終わりと始まり
今回は少し短いです。
あれから時間が経ち、私は今、城で帝国軍と戦っている。
私とともに戦っていたダンも三十分前に人数差で打ち負け、死んだ。
北の外壁門で私と一緒にいた兵士は皆死んだ。
西と東に行った兵士は数時間前に全滅したと報告が来た。
西と東が全滅したと聞いた時、私たちはまだ外壁門で敵を止めていたが、このままでは西と東から帝国軍が来て囲まれるため、すぐに私たちは外壁門を切り捨て、貴族街まで後退した。
なんとか囲まれることはなかったものの、こっちの戦力は始めの五分の一以下。
対して帝国軍は三万と数千程、人数差は大体三十倍以上。
囲まれていないとしても、正面から打ち合うだけですぐにやられるほどの戦力差。
例え打ち合いたくなくても、敵は止まらず、どんどん攻めてくる。
一人また一人と味方が減っていき、今では一人となった。
一人になった私は戦いながら少しずつ後退し、城まで下がることに成功する。
城ならば、前から敵が来ることはあっても、後ろからは来ない。
帝国兵の剣を刀で受け流し、そのまま喉を切り裂く。
その隣で味方が死んで怯んだ帝国兵を下から切り上げ、レザーアーマーもろとも切り裂く。
刀を振るたびに人が死んでいく。
私に斬られ、地に沈んでいく帝国兵の後ろからすぐにまた新しい兵帝国兵が襲いかかってくる。
四人の帝国兵が同時に剣を振るってくるのを、バックステップで避け、一番扱いなれている氷属性の魔法名だけを呟き、攻撃する。
―――――『破滅の冬』
無詠唱は即時発動でき、相手にどんな魔法か発動させるまで悟らせないという利点があるけれど、同時に魔力消費が少し多くなるし、制御も難しくなる。
完全に詠唱している時間なんてない私は、魔法名だけ唱え、詠唱破棄することによって、無詠唱ほどとはいかないまでも、すぐに発動出来る上に、魔力消費もある程度無詠唱に比べて抑えれる。
私が魔法名を呟くと同時に、周囲にいる私以外の人間全員が凍りつく。
今ので大体数百くらいかな……。
「お前たちは下がれ」
凍りついた帝国兵の奥から貶すような感じの声が聞こえてくる。
金属がぶつかる音が聞こえ、全身を鎧に身に包み、大剣を手に持った者が前に出てきた。
顔はヘルムで見えないけれど、声からして男だろう。
「このままでは兵が全てやられてしまいそうだからな。もうそろそろだろうが、我らが相手をしてやろう。ガルム、レイ」
新たに二人の人間が前に出てきて私と対峙する。
一人は鎧とヘルムは同じだが、大剣の代わりに大きな盾と片手剣を持っており、もう一人は鎧ではなく、ローブに長い杖、おそらく魔導師だろう。
「手足なら後からいくらでも治るが、殺しはするな」
「「了解」」
「受けてみな!」
そう言うと同時に盾を持ったやつが私に向かってくる。
盾の奴が先まで相手していた帝国兵の速さを圧倒的に凌駕していた。
間合いに入ると同時に振るわれる片手剣を受け流し、反撃するも、盾に弾かれる。
「―――――『土槍』」
真上にいるものを貫かんと生えてくるそれを下がって避ける。
下がると同時に、後ろから人の気配を感じ、咄嗟に刀を背に回し背後に迫る攻撃を防ぐ。
そのまま追撃を仕掛けようと思ったとき、盾の奴に邪魔をされる、更に魔法も飛んでくる。
魔導師を先に潰そうとしたら、盾と大剣の二人が間に割り込んでくる。
敵ながら素晴らしい連携だった。
十分経った頃から、このままでは勝てないと判断した私は魔法を使い始めた。
戦っている三人だけでなく、その三人と私を囲んでいる帝国兵ごと魔法で攻撃したりもした。
私が魔法を使い始めてから五分もしない内に魔導師が脱落し、十分が経つ頃には大剣使いにも止めを刺し、残る盾持ちも瀕死の状態だった。
盾は既に跡形もなくなっており、片手剣も半ばで折れ、全身鎧もいたるところが裂け、吹き飛んでいる。
全身血だらけで既に意識もほとんど残っていないだろう。
普通ならばこのまま止めを刺し、確実に息の根を止めるのだが、私はこのまま放っておき、士気が下がりつつある帝国兵に魔法を放つ。
どれだけ時間が経ったのだろうか、
どれだけ時間を稼げたのだろうか、
手に持つ刀と魔法で終わりの見えない戦いを続けていた時、男の声が響いた。
「テル・ミステアよ、武器を捨てよ。さもなくばこのクラリス・ミステアが死ぬことになろう」
モーゼが海を割るように、帝国兵の中から2メートルは遥かに超える大きさの男がクラリスを連れて現れた。
「クラリス!」
思わず妹の名を叫んでいた。
「お姉さま……」
弱々しい声が場内へ響く。
見たところ、クラリスに外傷がないようだった。
「武器を捨てろといったのだ。早くしろ」
従わなければどうなるかなんて分かりきっている。
私はその人物の目の前へ刀を投げ捨てる。
「そして、これを付けて降伏しろ。元々はクラリス姫だけを捕まえ、お前は死んでもらうつもりだったのだが、陛下の気が変わったようだ。喜べ、お前も捕まえよとの事だ。おい」
おいと呼ばれた者は私の所へ歩み寄り、手錠を渡してきた。
奴隷が付けるような物で前世の警察などが使っていたようなものとはまるで違う。
鎖は付いていないものの、見れば一目で拘束具だとわかるだろう。
私は何も言わず、それを受け取り、両手にはめる。
「それには魔法を封じる効果がある。もっとも、その絶大な効果の所為で使用条件が中々厳しくてな、本人が自らつけなければ効果を発揮しない」
「あぁ、それとクラリス姫と一緒に避難していた住民は皆殺しだ」
私の完敗だった。
妹の意思を裏切って逃がし、時間を稼いだつもりだった。
しかし、現実は住民も守れず、愛する妹も守れていなかった。
私は全身の力が抜け、崩れ落ち意識を失った。
後の学者はこう言った。
これがミステア王国の終わりであり、テル・ミステアの始まりだったと。