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きらめく闇の接吻  作者: 虻羅 羽霧
1/3

第一夜

はじめまして、小説初心者です。

初投稿ですので、右も左も分からないままオロオロやってます。


まだ先の展開をあまり考えてないので、かなりマイペースな更新になるかと思いますが、読んでいただけますとありがたいです。

たつるは秋葉原のネオンに呑まれていた。

いつもの景色が瞳に写り、またいつもの喧騒が彼の心に奇妙な安らぎを与えていた。


立は今年で36歳になる。

かろうじて続いている仕事も、苦労と憂鬱と得体の知れない不安しかもたらさない。


そんな疲弊とため息に埋もれた日常を少しでも忘れたい時、立は秋葉原の喧騒に身を委ねるのだった。

とは言え、立は世間一般で言うところのオタクとは少し違っていた。


秋葉原に来ても、買い物はほとんどしなかった。

たまに気まぐれで中古の電化製品やTVゲーム、それに電子楽器などを買う程度だった。

そして、買ってもすぐに飽きてしまうのだった。


立には、これと言って打ち込めるような趣味が無かった。

しかしながら、秋葉原という街はしきりと立の心にさざ波を起こし、仕事帰りで疲れきった立を招き寄せた。


何かが変わるわけでもない。

いつか、誰に悲しまれるでもなく東京のどん底で朽ち果てる。

そんな未来へ、確実に一歩また一歩と近づいていくのが怖かった。


色とりどりの喧騒は、さながらドブ川に映る儚い灯りのようだ。

そう、あの真夜中にどす黒く漂う、何処までも暗いドブ川に反射する幻。

いや、それはもしかすると既に己が溺れているドブ川の中から見上げた、もう手の届かない光なのかも知れない。


立はその灯りに飲み込まれていた。

自分が見えなくなる程の喧騒が好きだった。

いっそ、得体の知れない輩に声をかけられて後悔するような目にあってみようか、等と訳の分からない妄想さえ浮かぶ。

立は分かっていた。

一人になれば落ち着く。

そして、己を省みた瞬間に自己嫌悪に苛まされ、過去も未来も何もかも黒く塗りつぶしてしまいたい衝動にかられる。

だからこそ、そんな自分に制裁を与えたい。

誰かに与えてもらいたい。


いや…それは結局ただの妄想だ。

この日常を壊すなんて、本当はとてつもなく怖い。

そんな事をすれば、自分が自分でなくなるのではないか。

永久に閉ざされた暗闇の中で、死ぬことも生きることも嫌になって理由もわからずもがき苦しむのではないか。

今や立はネオンの只中で、自暴自棄と自衛本能の狭間を漂っていた。

何か、一つでも狂いだしたら際限なく堕ちていきそうな、どす黒いネオンが立の虚ろな瞳の奥で不気味な光を放っていた。


その日も、程よく自我を麻痺させた折に、だらしなく退散するはずだった。

いつものように背中を丸め、何も起こらない日常を呪いながらも安堵のため息を漏らし、意味もなく薄ら笑いを浮かべて地下鉄のホームへと沈んでいくはずであった。


しかし電車のガード下をくぐり抜けたあたりで、立は不意に突き刺さるような気配を感じて思わず硬直した。

それは生まれて初めて感じるような感覚であり、強烈な悪夢から覚める時のような感覚にも思えた。


そして、彼はふと後ろを振り返り―

一瞬、心臓が止まった。


雑踏に紛れて、奇妙な人影がこちらを見ていた。


黒いボロ布をまとった、女

いや、少女か。


何より異様だったのは、少女が両手に抱えたもの。

無骨な棒の先に、三日月のごとく弧を描いた刃。


その姿はまさしく、死神そのものだった。


秋葉原という場所柄、コスプレをして練り歩く人間がいてもおかしくはない。

しかし何故か、立はその人影を見た瞬間に凍てつくような恐怖を感じた。

言葉では言い表せない、黒く不吉な影が視えた。


違和感の正体は、周囲をせわしなく歩く人混み。

まるでその人影が視えていないかのように、完全に無視して素通りしていた。


その人影は、立にしか視えていないのかも知れなかった。

体から血の気が引いていき、背筋がゾクリとして立は目をつぶって頭を抑えた。


しばしの後、目を開けてもう一度そちらの方を見てみると。

少女、いや死神は跡形もなく消えていた。


立はホッと胸をなでおろし、同時に自らの状態にひどく不安を覚えた。

(俺、いよいよ頭おかしくなっちゃったのかな)


一瞬でも、死神などという不吉な幻覚が視えてしまった自分に、苦笑いをしてみる。

しかし、自分の精神が壊れてしまってもおかしくないと思い始め、脳がパニックになるのを必死で抑えた。


それから後は急に前後不覚に陥り、記憶が飛んだ。

気が付くと、自分の部屋でベッドに倒れこむ瞬間だった。


(つづく)

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