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人類滅亡は夢の中で。  作者: 糠床の王
第1章 【夢の中】
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第7話 『決断』


 ある意味では一番会いたっかた男、勅使河原が俺の前に座っている。こいつには聞きたいことがたくさんあるのだ。


「四日振りですね、化野君。夢の中での仕事には慣れましたか?」


「誰かさんがもっと最初にいろいろ教えてくれてればあれこれ考えたりせずにバイトにも集中できたんですけどね。」


 この男はバイトを管理している人間のはずだ。おそらくは夢のことについて一番詳しい。俺は勅使河原のずさんな対応に苛立ちながら、嫌味たっぷりに返す。


「そう怒らないでくださいよ。いずれこのバイトを正式に始めるとしたら、仲間たちとは仲良くなっておいたほうがよいでしょう。それに、現場のことについては実際に現場にいる人に聞くほうが良いに決まっていますしね。」


 それにしたって重要な部分くらいは教えてくれても良かったろうに。これ以上この男をせめても仕方がない。


「それで、今日ってバイトがない日ですよね。昨日なかった分の、振替みたいな感じですか?」


 バイトがあるのは平日だけ。俺はまだ研修のため毎日だが、実際に働き始めたら週一だ。昨日もあったはずだが、俺は夢を見ることなく目覚めた。今日はその埋め合わせで呼ばれたのだろうか。


「いや、別にそういうわけじゃないですよ。昨日は単に普段入ってもらっている人の都合がつかなくてお休みしただけですよ。さすがに研修中の君だけに任せるわけにはいかないですからね。」


「じゃあ今日はなんで...?」


「今日は事務的なことを少し。エンプサとの戦いはありませんから安心して大丈夫ですよ。」


 あの気持ち悪いのを見なくて済むと聞いて安心する。倒れ方がまた絶妙に気持ち悪いんだよね、あれ。


「今日は君をこのバイトに採用するかどうかを話そうと思っているんですよ。」


「でも、まだ一週間たってないですよね。もう決めちゃうんですか?」


 「まだ確定というわけではないですよ。結論から言うと、こちら側としては君を採用するということで問題ありません。あとは君次第です。」


 いきなりバイト採用の報告を聞かされ、怯む。


「俺次第っていうのは、どういうことですか?」


 「研修をうけてみて分かったとは思いますが、この仕事は夢の中で行うもの。非現実的で気味が悪いと思う人もいるでしょう。そのうえエンプサとの戦いには限りなく僅かとはいえ危険もあります。この段階で判断を促しているんですよ。この仕事を続けられるかどうか。」


 この仕事は間違いなく普通じゃない。他人の夢の中という不確かな場所で、エンプサとかいう得体のしれないものと戦わなければいけない。俺はこのバイトを続けるかどうかの判断材料にするために二つの質問をすることにした。


「二つほど聞いてもいいですか?」


「いいですよ、答えられることならなんでも。」


「まず、夢の中でこうして自我を保っていられるのはどうしてですか?鏑木さんから夢の中の意識を他人の夢の中に一時的に移すみたいなことを聞いたんですけど、それってどうやってるんですか?」


 人は誰でも睡眠中に夢を見ていて、朝起きた時に夢の記憶がないのは、ただ忘れているだけで本当は複数の夢を一度の睡眠で見ている、と聞いたことがある。夢の中で自分が夢の中にいることを自覚する人が時たまいるが、それにしたってあそこまではっきりとするはずはないし、ましてや意識的に手足を動かすなんてことはできないはずだ。最新の科学技術、あるいは信じられないことだが超能力かなにかで、夢の中での世界を実現しているのだろうか。


「うん...この際、そのことも含め確認のために、改めて私の口から概要をお伝えしておきましょう。」


 そういって勅使河原は机の上に肘をつき、指を組んだ。


「まずこ仕事の内容は、自身で感情が制御できなくなった人の夢の中に入り、その感情の集合体であるエンプサを倒すことです。エンプサの強さは感情の強さに比例していて、レベルAからZまであります。感情には愛情・憎悪・怒り・嫉妬・恐怖の五つの種類があって、それに応じてエンプサの形態も変化します。」


 ここまでの話は他の人に聞いていて事だった。

 とにかくエンプサを倒すということがこのバイトの内容だ。


「次にどうやって夢の中での活動を可能にしているのか、ということについてですが、あまり詳し事は話せないことになっておりまして、簡単に言えば人の夢の中に入り込むことができる装置があって、それを使っているのですよ。」


「でも、俺はいつも自分のベッドで寝てましたし、どうやってその装置を...」


まさか俺が寝ている間に勝手に忍び込んでその装置を取り付けたりしてたんじゃないだろうな。


「君から最初に電話をもらいましたよね。その発信元の現在地を企業秘密な方法で割り出して、その電話から一番近くにいる人の夢の中から意識だけを遠隔で取り出して、依頼主の方へと移す。意識の具体的な移植方法なんかは言えませんが、だいたいこんな感じです」


 結局、ぼんやりとしか分からないままだ。かといって、最新の科学技術的な装置やらなんやらが絡んでくるとなると、話を聞いたとしても理解できそうにないけれど。


「この活動は一応全国的に行われていまして、いくつかの区域に分割されていて、ここは関東エリア担当なわけです」


 この夢の中での仕事をしているのは思った以上に大きな組織みたいだ。それが一般に公表されず秘密裏に行わっれているところがだいぶ胡散臭いが…………


「最後に報酬の方ですが、エンプサ一体の強さに応じて支払われます。具体的な金額はバイト採用が正式に決まったのち、お伝えします。大体こんなところでしょうか。なにかご質問はありますか?」


 ここ五日の間に溜まっていた疑問には一応の答えはだせた。はっきりとは分からない部分はあるが、まあいいだろう。しかしどうしても聞いておかなければいけない二つ目の質問がある。


「じゃあ、最後に.....夢の中で死ぬと、どうなるんですか?」


「........」


 昨日、夢が崩壊する前に中野さんが言っていたこと。夢の中で死ぬとどうなるのか。考えなっかたわけじゃない。まがいなりにも敵と戦闘するわけだ。その上、夢の中でも痛みはしっかりとあった。先日、炎のエンプサを倒したときに負った軽い火傷は、目が覚めると消えていた。だからてっきり夢の中で死んでも単に目が覚めるだけかと思っていたが、中野さんの発言を聞くとどうやらそうじゃないらしい。


「夢の中で死ぬことは.....絶対に無いとは言い切れないですね。過去には実際に亡くなった方もいらっしゃいますし。」


 勅使河原はそっと目を閉じ、


「夢の中でどんなに大けがを負ったとしても、例え死んだとしても、当人の肉体にはなんの影響もありません。ですが、精神的にダメージを負うことになります。軽いケガ程度ならば問題ありませんが、大けがを負えば精神に重大な障害が残り、夢の中で死ねば心が死にます。」


 心が死ぬ.....それがどういう状況か、はっきりとは分からないが、それはいくら肉体が健康だったとしても生きているとは到底いえないだろう。


「この仕事で死ぬということは非常に稀で、少なくとも私が担当しているこの区域では一人もいませんよ。それほど心配するこではありませんよ。」


 本当にそうなのだろうか。中野さんの話ではレベルUなんてものが現れたとか言っていたし、めちゃめちゃ強いエンプサが現れる可能性もあるのではないか。


「この場で最終決定をしてもらうつもりはありませんよ。明日と明後日、二日ほどありますから。そこで考えておいてください。もしこのバイトをしても良いということでしたら、月曜日の夜、いつも通り寝てください。ですがもしこのバイトをするのが嫌であれば、いつもとは反対の方に頭を向けて寝てください。それでこちらからも判断できますので。」


「そ、そうですか。分かりました。」


「それだは今日はここまでにしましょう。良いお返事をお待ちしております。」


 勅使河原がそういうと視界が闇に飲まれた。



 それから月曜日の夜まで、俺はこのバイトをするかどうか悩み続けた。

 給料はいいし、なにより夢の中で自由に動き回って敵を倒すなんてファンタジーみたいで楽しいし、それだけなら断る理由もない。胡散臭いところはもちろんあるが、このわくわくはその不信感を払拭するほどだ。しかし、死ぬかもしれないという危険性が、俺を躊躇させる。

 ほんと、どうしようか......


 そんなこんなで悩んでいると、あっという間に月曜日の夜になった。

 俺は決断を迫られる。夢の世界への好奇心か、あるいは死への恐怖か。

 

 俺は枕を手に取りいつもとは反対の方に放り投げる。考えてみれば、こんなわけのわからないことで死亡リスクを上げる必要なんてないじゃないか。平凡な毎日でいいじゃないか。普通が一番。

 俺は言われた通り普段とは逆方向に頭を向け横になり、目を閉じる。短い間だったが不思議体験ができて良かった。もしかしたらこのバイトに関する記憶を消される、なんてこともあるかもしれないが、まあ多少残念ではあるが命には代えられまい。



 ......そういえば月曜日はあの馬鹿でかい刀を持った女の子の日だ。

 たしか相当な美少女だったな.....


そんなことを考えているうちに、徐々に意識が遠のいていき…………





 そして..........

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