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魔力使いリョウ  作者: A99
第一章 終焉討伐編
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第二話

 冒険者にはランクが存在する。それと同じように、依頼にもランクが存在する。

 登録したばかりの新人は最低ランクであるEからスタートして、実績を重ねることでD、C、B、A、Sという順番で上がっていく。依頼のランクも、同じようにE、D、C、B、A、Sというように並んでいる。俺もランクを上げるのには苦労したもんさ。

 依頼と受けるときは、自分と同じランクの依頼までしか受けられない。Dランクの冒険者だったら、E、Dランクの依頼しか受けられないって具合にな。

 例外が、冒険者の集まりであるパーティだ。パーティにも同じようにランクが存在するが、この場合は自分たちの一つ上のランクまでだったら依頼を受けられる。

 冒険者はパーティを組んでる奴が多いが、その理由は専ら一つ上のランクの依頼を受けるためさ。やっぱり、自分よりも上のランクの依頼ってのは、報酬が魅力的に感じるんだろうな。その分危険もあるから、ハイリスク・ハイリターンってやつだけどな。安全か利益か、どっちがいいのかは俺にはわからねえな。

 で、今回俺が受けようとしている依頼である炎獄山脈の調査は、Sランク依頼だ。つまり、最上位であるSランク冒険者か、ベテランの集まりのAランクパーティしか受けられないってことだな。それだけ、炎獄山脈は危険な地帯だってことだ。

 もちろん、俺は受けられる。これでも俺はSランク冒険者だからな。どんな依頼でも持って来いだぜ。

 ……浮気調査とかは勘弁だけどな。そういうのは専門の奴に頼んでくれ。

 さて、そろそろ受付に向かうとしますか。早くしないと、締め切られちまうかもしれないからな。


 ◆


 依頼を受けるための手続きをしようと受付に向かうと、異様に冒険者が集まっているカウンターがあった。それも、男ばかりだ。

 一体何だというのか。俺の顔なじみは一日中受付を担当してるはずだから、もしそこに集まってるんだとしたら、すごく困る。

 野郎どもが集まってるのは二番カウンター。誰が担当しているのか確認すると、このギルド一番人気の受付嬢のサティだった。ほんわかした雰囲気が癒されると人気の受付嬢だ。なるほど、集まるのも納得だ。

 それに対して、隣の三番カウンターは閑古鳥が鳴いている。黒髪黒目、ギルドの正装をキッチリと着こなした、髪が薄い小太りの冴えない男が担当者だ。

 担当がこいつだといっても、この差はひどいな。差別にしか見えねえ。こいつ泣くぞ。

 まあいい、やることは変わらない。俺がやることは、依頼受託の手続きをすることだ。

 顔なじみが担当している三番カウンターへと俺は向かう。チラリとサティが視線を向けてきたが、そんなもん無視だ。何故かショックを受けている表情だったが、それも無視だ。

 ……前にしつこくからまれてるのを助けたことはあるが、接点はそれくらいだ。あまり関わるような仲じゃない。

 ちなみに、前に別の冒険者がサティのことを同じように助けた時も、そいつに熱っぽい視線を向けていた。つまり、今のターゲットは俺だってだけの話だ。無視するに限るね。

「リック、炎獄山脈の調査依頼を受ける」

 いつも受付を担当している顔なじみ――リックに、俺はそう話した。

 俺が依頼を受けるときはいつもこいつだ。何度も何度もやり取りしてきたから、色々な手続きも慣れたものさ。

 案の定、リックは無言で頷くと、手際よく処理をし始めた。いつも思うことだが、仕事が速い。何でこいつは不人気なんだろうな。

「……君以外はAランクパーティだ。……無茶はしないでくれよ?」

「わかってるさ。無駄に死ぬつもりはねえ、心配すんなよ」

「……ならいいけどね」

 いつものことだが、ボソボソと喋る奴だ。悪い奴じゃないんだが、この喋り方と髪が薄い頭のせいで冴えないイメージが拭えない。

 有能なんだけどな。良い奴だし。本当、こいつは損してばっかだよ。ギルドでも正当に評価されてるのかね?

 まあ、そんなのは俺の心配することじゃないな。俺の仕事は、炎獄山脈を調査することだ。ついでに、昨日から俺が感じてる不安も解消されればいいんだけどな。

 集合時刻まであまり時間がない。さっさと行くとしよう。

 集合場所は、ギルド一階に設置されている食堂だ。多数の冒険者を必要とする依頼では、ここが集合場所になることが多い。

 一階に降りて、辺りを見回す。朝食を食べている冒険者が多い。入り口から出てる冒険者は、これから依頼に向かうのだろう。少しすれば、俺も同じように冒険者ギルドを出て行くことになるんだろうな。

 入り口から程近い席に、妙に殺気立っている集団を見つけた。装備を魔法で解析すると、『炎無効化』及び『熱無効化』の効果が付与されていることがわかった。炎獄山脈は、地獄みたいに炎と熱で支配された山脈だ。おそらく、こいつらで間違いないだろう。

 一直線にその集団に向かう。途中でウェイトレスにぶつかりそうになったが、それは避ける。俺の後でぶつかった兄ちゃんがウェイトレスに文句が言ったが、その瞬間ウェイトレスにぶちのめされた。

 近づいていく俺だが、その集団は俺に全然気づいていない。いや、二人ほど俺を見て驚いた表情をしているが、すぐに視線を戻す。反応を見る限り、俺のことを知ってるんだろうが……何してやがるんだ?

 男四人に女二人。若い男と若い女が睨み合っているのがわかる。よく見ると、殺気立っているのはそいつらだけで、他の連中は呆れていたり、眠そうだったり様々だ。

 まったく、トラブルはゴメンだぜ。ただでさえ厳しい依頼になりそうなのに、余計な問題は起こさないでほしいもんだ。

 まあ、冒険者同士のトラブルなんて日常茶飯事なんだけどな。こいつらも冒険者だ。少なくとも、依頼中に問題を起こすことはないと信じたい。仮に問題を起こしたとしても、どっちかのグループをぶちのめせば問題が再発することはないだろうさ。

「炎獄山脈の調査依頼を受けた冒険者で間違いないな?」

 努めて冷静に声を出す。声に反応して全員俺を見てきたが、同じような表情で驚いてやがった。Sランク依頼なんだから、Sランク冒険者が出てきてもおかしくないだろうに。

「まさかお主が出てくるとはのう」

 争いなど我関せずといった態度を取っていた、白髪の目立つ壮年の男が俺に言う。ついでに、その鋭い眼光で値踏みするように俺を見てくる。

「魔力使いですね、お噂はかねがね」

 続いて、騎士然とした女。白銀の長い髪を後ろで一つに括り、強い意思を感じさせる夕焼けのような赤い瞳の持ち主だ。

 着ている鎧は、髪と同色の白銀の鎧。その鎧に何処かの紋章が彫られていることから、元々騎士だったんだろう。見たことのある紋章の気がするが、あいにく思い出せなかった。

「ケッ、Sランク冒険者様かよ……」

 不満そうに言うのは、一番ガラが悪そうな男。いや、少年といったほうが正しいか。光り輝く黄金の髪と、強気に輝く金色の瞳。容姿だけ見るとどこかの王子のように甘い顔立ちをしてるんだが、言動や性格はチンピラ以下のガキそのものだ。

 こいつは何が気に入らないのか、俺を睨みつけてきやがる。生意気な奴だ。だが、この若さでAランクチームの一員とは、実力だけは確からしい。

「その口の悪さはどうにかしろと言っておるだろう」

「アナタ! 口を慎みなさい!」

 ガラの悪い少年に注意をしたのは、壮年の男ともう一人。燃えるような赤い髪と、髪と対照的な深い青の瞳を持つ、この中では一番気品のある少女だった。純白と漆黒がアンバランスに配色された豪奢なドレスを着ているのも特徴的だ。

 怒ってはいるが、その姿勢は綺麗なもんだ。教養が深いことが窺い知れるな。だが、そのドレスで冒険をするのは如何なものか。いや、本人がいいんだったら俺は何も言わないけどよ。

 しかし、今回のメンバーは若い奴が多いな。それだけ才能に恵まれてるってことなんだと思うが、少し不安だな。若い内に昇ってくるってことは、それだけ成功してたってことだ。

 今回の依頼、嫌な予感が止まらない。下手を打てば失敗――いや、もっと厄介なことになる可能性がある。ようは挫折ってことなんだが、果たしてこいつらに耐えられるかどうか。

 ……無事に済めばいいけどな。

「あーうっせえうっせえ。これだからヒステリー女は」

「本当に下品な男。これだから野蛮人はいけませんわ」

「なんだと?」

「なんですって?」

 ……心配してたのが馬鹿らしくなってくるな。

 まあいい、何かあれば俺がフォローすればいい話だ。出来れば全員生き残れるように、全力を尽くすとしますかね。

「申し訳ありません、魔力使い殿。普段は凛とした素晴らしいお方なのですが……」

 下品な人間を見つけると落ち着きがなくなる。騎士然とした女はそう説明してきた。

 言っちゃ悪いが、冒険者なんてのは下品な集団の集まりだ。金が大好きで、下半身で物事を考える連中だ。そんな中であの少女がやってこれたのは、これは奇跡に近いんじゃないかと思うね。

 まあ、全員が下品とは言わないけどな。俺は……まあ、下品かもしれないが、白髪の男みたいにドッシリと落ち着きのある人間もいる。騎士になったことがあるんだったら、それ相応の品格ってのを持ってやがる。

 もっとも、そういうのは一握りの冒険者だけだ。ほとんどの冒険者は、俺みたいな下品な人間だよ。

 そう騎士然とした女に言うが、女は笑って受け流す。

「私はそうは思いません。貴方は立派なお方だ」

 真正面から、目をしっかりと見て言われて、俺は思わず恥ずかしくなった。クソ、頬が熱い。こんなのキャラじゃねえっていうのによ。

「初対面だろうが。そんな簡単に判断できるかよ」

 ああ、駄目だ。自分でもわかる。こんなの、ただの言い訳か何かだ。ガキみてえに強がってるだけだ。

 案の定、女は俺を見て笑ってやがる。しかも、微笑ましそうにだ。お前は俺の保護者かよ。

「判断出来ます。貴方の経歴、噂、そしてお会いした時の印象。判断材料としては十分です」

 そこで女は言葉を切る。そして、俺に綺麗な笑顔を見せてから、こう言ってきた。

「貴方は素晴らしい人だ。私は貴方を好ましく思います」

 しばらく、俺は何も話すことが出来なかった。面と向かってこんなこと言われたことなかったからな。恥ずかしいやら嬉しいやら、頭の中が滅茶苦茶だったんだよ。パニックといってもいい。

 結局、顔から熱が引くのにしばらく時間がかかっちまった。その間も若年組が言い争ってたのは、さすがといえばいいのかね。

 とにかく、何とか復活した俺は、移動するために声をかけたわけだ。

「お話はそれまでだ。さっさと行くぞ」

 俺がそう声をかけると、ギャーギャーと喚いている若年組以外が立ち上がる。ガラの悪い少年は白髪の男に、気品のある少女は騎士然とした女に促されて、ようやく立ち上がった。

 まったく、先が思いやられるぜ……。

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