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亡国の姫生活  作者: Yukie
第一章 ミステア王国の滅亡編
5/7

悔しさと悲しみ

前話にて、テルの母が宰相という設定を後付けしました。

宰相という存在をすっかり忘れていました、申し訳ありません。



 ついに帝国軍が私の射程距離に入った。

 コストパフォーマンスのいい中級魔法の『氷針アイスニードル』で帝国兵を貫き、『風の刃ウィンドカッター』で切り裂いていき、敵の数を減らしながら帝国兵の士気を削いでいく。

 人を殺すのは初めてだけれど、それを気にしている余裕はない。

 手加減なんてしてたらすぐにこっちがやられてしまう。


 しかし、帝国軍の士気は未だにほとんど下がらず、人数も数百人ほど減った程度。

 この距離で攻撃できる魔導師は帝国側にはいないらしく、始めは一方的に攻撃し人数を減らせたけれど、すぐに、防御魔法で抵抗してきて余り敵を倒せなくなった。


 そしてそのまま、帝国軍の魔導師と騎士団の魔導師の射程距離まで詰められる。

 帝国軍の至るところから属性もバラバラな魔法が雨のように飛んでくる。

 騎士団も魔法を放ち、飛んでくる魔法を撃ち落とし、防御魔法で自分たちや外壁を守ろうとしているのだが、魔導師の数が違いすぎた。


 私も範囲魔法なども使いながら撃ち落としたりしていたけれど、それでも圧倒的な人数の差により、撃ち漏らした魔法が兵士に当たり、外壁に当たる。

 

「外壁を捨てます!」


 このままではすぐに全滅してしまうと判断し、外壁を捨て後退を指示する。

 

「お前たち下がれぇ!! 街中で迎え撃つぞ!」


 私の声に続くようにダンが叫び、無事な兵士は怪我をしている兵士を支えながら外壁を駆け下りる。


 騎士団が後退する時間を稼ぐため、『氷壁アイスウォール』と『土壁アースウォール』を唱え、外壁の門を隠すように覆う。


「はぁ……はぁ……」


 元々は二メートル前後の大きさのものを、無理やり魔力を多く消費して十メートル前後ある門を覆ったため、今ので全魔力の二割ほど消費してしまった。

 

 私は『氷壁アイスウォール』と『土壁アースウォール』がちゃんと発動しているのを確認してから、乱れた呼吸を整えるまもなく外壁を後にする。



 

 今私が考えているのは騎士団を3つに分け、一つを外壁門から王都の中心へ伸びている中央通りに、残る二つは中央通りから一つ隣の大通りに。

 中央通りにはぎっしりといろんな店が建っているけれど、それでも路地もあるし、行っての距離ごとに、中央通りの垂直に平民街を一周するような通りも存在する。

 そのため帝国軍を囲むようにしなければ、逆にこっちが囲まれてしまう。

 しかし、元々帝国軍に比べ圧倒的に少ない騎士団を更に分けないといけないため、帝国軍の左右を囲む騎士団は路地裏から出てくる帝国軍は勝てても、通りなどの一度に多くの人数が通れる場所だと人数でごり押しされたら打ち負ける。


 なら、通りは魔法で通れないように……、ってそれだとすぐに壊されちゃうし……。


 うぅ……、確かに指揮の仕方や戦法とか習ったけれど、あんまり得意じゃなかったんだよね……。


「ダン、今騎士団を3つに分けようと思っているのですが―――――」

 

 今私が考えていることをダンに話す。


「確かに通りの所は数で押されたら打ち負けますね……。ならいっそのこと、通りを通れなくするというのはどうでしょう。火で通れなくした場合は水の魔導師で消されますが、時間は少しは稼げるでしょうし、それに加え、建物を崩し、足場を悪くしておけば更に時間も稼げるでしょう」


 このくらいしか思いつけなくて申し訳ありません、とダンは謝ってくるけれど、ダンの話を聞いて閃いた。


「火等ではなく、魔法で穴を作るのはどうでしょうか。それならば帝国軍は渡るためには土の魔導師を動員しなければいけませんし、その場合その魔導師を攻撃すれば魔法は防げます」


 っと言ったところで更に閃く。

 正面組も穴を作れば時間を稼げるし、正面にも土の魔導師が必要になってきて左右の穴に動員される土の魔導師も減る。


 この事もダンに話し、それでいきましょう、ということになった。


 外壁門を通り過ぎてすぐのところに穴を作る。横は通りの端から端までで歩けるところがないようにし、縦は二十メートル程で深さは十メートル程度。

 魔力を結構消費したけれど、それに伴う充分な働きをしてくれると思う。


 この穴を超えられるまでは、左右の騎士団の出番はなく待機となる。

 左右の騎士団には全ての土魔導師を振り分け、正面組で土属性が使えるのは私のみ。


 得意な属性は氷だけれど、ほかの属性も全て上級以上だ。

 


 準備が終わり、休む間も無く外壁門は帝国軍の強烈な魔法により打ち破られた。

 外壁の上で戦っていた時にはこんな強烈な魔法を使っていた魔導師はいなかった。

 いたら、もっと早く外壁を突破されていたはず。

 となると、これは連携魔法かな。


 連携魔法は多人数で同時に詠唱することによって、一人では扱えないような魔力消費が多い魔法を唱えたり、一人でも唱えられる魔法を多人数で詠唱することにより、強化することができる。



 門を打ち破った帝国兵は勢いよく突入してきて、目の前の穴の存在に気がつくけれども、後ろから次々に進んでくる味方に押され、穴に落ちていく。


 考えていたのと違う結果になったけれど、いい結果だからよしとする。


 百から二百人程落ちたところで、ようやく止まる。


 見た限り、穴に落ちた帝国兵ははじめの方は十メートルの高さから落ちたため最低でも重傷だろうけれど、最後の方に落ちた帝国兵は帝国兵の上に落ちたため、軽傷や無傷がほとんどかな。


 このまま放っておくのも危険なため、すぐに『氷針アイスニードル』で止めを指す。

 地面から生えた『氷針アイスニードル』はそのままにしておく。

 もしかしたら帝国兵が落ちた時にそれで倒せるかもしれないしね。


「詠唱しているものを優先的に狙ってください! 魔法が使えないものは弓で攻撃を!」


「「「「はっ!」」」」


 これだけ帝国兵が密集しているなら、狙わないはずがないよ。


 目の前には門の端から端まで隙間なく帝国兵がおり、門の外にもずっと帝国兵が見える。


 正面に見える帝国兵に、威力を強化した『風の刃ウィンドカッター』を放ち、数十人倒す。

 盾で防ごうとした兵もいたけれど、威力強化した『風の刃ウィンドカッター』は防げない。

 けれど、盾で防ごうとした帝国兵のところは、後ろへ『風の刃ウィンドカッター』があまり貫通せず、被害が少なかった。



 そのまま、私は門の外へ『炎旋風ファイアーストーム』を複数放つ。

 今、門の外には帝国軍がぎっしり詰めているはずである。

 これで大きく人数を削り、帝国軍の士気を削ぐことが目的だ。


 すぐに外から数多くの悲鳴が聞こえてくる。

 思わず耳を塞ぎたくなるが、ぐっと耐える。


 やった私が目を背けては、耳を塞いではいけないだろう。


 数十分程暴れ続けた『炎旋風ファイアーストーム』も消え、門付近には帝国兵はいなくなった。


 『炎旋風ファイアーストーム』を見た帝国軍は後退し、射程範囲外まででてしまったけれど、あの大人数だ、指示を出してから動き出すまで時間もかかるため、数千人程減らせたと思う。


 士気もかなり削ぐことができたみたいで企みは成功といってもいいのだが、帝国軍が全く近寄ってこなくなった。


 そのため、考えていた作戦も使えなくなり、外壁の上に見張りを立て、私と騎士団長のダン、副団長のライアと話し合っていた。


「これで、考えていた作戦は使えなくなりましたが、時間を稼ぐという意味では大成功です」

「しばらくは帝国軍は警戒して動かないでしょう」

「テル様! 団長! 副団長! 帝国軍が動き出しました!」


 走ってきた見張りの兵士の話を聞くと、帝国軍は戦力を3つに分けたとのこと。

 一つはこのまま正面に残り、残る二つは外壁沿いに左右に進みだしたと。


「恐らく狙いは東外壁門と西外壁門ですね。そこから王都内に侵入しようということでしょう」


 ダンが私が考えていたことと同じことを言う。


 これはまずい。


「左右で待機している騎士団はそのまま東と西の外壁門へ向かってください。正面組の半分も東と西へ。選抜はダンに任せます」



 中央通りと隣の通りという距離ならば、戦力を分けてもまだなんとかなるけれど、北、東、西の外壁門と離れた距離になるとカバーは全くできなくなる。

 

 ダンの選抜が終わり、騎士団の人へ謝罪をして送り出す。


 この作戦は生存率は0だろう。

 しかし、私は時間を稼ぐために指示を出すしかない。

 時間を稼ぐために死ねと言っているようなものだ。


 私が指示しても、誰も文句も言わずに了承し、そんな指示しかできなかった私は兵士の人達に謝罪したが、兵士の人たちは、そんな悲しい顔しないでくださいと私を励まし、文句も言わずに東と西の外壁門へ向かっていった。

 暴言など言って恨んでくれた方が、まだ楽だったかもしれない。


 あんなにいい人たちにこんな指示しか出せない自分が嫌になる。


 悔しくてか、悲しくてかはわからないけれど、涙がこぼれ落ちる。


 泣いたのは5歳の時記憶が戻ってから初めてだった。


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