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亡国の姫生活  作者: Yukie
第一章 ミステア王国の滅亡編
1/7

黒と白

見切り発車ですが頑張ります。

なるべく矛盾等ないように気をつけます。

 VRMMO『The World Online』通称TWO。

 それは今までのVRMMOを遥かに凌駕したものだった。

 五感も俺が体験して感じてみたが、現実と区別がつかないくらいよくできていた。

 街中の通りに敷かれている石の模様。石と石の隙間に生える雑草。その雑草の根元にある極僅かな土、一粒一粒が全て違う形をしているらしい。

 石の模様や雑草は実際に観察してみたけれど、流石に土一粒一粒を細かく見てみたこともないし、あんな小さなものを手にとって見ただけではよく違いがわからないだろう。

 中にはそれを細かく調べたもの好きもいて、実際に一つ一つが違う形状だという話を聞いたことがある。

 

 TWOというゲームはそんな細かいところまで再現しているが、これだけではない。

 他社の運営するVRMMOを抑え、サービス開始以来常に人気一位を取り続けている理由がある。


 それは、NPCと知らなければプレイヤーと思ってしまうほどのAI。





 12月24日。

 そうクリスマスの日。彼氏彼女がいる人は充実した日を過ごし、もしかしたら一歩大人の階段を昇る日。

 中にはそういった相手がいるけれども、仕事の都合で……、なんて人もいるかもしれない。

 けれど、俺はその二つとは違う人間だ。

 今年で俺は18歳になるが、生まれてこのかた一度も誰かと付き合ったことがない。

 中学の時に部活の後輩に告白されたこともあるのだが、部活の後輩としか見ることができなかったため傷つけないよう丁寧に断った。

 その一回以外は誰かに告白されることもなく、生きてきた。

 一度友人にお前はゲーム好きをやめたらすぐにもてるのによ。と言われたこともあるのだが、俺は彼女を作ることよりも、ゲームを選んだ。


 学校から帰ると寝るまでゲームをして過ごす日々が続き、今日も終業式が終わり家に帰るとすぐにTWOにログインした。


 ログインすると、すぐに森友しんゆうからチャットが飛んできた。


 その内容は古の森のボス討伐周回をしませんか?というもの。

 その文字通り、古の森のボス討伐を何回もしませんか?という意味である。

 はすぐに了承の言葉をチャットに打ち込み、いつもの待ち合わせ場所の西の城門へ向かいはじめる。


 昔からこういったゲームではボス周回というのは行われてきた。

 なぜなら、ボスというのは大抵がレアな装備やアイテムをドロップするから。

 私達は今日も古の森のレアドロップを手に入れるために動く。


 古の森が実装されておよそ半年。

 今もなお最高難易度を誇るエリアであり、そのボスからドロップする装備は現在も最高性能をもつ。

 強さを求め続けるトッププレイヤーや熟練プレイヤーは我が先にとパーティーを組んでボスを討伐しようとした。


 しかし、古の森のボスはパーティーメンバー数の制限がかけられていた。

 本来ならば六人まで組むことができるが、二人まで、と制限されていた。

 この時点で道中の敵の強さを見て、ボスの強さを予測し二人では無理だと判断し諦めたプレイヤーは半分程度いた。

 

 実装されて三日経った時、トッププレイヤー達のボスの討伐率は二割だった。

 高級な回復アイテムなどを氷を火で炙るように溶かしていってこの結果だ。

 それで、レアドロップが手に入れば赤字が一気に黒字となる。

 しかし、三日間多くのプレイヤーがボスを討伐したが、一度もレアドロップしたという話しを聞かなかった。


 この時点でトッププレイヤーでない熟練プレイヤーは資金が底をついたり、尽きかけたりであったり、無理と判断したもの達は古の森を去っていった。


 一週間経った時にはトッププレイヤーしか残っていなかった。

 しかし一度もレアドロップしたという話しは聞かなかった。


 一ヶ月経つ頃には十人も残っていなかった。

 そして、二ヶ月が経つ頃にはたった二人となっていた。

 たまに、挑みに来るプレイヤーもいるけれど、一日も持たずに去っていった。


 実装されて、一週間程度経った時に、プレイヤーが運営にバグなのかどうか問い合せたこともあるのだが、バグではないし、ちゃんとドロップ率も間違っていないと言われたそうだ。


 古の森以外にもどんどん新しいエリアが追加され、当然レアドロップも実装された。

 その追加されたエリアのレアドロップの装備は古の森のレアドロップの装備と基本性能・・・・は同じと発表した。


 そして、私達以外のプレイヤーは皆ほかのエリアに流れていった。


 けれど、私達はGMの言葉が気になりずっと古の森のボス討伐の周回を行い続けた。






 西の城門へ着き、見慣れた格好をしたプレイヤーを見つけた。

 短くもなく長くもない黒髪に黒瞳であり、体格はマッチョではなく痩せ細ってもない。身長は私よりも頭一つ分弱高い。

 顔はVRMMOなら言わずもがな。顔は自由にいじれるため特に言う必要はないだろう。

 TWOは容姿を自由にいじれるだけでなく、性別すらも自由に変えることができる。

 私も現実では男だが、VRMMO内では女性キャラをしようしている。

 一番最初のVRMMOの時からずっと女性キャラを使っており、今回のTWOもなんとなくで女性キャラで始めた。

 結構昔のことなので一番最初の時にどうしてそうしたのかは覚えてないけれど、特に気にしていないので大丈夫だ。


 

 私がある程度近づくと向こうはこっちに気がついたようで、向こうもこっちに向かって歩き始める。


「んじゃ、今日もいきますか」

「そうだね」


 短い会話を済ませた私達は転移ゲートへ向かい始める。


 テル、というのは私の愛称。プレイヤー名は【天照】と書いててんてると読む。よくアマテラスと間違えられるけれど、正しくはてんてるである。

 そして、私の隣をあるく森友の名前はシン。古の森のボスのレアドロップ、古双龍シリーズを持っている。

 今のところ古双龍シリーズはTWOで二つしか存在していない。

 シンはそのシリーズの杖を、三ヶ月くらい前に手に入れた。


 その時に、私も古双龍シリーズの刀を手に入れている。


 古双龍シリーズの装備の基本性能は古の森と同難易度のエリアのレアドロップよりも少し高い。その上ある特殊能力もついている。

 その特殊能力は、古双龍シリーズを装備したパートナーとパーティーを組んでいるとき、与えるダメージ二倍とHP、MPに補正、MP自動回復量UPというもの。

 手に入れた後、運営に聞いてみたことがあるのだけど、このパートナーとパーティーを組んでいる時、というのは古双龍シリーズを装備しているプレイヤー二人だけでパーティーを組んだ時のことということだった。


 元々、私がパーティーを組むのはシンだけだからとても使いやすい。


 なぜ、既に古の森のボスのレアドロップを持っているのに、ボス討伐周回をおこなうのか。


 TWOの装備には覚醒というシステムがある。

 同じ名前の装備を二つ手に入れると覚醒することが可能であり、それを行うと基本性能だけでなく特殊能力も強化される。

 ただし、この覚醒というのは、ドロップ装備のみに使用可能であり、生産職のプレイヤーが作った装備では行うことができない。


 なんでもこのシステムは生産職プレイヤーが作った装備だけを使用するのではなく、ドロップアイテムにも目を向けてよ。ということらしい。


 そう、私達は古双龍シリーズの覚醒を行うのが目的だ。








 古双龍ジェイスがブレスの予備動作を確認した私はジェイスから距離を取り、シンの目の前まで下がる。


 それと同時にジェイスは双頭からボスエリアすべてを埋め尽くしそうなほど広範囲に灼熱のブレスを吐き出す。


 ブレスが私に触れる、直前に私は刀でガードを行う。

 TWOは全ての武器にガード動作というものがあり、タイミングよくガードすれば受けるダメージを減らすことが可能だ。

 しかし、タイミングが非常にシビアなためうまくガード出来る人は少ない。

 そして、私のガードに合わせるようにシンは無詠唱で『氷壁アイスウォール』を唱え、ブレスの威力を弱める。

 

 数秒後、ブレスが止むと私はジェイスに向かって走り出し、シンの治癒魔法を受けながらブレスを吐いた時に下がった頭を切り裂く。

 

 すると、ジェイスは天に向かって弱々しく咆哮した後、大きな振動を立てながら地に伏せ、ポリゴンとなって消える。


「はぁ……、はぁ……」


 手に古双頭・時雨を持ったまま、乱れた呼吸を落ち着かせるために深呼吸をする。


「テル、お疲れ様」

「ふぅ……、シンもね」



 暫くして呼吸が落ちついき、ドロップ確認が行われた。

 VRMMOでは既に常識となった思考操作で、イベントリを開く。


「あっ」


 イベントリには今私が手に持っている古双龍・時雨と同じものがイベントリに入っていた。


「ん……?」


 イベントリの、古双頭・時雨の隣には初めて見るアイテムが入っていた。

 名前は白結晶の指輪。

 詳細を見てみると、黒結晶の指輪の対になるもの。二つが揃うとき、何かが起きる。


 何かが起きるって……、もっと具体的に書いて欲しかったかな……。


「テル、こっちは確認終わったぞ」

「あ、こっちも終わってるよ」


 では、まずは俺からだな。とシンは言い、ドロップ報告をはじめる。

 その表情は少し喜んでいるように見える。


「俺の方は古双頭・白凪と……、黒結晶の指輪というのがあった」


 やっぱり、と心の中で私はつぶやく。

 確か前の時もレアドロップが出たのは同じ時だった。

 それと、この指輪の説明には対となると書かれていたし、もしかして……と思っていたから。


「おめでとう。私の方も時雨がでたよ。それと、白結晶の指輪というのもね」



 その後、まずは装備の覚醒を行った後に指輪を調べてみようということになった。

 先に指輪を調べても、覚醒のことが気になって集中できないだろうと判断したから。


 装備の覚醒はどこでも簡単に行える。


 私とシンは覚醒を行った後、どのくらい強化されているのか確認したところ、基本性能は二割増し、特殊能力は古双龍シリーズを装備したパートナーがパーティーにいる時、与えるダメージが三倍に増え、HPとMP補正が覚醒前の倍に増えた。MP自然回復量UPは数値化されていないので、実際に時間が経ってみないとわからない。


 特殊能力こんなに強いのに条件緩めて大丈夫なのかな。

 少し強すぎる気もするんだけど……。


 覚醒が終わった後、私達は指輪を調べてみることにした。


 調べるために指輪をイベントリから取り出した瞬間、二つの指輪はそれぞれ白と黒の光を放ち。

 私たちはその光に包まれた。






 この世界では五歳になると神殿へ行き、五歳まで生きることができてありがとうございます、これからもよろしくお願いします、みたいな意味で祈る文化がある。

 私も例に漏れることなく、五歳の誕生日の日に護衛をつけて神殿へ行き、祈った。

 祈り終わったあと、手の中に違和感を感じた。

 見てみると黒い結晶がついた指輪があり、それを見た瞬間すべてを思い出した。


 私はこの世界とは違う世界で生きていたこと。

 TWOでこの指輪を取り出した瞬間に光に包まれたこと。


 それと同時に、この五年間の記憶を思い返し驚いた。

 私の名前はテル・ミステア。

 ミステア王国の王、レヴィ・ミステアとその王妃アレシア・エンハンス・ミステアの娘が私だということ。

 そう、私は王女として転生したらしい。


 前世を思い出した私は、前世の記憶があるとバレないように気を付けようと決め、祈りの間の扉を開く。

 扉の外には神父の人や、今世の両親、妹のクラリス。そして護衛の兵士が待っていた。

 五歳の祈りの時は一人で祈りの間で祈らなければいけないそうで、普通の一般家庭ならば、部屋の外には両親が待っているだけなのだが……。


 まぁ立場的には仕方がないんだろうね。城から初外出でもあるし、祈る間は一人ということで狙われやすいから。


「テル、ちゃんとお祈りはできた?」

「はい、ちゃんとできました!」


 ちゃんと今世の記憶を思い返し、記憶通りの口調で答える。

「あら、その手に持っているのはなにかしら?」

「祈り終わったら手の中にありました」


 そう言って持っている黒結晶の指輪をアレシアに見せる。


 神殿へ向かう途中に馬車の中で母から言っていたのだけど、祈りが終わったあとに何か物を授かる場合があるそうで、それは神の加護の証とされているそうだ。

 その証を授かった場合は常に身からはなさず持つそうで、私はこれを利用させてもらうことにした。


 そうすれば、この指輪を常に所持しておくことができる。

 この指輪は前世の記憶以外では唯一のTWOや私が俺として生活していた世界をつなぐもの。


「おぉ、テルは加護持ちか! サカキ、今日は誕生日と加護を授かった二つのお祝いをする。準備を頼むぞ」

「かしこまりました」

「ふふふ、テルの将来が楽しみだわ」

「お、おねえさま!おめでとうございます!」


 父が執事へ命令し、執事はそれに応じる。母はそう言いながら私の頭を撫で、妹は祝ってくれた。


 そして、馬車に乗っている間ずっと、妹にお姉様すごいです!と言われ続けた。

 城に戻ってからは、両親と妹だけでなく、使用人も一緒に祝ってくれて、大勢の人にお祝いされたの初めてで、嬉しくて思わず泣いてしまったのは内緒。


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