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四人目のハカリゴト?

 放課後。

 サクラはまだ屋上から帰れずにいた。すぐに家へ帰る気分にはなれず、気がつくと放課後になってしまっていたのだ。

 自分でも意外だった。

 こんなに落ち込むとは、こんなにツライとは思わかなった。

 可能性はほぼ無いとわかっていたし、もう終わっている恋だと自分でもわかっているはずだった。

 だけど、ああ、俺はやっぱりずっと片思いしていて。

 今やっと失恋したのだ。


 「キツイな……」

 「何が『キツイな……』よ。キツイのはわたしの方だわ」


 いきなり後ろから声をかけられる。ミズキだった。あまりの驚きに軽くパニック状態。


 「なん……でここに?」

 「昼休み、三人していなくなれば何かあると思うでしょう。で、探してたの」

 「昼間のこと、聞いてたの?」

 「ええ、あなたが自滅するところもね」


 ああ、やはりミズキは全部知っているのだ。俺のことを。俺の心を。すべてを告白して謝らなければならない。


 「ごめん」


 ミズキは黙って聞いている。


 「俺、君と付き合っていながら、好きな子がいたんだ。不誠実なことをしてた」

 「そうね。私に手を出していないからといって、許されることではないでしょうね」


 ズバっと言ってくる。普段のしずしずとしたお嬢様な雰囲気からは想像できない――などと場違いな感想を抱いてしまう。怒っているのだから当然だが。この子はこんな風に怒るのか。


 「でもね。そんなこと、付き合う前から知ってたわ」


 いきなり爆弾でも投下されたかと思った。


 「そんなこと、知ってたのよ。だってずっと、あなたを見てた。好きだったから!」

 「知っててどうして?」


 俺と付き合ったのか。


 「あの子を見れば、あなたが勝ち目のない片思いをしているのはわかったわ。だから、あなたがフラれる前に、手を出してもらえばいいと思ったの。そうすれば、あの子にフラれた寂しさと、好きな子がいる

のにわたしを抱いた罪悪感であなたを縛れると思って」


 ――は?


 聞き間違いだろうか。

 いや、確かに今ミズキはすごいことを言った。けど理解が追いつかない。


 「他のファンの子たちよりは自分は見込みがあると思ってた。それがたとえ、他の子を寄せ付けないためでも、わたしを選んでくれたから。でも、わたしは手を出してもらえなかった。あなたはわたしに謝って、そしてわたしを捨てるのでしょう?」


 言って、ぽろぽろと泣きだす。一生懸命こらえようとしているが、大きな目から大きな涙のつぶが次々とこぼれてしまっている。

 ああ。きれいだ。

 不覚にも、思ってしまった。

 こんな告白は初めてだ。こんなことを言われて無視できる男なんかいない。フラれたばっかりで、軽い男だと思われるかもしれないけれど。


 俺は、ミズキに惹かれ始めている――


 「嫌だぁ、捨てないで……」


 消え入りそうな声。


 「こんな俺でよかったら、これからも、俺の彼女でいてください」


 言ってしまった。ミズキは驚いている。でもやっぱり、きれいな、大きな涙のつぶが止まらない。

 ずるい。こんなの。これが全部計算だったとしても、全力で騙されてやる。


 「わ、わたし、ホントはこんな子だけど、いいの?」

 「うん、君のこと、もっと知りたい」

 「ホントに?」


 目を見てうなずく。


 「わたし、あなたが浮気しても、泣きながら最後には許してしまうわ。だからもう、わたしは(さくら)のものなのよ」


 がまんできなかった。思わず抱きしめた。


 「瑞樹(みずき)、もう君を悲しませたりしない」


 こんなきれいな涙は、だから今度は、喜ばせて、見たい――。

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