


 俺はなんでそんな質問をしたのか。この少女だけは自分を裏切ってほしくないとでも思っているのだろうか。


「私は…………そんなこと……初めて会った時も…………なんだか乗り気じゃないみたいだったから……多分、やらないだろうって思って……。でも、私が最初に説明しておけば……良かった……ごめん……話すのとか苦手で」


 七星には俺を騙そうとか、そういう気持ちは無かったようだ。別に本当にそうなのかどうか証拠があるわけではないが、なんとなくそう思った。


「そうか……まあ、でも事情が分かって良かったよ。ありがとな。別に皆を恨んだりはしてないよ、なんていうか、さっきも言ったけど俺にだって責任はあるわけだし。でも、さすがにこれ以上続けるのはしんどいかな……とは思うけど」


「うん……それは…………私もツトムに言ってみる。」


「助かるよ。それじゃ、そろそろエンプサ探しを再開して、とっとと今日の仕事を終わらせようぜ。まあ、全部七星任せになっちまうんだけどさ」


 俺はできるだけ元気にそう言った。七星はまだ申し訳なさそうな顔をしているが、済んだことはどうしようもない。


「そういえば、さ。今日のエンプサはレベルどんくらいなの?強いみたいなこと言ってたけど」


 俺はなんとなく疑問に思ったことを口にする。どうせ俺は何をするわけでもないのだから、知ったところでどうというわけじゃないんだけどな。


「今日のは……………………R……だったかな」


 ……………………は?R?今までのが確かC~Fくらいだったよな……

 そこで俺は気がつく。霧が、今まで高い濃度で俺たちを覆っていた霧が段々と晴れてきていることに。


「私も頑張る…………けど、化野くんを守ってる余裕はないかもしれないから………………油断は……絶対しないで」


 七星がそう言い終わると同時に、巨大な黒い影が俺たちを覆った。


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