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序:流刑

「ゼノ=アキュラは北の地へ流刑に処す」


 帝の機嫌を損ねた従妹の夫のせいで、ゼノ=アキュラは今まで積み上げてきた功績を全てふいにした。北の地は悪霊の住まう土地で、国の北方に住んでいる守人の護衛壁を越えた更に北を指す。そこには古来より軍が侵攻したとしても追い返される何かがあった。ほとんど情報のないその地をこの国は恐れた。南の国に侵出する事はあっても、北はない。

「死罪を免れたのはお前だけだ。他の家族とはもう二度と会う事はできないだろう」

 今までの自分の功績と、死んだ父の功績のためだろう。兄弟のいないゼノが多数の従弟たちの中で唯一、帝に名を覚えられていたらしい。恩情のつもりだろうが、北への流刑はある意味死に等しい認識だった。

「世話になった。息災で暮らせ」

 二十人からいた家人たちに資産を分け与える。他の親族の資産は没収されているはずだ。今までともに暮らしてきた家人たちが路頭に迷わない事が唯一の救いだった。

「ゼノ様……」

 爺やが声にならない声を上げる。理不尽な罪に思えるが、これは古来より続いてきた習わしである。故に帝には誰も逆らわない。ゼノは泣き崩れる家人たちに一度だけ頭を下げると、馬に乗った。家人たちの事は親友に任せた。奴なら悪いようにはしないだろうとゼノは思う。

「ゼノ=アキュラ!」

 去りゆく集団を追いかけてくる馬がいた。

「ロイサム将軍」

 南方の国々に飛蓮将軍と恐れられている将軍ロイサム=アッサイトである。本来であれば、一人で馬を飛ばしてくる事などあり得ない人物だった。帝の信頼も厚く、兵たちからも慕われている。何よりその用兵術はこの国の常識を覆し、周囲の敵をことごとく屠り帝の権威をかつてないほどに高めた人物だった。

「貴様が流刑と今、知った! 帝は何を考えているのだ!」

「ダメです、将軍。そのような事はおっしゃってはなりません」

 昨今ではちょっとした密告ですら身を亡ぼす。周囲の敵国をことごとく食らい尽くすこの国の帝にとって、脅威はこの国からしか生れ得ないものとなってしまったのだろう。帝の、心が壊れている。

「私が直接帝に申し上げよう。貴様という武将の損失は大きいと帝も分かってくれるはずだ」

「将軍、おそらくそれはないでしょう。あなたも分かっているはずです」

 最近の帝の狂いぶりはむしろロイサム将軍の方が理解しているはずだった。その言葉に継ぎの返しが思いつかないのだろう。黙ってしまった将軍にむけてゼノは言った。

「流れに逆らってでもやらねばならない事はあります。しかし、今のこの流れは強すぎる。少しずつ、流れを分散させていかない限り、流れに逆らった堤を作ったところで押し流されてしまうだけでしょう。少しずつです。私は間に合わなかったようです」

 帝への権力一点集中の弊害が出ている。若き頃の聡明な帝であった時は良かった。実際、この国はどこにも負けないくらい強くなった。

「おさらばです、将軍。お達者で」

 そしてその国すら届かない北の地へ、ゼノは流される事になった。帰ってきたもののいない土地で、彼は何を見、何を聞くのだろうか。


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