第8話 『バイト開始』
「それじゃあ…………改めてよろしく…………」
そういいながら彼女、七星愛はエンプサを真っ二つに切り裂いた。
怖ええ……
「でも……意外……だった。なんだか、すごくおどおどしてたし…………やらないとおもってた…………」
「まあ…………そうっすよね」
そう、結局俺はこの得体の知れないバイトを正式に始めることにしたのだ。
俺は眠りにつくほんの一瞬前に枕の位置を戻したのだ。結果として、こうしてまた夢の世界に舞い戻ってくることとなった。
別に、美少女と週一で会えるからってやることに決めたわけじゃないんだからね。単に人助けに興味があるだけなんだからね。
いやしかし待てよ。確か研修中は毎日、それも誰かと一緒にエンプサを倒したわけだけど、これからはどうなるんだ?もしかして七星に会うのも今日が最後になるんじゃ…………
早速バイトを始めた動機が消えかけて絶望する俺に七星が、
「その……ほんとは一日一人が……担当することになっているんだけど、もう全部埋まっちゃってて…………だから、まだ始めたばかりだし君には私と一緒にやってもらうって…………ツトムが言ってたから…………」
今なんて言った?
「今日は……もう私が倒しちゃったけど…………来週は君が倒していいよ。私は……サポートに回るから…………」
「ふふふふふふ……」
「……?」
なんだよ、勅使河原のやつもいい仕事するじゃねえか。これから毎週美少女と会えるうえに七星はかなり強いから、ぶっちゃけ俺は何もしなくてもいいんだよね。多分、勅使河原に言われたかなんかで七星は俺にエンプサ退治を譲っているのだろう。
俺はしばらくは七星が一人エンプサを倒してくれるように、
「いや、最初はもう少し見学していたいから、来週も…………」
言おうとした瞬間、視界がブラックアウトした。
………………そうか、七星一人に任せるとすぐに倒しちゃって、一緒にいられる時間がめちゃくちゃ短くなっちまうのか。
それはいかん。やっぱり、これからは積極的に俺も参加していかなければならんな。
我ながらどうしようもない人間なのは重々承知の上だが、それでも男ってもんはだいたいこんなもんなんだってことを理解していただきたい。
なにはともあれ、俺は人生初のバイトを始めることとなった。まあ、これがまともなバイトでないのは間違いないし、不安な部分もやはり残る。
しかしそれを上回るほどの期待、美少女との触れ合い、高額の給料、そして夢の中という非現実的なファンタジー世界。来週の月曜日が今から待ち遠しい。
逸る気持ちを抑え、俺はベッドから抜け出しもう出来上がっているだろう朝食をとりにリビングへ向かう。
そして一週間後、俺はこのバイトの実態を知ることになる。