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魔力使いリョウ  作者: A99
第一章 終焉討伐編
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第七話

 目的を果たしたというのに、私達の雰囲気は晴れないままでした。

 炎獄山脈から下山した私たちは、真っ直ぐに麓の村である『テストリトリル』に向かい、人数分の馬を調達。馬の疲労を魔法もしくはポーションで回復させるという懐にダメージのある荒業を駆使して昼夜を問わず走り通し、ひたすら市場都市『ゲルペリア』を目指しました。

 その甲斐あって、私達は行きの二倍以上の速さでゲルペリアに帰還。転がるように冒険者ギルドに入り込み、調査の報告を終えたというわけです。

「……そうかい」

 私達の報告を聞いたのは、頭の薄い冴えない職員の方でした。何かに耐えるように俯いた後、黙々と事務処理をしていたのが印象に残っています。

 依頼自体は完了しました。成功報酬も受け取り、私達の評価も上がったでしょう。

 しかし、それを素直に喜べるわけがありません。依頼を完了させるために、大きな犠牲を払う必要があったのですから。

 彼はすぐに帰還すると言っていましたが……いえ、考えないようにしましょう。考えるだけで、私は……。

 今、私達がいるのは冒険者ギルド一階の食堂です。空はすっかり暗くなり、夕食には少し遅い時間帯になってしまいました。一応食事は頼んだのですが、時間が経ったせいですっかり冷めています。

 皆さん、手をつける様子がありません。食欲が無いのでしょう。もちろん、私も。

「……就寝」

「フフ、そうですね。気持ちの整理をつけるためにも、今はゆっくり休みましょう」

「……ああ」

 私と同じように、マックス殿も気落ちしています。無理もありませんね。彼にとって、キヘイ殿はお爺様のような存在だったと聞いていますから。

 家族を失ったように感じているのでしょう。彼の心中は、察するに余りある。

 このまま彼を眺めているのは、いい趣味とはいえませんね。それに、私自身も気持ちの整理をつける必要があります。

「姫様、私達も行きましょう」

「……そうですわね」

 喧嘩ばかりしていた仲ですが、マックス殿の様子を見てさすがに姫様も心を痛めているご様子。辛そうに目を伏せると、そのまま踵を返しました。

「……セリス。貴方は……大丈夫ですの?」

 冒険者ギルドから出て、私達の宿に向かう途中に、姫様が尋ねてきました。

「はい、姫様。騎士たるもの、失う覚悟は出来ています」

 半分本当で半分嘘の解答。失う覚悟は出来ていました。しかし、覚悟していた以上の衝撃が私を襲ったのです。

 久しぶりに会った貴方。大恩ある貴方。結局、何も報いることが出来ないまま、永遠に失うことになってしまいました。

 無力です。私は無力です。貴方に守られていたあの時と何も変わっていません。

 今度は守ると決めたはずなのに。守れるようになったはずなのに。それなのに、貴方に守られるだけだった。 

 流れる一筋の涙は、決別の証。振り返るのはこれまでです。

 さようなら。ずっとずっと、愛していました。

 私は騎士です。守るための存在です。冒険者となった今でも、それは変わりません。

 貴方を守ることは出来ませんでした。しかし、私にはまだ守るものがあります。

 見守っていて下さい。今度こそ、私は守りぬいてみせる。

 でも、もしも……仮に、もしも会えたその時は……。

 今度こそ、貴方を守っていいですか?


 ◆


 ベッドに横になってても、眠ることなんて出来やしない。いくら内装が豪華でも、いくらベッドが心地よくても、全く何も関係ない。

 イシュとニノの配慮には感謝してる。でも、申し訳ないがそりゃ無駄な配慮だ。

 眠れねえよ。眠れるわけねえよ。

 キヘイ。あのクソジジイ。

 思えば、声をかけてきたのはあのジジイだった。ソロ冒険者として伸び悩んでた俺を、無理やり今のパーティに入れたのは、あのジジイだ。

 利益がないと判断したら抜けていい。数回一緒に依頼を受けるだけでいいから。

 体の良い誘い文句さ。それにホイホイとついていったオレもオレだけどな。

 でも、心地よかった。居場所が出来るってのが、すごく心強かった。

 気がつけば、一年以上パーティを組んでいた。その間にオレの冒険者としての能力も上がって、今じゃAランクパーティの一員としても相応しい能力を手に入れたはずだ。

 依頼がない時も、一緒に行動していたさ。買食いして、酒場で騒いで、他の冒険者と喧嘩することもあった。

 ああ、初めて女を知ったのも、ジジイに誘われてだったな。あのジジイ、年齢の割りには性欲多すぎなんだよ。

 口には出さないけど、友人だと思ってたさ。利害関係だけで結ばれてるはずだったのに、いつの間にか本当の信頼関係で結ばれたパーティになってた。

 それもこれも、全部ジジイのおかげさ。感謝してる。

 ジジイはオレのことを孫みたいだって言ってた。オレも、ジジイのことは家族みたいに感じてた。

 オレには家族がいなかったからな。唯一家族といえる存在が、あのジジイだった。強くて、温かくて、ガキみてえにいつまでも一緒にいるもんだと思ってた。

 でも、これだ。

 あのジジイは死んじまった。あっさりと、まるで夢みてえに消えちまった。

 ジジイは夢か? あの家族みたいな時間は幻か? 全部オレの白昼夢だったのか?

 そんなことはない。ジジイはいた。家族みたいな時間は幸せだった。全部現実だった。

 ああ、駄目だ。どんどん負の方向に考えが膨らんでいく。ジジイとの時間のことだけを思い出して、これから先のことを考えて、気が滅入っていく。

 なあ、ジジイ。オレはこれからどうすりゃいいんだ? もうソロ冒険者だった頃には戻れない。あの二人は変だけど良い奴だ。でも、アンタがいなけりゃオレはパーティにいる意味が無い。

 なあ、教えてくれよ。オレはどうすればいい。わかんねえよ、オレは馬鹿だからよ。アンタが教えてくれなけりゃ、何もわかんねえんだよ。

 まだまだ死なねえとか言ってたくせによ、何であっさりと死んじまってるんだよ。オレを置いて逝くんじゃねえよ。

 オレに色々と仕込むんじゃなかったのかよ。アンタの全てを教えてくれるんじゃねえのかよ。オレは知らねえんだぞ。アンタのこと、全然何も知らねえんだ。

 チクショウ……何でだよ。何で死んじまうんだよ、クソジジイ。

 ジジイを失っただけで、この有様だ。もう何も失いたくない。もう誰も死なせなくない。

 嫌だ。もう嫌だ。誰も死なないでくれ。オレを置いて逝かないでくれ。

 怖いんだ。寒いんだ。やっと手にしたものが離れていくのが恐ろしいんだ。

 もういい。依頼の度にこんなことになるんだったら、もう冒険なんてしなくていい。

 なあ、ジジイ。オレは一体、どうすりゃいいんだよ?

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