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亡国の姫生活  作者: Yukie
第一章 ミステア王国の滅亡編
4/7

王国と帝国

今回から本格的に物語が始まっていきます。

早速お気に入り登録と評価をいただきました。

ありがとうございます。

 14歳、前世なら中二病が流行し始める頃。

 父と母は協定の署名のためにグルリア帝国に行っている。

 何の協定なのかは聞いていないし、私とクラリスは城でお留守番。


 ここ数年、臨時講師してくれる人がいなくなり、一人でイメトレしたり、新しい技や魔法を考えたりなどをしている。

 妹は武術の方は苦手だったらしく、習い始めて一年が経った時には魔法を選んだ。

 武術はダメでも、魔法の方は才能があったことや、努力を続けたおかげで補助や光属性の回復魔法は私よりも上である。

 妹は風属性、光属性の二属性に適性があったんだけど、攻撃系は中級魔法に最近入ったくらいである。

 


 そうそう、私達は10歳の誕生日の時に私は刀を、妹は杖を父と母からプレゼントされた。

 それ以前は私は『氷の剣』で刀を作ってしばらく戦っていたんだけれど、ある日父と母とアーサーさんに練習用の刀をプレゼントされ、それを使って練習していた。

 練習用の刀はその名の通り、練習のためだから切れないように刃引きされていた。

 けれど、10歳のときは前世で言う真剣、本当に切れる刀をプレゼントされた。


 本当は内緒で鍛冶師に依頼したかったらしいんだけど、この世界には刀は存在しないため、私が直接鍛冶師の人に形状などを伝え、試しに作られたものを見て意見を出し修正。

 そんなことを半年ほど続け、完成した。


 クラリスのほうは最初から私も混ざって一緒に考えて杖を依頼した。

 回復魔法を扱いやすくする光の魔石を杖に埋め込み。もしもの場合その杖で剣を受け止めれるように、頑丈に、しかし重くならないように。といった感じになった。


 デザインもクラリスに合うように頑張った。


 と、大体こんな感じかな。


 そろそろ休憩を終えて、お昼まで練習しよっか。


「テル様っ!!」

 声が聞こえる方へ振り向くと、騎士団長のダンが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「緊急事態です! 王都の周辺にグルリア帝国軍を発見。北から徐々に距離を詰めてきています!」


 父がいないこの時期に……、いや父がいるのはグルリア帝国だから、最初からミステア王国に戦争を挑むために……?



 元々資源が豊富な国だったけれど、父と母はそれぞれ一流の剣士と魔導師として有名であり、父は兵の指揮も優秀なため今まで責められたことはなかった。

 しかし、今は父と母共にいない。

 

 父と母がいない緊急時はすべての兵士が私の指揮下に入る。

 王が指示できない場合、普通ならば宰相が案を出し、王族が許可を出したりするのだけど、この国の宰相は母である。

 そのため、父と母にそういう関係のものも教え込まれている私になるのだ。



 その二人には護衛がついているとは言え、一国の戦力に比べたら微々たるもの。 父と母の生存は厳しいだろう。

 悲しいけれど、今悲しんで時間を無駄にしたらもっと最悪のことが起こる。


 父と母がいない今、私が指示を出さないといけない。

 父から直接習ったこともあるけれど、実際に行うのが今が初めてだ。

 でもやるしかない。


「すぐにグルリア帝国に交渉の話を伝えてください。多少不利な条件でも飲むと。念のため住民を南にある迷宮都市レイヤに避難させなさい。避難には見習いから新兵が護衛を」

「はっ!!」


 父や母からは王族は普段は住民から支えてもらっているけれど、緊急時には命をかけて守り抜かなければいけないと何度も言われてきし、私もここ数年の間で納得している。

 一応交渉を申し込むけれど、恐らく相手にもされないだろう。


 交渉なんてせずに攻めて勝てば無条件ですべてが手に入るのだから。

 いつもなら父や母がいて厄介でも今はいない。

 グルリア帝国からしたら交渉になんの旨みもない。



 私は王族としての使命に納得はしているけれど、妹までその使命に巻き込みたくはないし、幸せになってもらいたい。

 このまま普通に暮らしていても、いずれは好きでもない相手と結婚することになっていたと思う。

 今なら妹を住民と一緒に逃せば、王女としての立場はなくなるけれど、自由に生きれるかな。


 まずは、クラリス探して説得しないとね。

 この時間クラリスは書庫にいるかな。

 私は書庫に向かって走り出した。







「嫌です、私もお姉さまのそばにいます!」

 何度言ってもクラリスは頷いてくれない。


 中庭から飛び出したあと、すぐに書庫に駆けつけ、中にクラリスとクラリス専属のメイドがいるのを見つけた。

 どうやら城が慌ただしくなっているのには気がついていたようで、一番初めにそのことについて聞かれた。


 私は全て隠さず話し、クラリスには住民と一緒に逃げて欲しいと言ったけれど、今の状態が続いている。


 そろそろ、時間がギリギリかな。


 仕方がないけれど、力づくで逃げてもらうよ。


「クラリス、ごめんね。でも目が覚めたら王女という立場に縛られずに自由に生きて幸せになってね」


 魔力で身体強化を行い、クラリスの真後ろへ回り込み、手刀を打ち気絶させる。

 眠らせる魔法もあるにはあるんだけれど、あれは眠るように誘導するような感じだから、今のように興奮しているクラリスには効果がない。


「ルゥさん、クラリスを連れて住民と一緒に逃げてくれませんか?」


 ルゥさんに頭を下げお願いする。

 王族が使用人に頭を下げるなんてありえないけれど、今私は一人の姉としてお願いしているから、頭を下げるのは普通である。


「わ、わかりました! この命に変えてもクラリス様を亡命させてみせます」







 日が暮れる少し前、交渉の話を持って行かせた兵士が一人だけ戻ってきた。

 その兵士の話を聞くまでもなかった。

 交渉は受け付けないそうだ。


 戻ってきた兵士の話によると、野営の準備をしていたそうだ。

 つまり、戦いは恐らく明日。


 油断はできないけれど、これで、無条件で半日以上時間は稼げたことになる。

 けれど、半日ではまだ足りない。


 兵士の報告によると敵軍の数5万人。対してこっちは5千人前後。


 圧倒的な不利。籠城してもこの戦力差は覆らない。けれどするしかない。


 帝国軍と避難している住民の間には王都があるから、もし帝国が住民の方へ向かったとしても、先に私たちが回り込める。

 監視の兵士を外壁に残し、ほかの兵士を三分割させ、常に一つは起きているようにし、いつでも動けるようにする。


 夕食をとり、すぐに動けるようにベッドの脇には刀を立てかけ、寝巻きには着替えず訓練の時に来ている戦闘用の服のままでいる。

 この服には魔法がかけられており、下手な鎧よりも防御力もあるし、魔法への耐性もある。そして動きを邪魔されない上に軽いため、これを使っている。


 窓の外には真っ暗な王都と、赤い光が見える。

 赤い光の数はとても多く、火の海のようにも見えるほど。


「ごめんね、シン探しに行けないや」


 窓の外の景色から目を離し常に身につけている黒結晶の指輪を眺める。


 この日なかなか私は寝付けなかった。





「テル様っ!帝国軍が動き始めました!」


 ドンドンと扉を叩く音と兵士の声で目が覚めた。

 体を起こし、ベッドから降りる。

 机の上には昨日用意しておいた桶に水が入っている。

 桶の中に入っている水を手ですくい、顔を洗い頭を覚醒させる。

 落ちた水が絨毯を濡らしているけれど、今はそんなことどうでもいい。


 タオルで顔を拭き、刀を手に持ち部屋を出る。

 部屋の外には騎士団長のダンと、副団長のライアが立っていた。

 いつもなら挨拶をするけれど、今は挨拶無しですぐに指示をだす。


「指示は昨日言ったとおり、籠城して時間を稼ぎます。外壁の上から門を開けようとしている人物を優先して攻撃をしてください。門が突破されてからは、小競り合いをしながら少しずつ後退をしてください」


 王都内ならばこっちのほうが土地勘はある上、建物によって一度に攻めてこれる人数も制限できる。


「「はっ!」」


 走り去るライアの後を追うように、私もダンに案内されながら外壁に向かう。



 今では迷うことのなくなった城は敵が攻めてきたときに、迷うように、王が逃げる時間を稼ぐように城の入口から王の寝室までは距離がある。

 私とダンの足音だけが城内に響く。

 無人となった城は人以外は絵や壺などはそのまま残されており、まるである日突然人だけが消えたように錯覚しそうな風景だ。

 その城を出た先は、貴族街になる。

 大体の国が中心に城を位置し、それを囲むように貴族街がある。さらにそれを囲む平民街。

 貴族街というだけあり、通り過ぎていく建物のどれもが大きな家で、自分の権力や財力といったものを主張している。

 しかし、この家はほとんど使用されていないものである。

 ミステア王国の貴族は自分の領地を持ち、街などを持っている。

 そのため一年の大半をその領地で過ごすのだが、年に二回王国内の貴族が呼ばれ、領地内の報告などを数日かけて行う。

 その時に寝泊りする場所が必要になってくるのだが、貴族の人は宿には止まりたがらず、王都に家を建てたりしはじめたそうだ。

 それからは、自分の領地に家があり、王都にも一つ家があるというのが貴族内での常識となっているそうで、王都に家を持っていないと、金に余裕がないと他の貴族に見なされたりしてはぶられるそうだ。

 そのため、貴族の全てが王都に家を持っているそうだ。


 走り出してしばらくして、貴族街と平民街を仕切る第二外壁が見えて来た。

 これは王都を囲む外壁に比べたら高さなどは劣るものの、ないよりはマシだと思う。


 いつもならば、兵士が交代で見張りに立っているけれど、今は無人で門も閉まっているが、貴族や私達王族が通り抜ける門とは別に、兵士が使う小さな通行口がある。

 そこも普段はちゃんと閉まっているのだが、今は開けっ放しになっている。


 そこを通り抜けたら平民街になる。

 平民街は東西南北の各門と繋がる大通りがある。

 大きさも違えば、木で出来ている建物やレンガで出来ている建物が並んでいる。

 馬車の中から見たことがあるだけなのだが、あの時は人が沢山行き交い、賑やかな場所だった。

 それが今では人っ子一人おらず、露店も一つもない姿を見ると、避難した住民やクラリスは無事だろうかといった考えが何度も頭をよぎる。


 そのことは考えないようにしていたが、この景色を見ると、そう考えてしまうのも仕方がないのかもしれない。



 外壁に辿り着き、階段を登り切る。

 そこから見える敵軍とはまだ距離はあるものの、あと三十分もしないうちに戦いが始まるだろう。

 昨日外壁の門を凍らせればいいのでは、と思ったこともあるのだが、帝国軍の中には火属性の魔導師もいるだろう。

 それならすぐに溶かされるかもしれない。

 それならその分の魔力で帝国軍の数を減らしたほうがいいだろうという結論に至った。

 けれど、門が攻撃を受けそうになったら使い捨ての『氷壁アイスウォール』を身代わりにするつもりだ。


「最後にもう一度言います。まだ死にたくないものは今すぐに南門から逃げなさい」


 ダンから借りた魔道具を使い、帝国軍には聞こえない大きさ、しかし兵士全員には聞こえる大きさに声を大きくさせ言う。


「逃げるものに非難したりはしませんし、私がさせません」


「テル様、私達騎士団、全員覚悟は出来ています。必ず時間を稼ぎ最期の時まで戦い続けます」


 ダンが私に向かって片膝をついてそう言った。

 それに続くように、ほかの兵士の人たちも片膝を付き頭を下げていた。


 彼らは私が何か言うのを待っているのだろう。

 自分たちよりも年下の王女でしかない私の言葉を。


 こういう時、いう言葉は少しでも士気をあげる言葉を言うのがいい。


「私たちの目的は時間を稼ぐことですが―――――」


―――――別に、帝国軍アレを倒してしまっても構わないのですよ?


 私が言い終わると同時におぉーと力強い雄叫びが上がる。


 前世での名言を借りたけれど、うまくいってよかった。


 恐らくは私たちの最期の輝く場所。

 

 絶対に時間を稼いでみせる。


1/3 付け加え  

そういえば宰相の存在をすっかり忘れていました。

後付けですが、ご勘弁を。


指摘していただきありがとうございます。


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