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【ハズレスキル】鑑定しかない俺がダンジョン配信したら、隠し部屋も罠もボスの弱点も丸見えで世界最速クリアしてしまった件  作者: ぽんぽこライフ


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免許停止——紙一枚の暴力

 朝、ポストに入っていた書留郵便。差出人は探索者ギルド協会審査委員会。厚手のクリーム色の封筒に、協会の紋章が型押しされている。中身を取り出す前から分かっていた。こういう封筒が届く時——中身は良い知らせではない。営業マン時代に何度も見た光景だ。契約解除通知、取引停止通告、懲戒処分の通知。全て同じ——冷たい活字で人の人生を書き換える紙切れだ。


 探索者免許一時停止処分通知書。


 通知書の活字は無機質で、感情がなかった。そこに書かれていたのは——


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <探索者免許一時停止処分通知> │


 │ 被処分者:柊一颯(登録番号 C-2891) │


 │ 処分事由: │


 │  1. 許可深度を超える深層探索の実施 │


 │   (30層 ※許可深度25層) │


 │  2. 緊急避難情報の無許可配信 │


 │  3. ダンジョン構造変動時の退避義務違反 │


 │ 処分内容:探索者免許の一時停止(90日間) │


 │ 審査委員:藤堂(委員長)、黒崎、水野 │


 │ 異議申立期間:通知受領後14日以内 │


 └──────────────────────────────────┘


 許可深度を超える深層探索。確かに俺のCランク免許の許可深度は25層だ。だが30層に到達したのは——25層の構造更新で避難経路が断たれ、前進するしか選択肢がなかったからだ。避難情報の無許可配信? あの状況で配信を止めて情報を遮断していたら、避難できなかった探索者が出ていた可能性がある。退避義務違反に至っては——退避する場所がなかったから深層に進んだのだ。


 全てが——後付けの理由だった。結論ありきの処分。営業マン時代に見飽きた手口だ。上が決めた結論に合わせて、理由を後から組み立てる。稟議書の逆流。俺はそれを「ゴール・ファースト・ロジック」と呼んでいた。


 審査委員の名前を見た。藤堂、黒崎、水野。凛にすぐ調べてもらう必要がある。だが——直感的に分かっていた。この三人のうち少なくとも二人は、クロノスと繋がっている。


 スマホが鳴った。三島からだった。


「先輩! 俺にも通知が——」


「お前もか」


「Cランク免許の更新審査を前倒しするって。実質的な活動停止です。これ——おかしいでしょう」


 三島の声には怒りが滲んでいた。二十二歳の青年の真っ直ぐな怒り。十年前に父親を失い、その手がかりがようやく見えてきたところで——足を止められる理不尽。


「落ち着け、三島。まず集まろう。久我山さんの店で」


「……了解っす」


 通話を切った。通知書をもう一度見た。紙の表面に指紋がついていた。汗ばんだ指が残した痕。三十二年間生きてきて、紙切れ一枚にこれほど感情を揺さぶられたのは初めてだった。


 いや——嘘だ。営業マン時代、リストラ通告を受けた時も同じだった。あの時も一枚の紙が、俺の人生を変えた。だがあの時は——ただ受け入れるしかなかった。今は違う。今の俺には、戦う手段がある。



  ◇



 久我山の装備店『カーゴ』に着くと、金属油と革の匂いが鼻をついた。いつもの匂いだ。ダンジョン装備の手入れに使うメンテナンスオイルと、ブーツのなめし革。カウンターの奥では久我山がコーヒーを淹れていた。苦い香りが店内に広がる。


「見たよ、通知書」久我山が渋い顔でカップを差し出した。「探索者ギルド協会の審査委員会か。あそこは昔から——権力者の道具だ」


 三島が到着した。凛からは通信越しの参加。アイリスで審査委員のバックグラウンドチェックを走らせているらしい。


「藤堂委員長はクロノスの顧問弁護士事務所の元パートナーです」凛の声がスピーカーから流れた。「黒崎委員はクロノスの探索事業部OB。水野委員だけが外部——大学教授ですが、研究資金の三割がクロノスからの助成金です」


「三人ともクロノスかよ!」三島がテーブルを叩いた。


「予想通りだ」俺はコーヒーを一口飲んだ。久我山のコーヒーは——いつも濃くて苦い。今日は特に苦く感じた。「問題は、制度上は正当な手続きを踏んでいること。審査委員の利益相反を証明しない限り、処分は有効だ」


 久我山がカウンターに肘をついた。


「一颯くん。俺にも昔——似たようなことがあった」


 俺と三島が久我山を見た。久我山は滅多に自分の過去を語らない。


「十五年前、俺はBランク探索者だった。ダンジョン装備の独自改良を行って、特許を取ろうとした。だがクロノスが——装備品の規格統一を名目に、探索者ギルド協会を通じて俺の改良装備を『未認可品の使用』として処分した。免許停止六ヶ月。その間に特許は——クロノスの関連企業に押さえられた」


 久我山の目が細くなった。装備店のカウンターの向こうで——十五年前の怒りが、まだ静かに燃えているのが見えた。


「だから俺は探索者を辞めて、装備屋になった。権力には勝てない——そう思った。だが一颯くん、お前は違う。お前には——配信がある。百万人の目がある。俺の時代にはなかった武器だ」


 久我山が棚から何かを取り出した。古い探索者免許証。十五年前のもの。角が擦り切れ、写真の色が褪せている。若い頃の久我山は——今よりずっと鋭い目をしていた。探索者の目だ。


「これ、まだ持ってたんすか」三島が目を丸くした。


「捨てられなくてな。俺の負けた記録だ。だが——負けっぱなしで終わる気はない。一颯くんが勝てば、十五年前の俺も少しは報われる」


 久我山はカウンターの下に免許証を戻した。コーヒーを飲み干した。


 配信。


 そうだ。俺には——それがある。透明性という武器。事実を公開し、判断を視聴者に委ねる。営業マンが学んだ最も重要な教訓——信頼は、情報の非対称性を崩すことで生まれる。隠し事をする側ではなく、全てをさらけ出す側に、人は味方する。



  ◇



 自宅の配信部屋に戻ったのは午後四時だった。


 機材のスイッチを入れる。モニター三台、カメラ二台、マイク。配信開始のチャイム音が鳴った——ピロン、という軽い電子音。いつもなら高揚する音が、今日は妙に重く感じた。


 凛がアイリスで配信のサポートに入っている。三島も自宅からモニタリング。久我山も店の奥でスマホで見守ると言っていた。


 【お、始まった】


 【今日はダンジョン配信じゃないの?】


 【マコト:タイトルが違う。『重要なお知らせ』——嫌な予感がする】


「みんな、聞いてくれ。今日は——ダンジョンには入れない。理由を、そのまま話す」


 俺はカメラに向かって、通知書を掲げた。


 【免許停止!?】


 【は? 人助けして処分されんの?】


 【マコト:審査委員の名前を検索中——藤堂、黒崎、水野。なるほど、見えてきた】


 【ドクター:これは明らかに不当処分です。退避義務違反の適用要件を満たしていません】


 コメント通知音が洪水のように鳴り響いた。ピコン、ピコン、ピコン——画面のスクロールが追いつかないほどのコメント量。同接が五分で七十万を超えた。


「処分事由を一つずつ説明する。まず許可深度の超過——これは25層の構造更新で退路が断たれた結果だ。前進以外に選択肢はなかった。次に避難情報の無許可配信——あの時、配信を止めていたら、情報が届かずに避難できなかった探索者がいたかもしれない。三つ目の退避義務違反——退避する場所がなかった。構造更新で通路が再配置された状態で、どこに退避しろと言うのか」


 事実を、淡々と述べた。感情的になるな。営業マン時代に学んだことだ。怒りをぶつければ相手に攻撃の口実を与える。事実だけを並べろ。判断は——聞いている人に委ねろ。


 【シロ:審査委員三名全員にクロノスとの利害関係があります。データを配信画面に表示します】


 凛がアイリス経由で、審査委員とクロノスの関係図を配信画面にオーバーレイした。相関図が視覚的に表示される。線と矢印で繋がれた名前と組織名。誰の目にも明らかな構図。


 【うわ、ズブズブじゃん】


 【これが公正な審査? 笑わせるな】


 【マコト:制度上は合法だが、倫理的には完全にアウト。世論を動かすしかない】


 【拡散する。全力で拡散する】


 【同接85万——過去最高じゃないか?】


 【ドクター:免許停止中にダンジョンに入れば違法行為です。くれぐれも感情的な行動は避けてください】


 ドクターの冷静なコメントが目に留まった。そうだ。制度上は——この処分は有効だ。いくら世論が味方についても、免許停止中に探索すれば俺が犯罪者になる。それこそ——敵の思う壺だ。


「俺は法を破るつもりはない。不当だと思うが、制度の中で戦う。異議申立をする。そして——真実を公開し続ける。それが俺のやり方だ」


 【一颯さん……かっこいい】


 【泣けてくる。正しいことをして罰される世界なんておかしいだろ】


 【マコト:柊一颯は感情ではなく事実で戦う。だからこそ強い。俺たちも冷静に支援しよう】


 【異議申立の署名活動やらないか?】


 【ドクター:法的な支援が必要なら、探索者の権利に詳しい弁護士を紹介できます。DMください】


 配信を終えた。同接は最終的に九十二万人に達していた。配信プラットフォームのトレンド一位。SNSでも「免許停止」「探索者ギルド協会」「クロノス」がトレンド入りしていた。世論は動き始めている。だが——制度を覆すには、もっと決定的な証拠が必要だ。



  ◇



 配信終了後、部屋の照明を落として椅子に沈んだ。疲労感が全身を包んでいた。


 スマホが振動した。


 画面を見た。暗号化メッセージアプリの通知。送信者は——登録名のない番号。だがこの番号からメッセージが届くのは初めてではない。朝霧千歳だ。


 メッセージを開いた。暗号化されたテキストが復号される。


『明日、管理局から別の通知が届きます。味方のふりをした罠です。気をつけて』


 味方のふりをした罠。


 それは——何だ。免許停止の次に、何が来る。千歳が「味方のふり」と言っているということは、一見すると好意的な内容——だが裏がある、ということか。


 スマホの画面の光が暗い部屋で揺れた。俺はメッセージを三度読み直した。


 眠れない夜になりそうだった。



  ◇



 翌朝。


 ポストに——もう一通の封筒が届いていた。


 今度の差出人は探索者ギルド協会ではない。ダンジョン管理局。影山局長の名前が記されている。封筒には管理局の紋章——盾と剣のエンブレム。


 中身を取り出した。


 ——特別管理探索者指定通知。


 千歳の言葉が脳裏によぎった。味方のふりをした罠。


 封筒を握る手に——昨日とは違う種類の震えが走った。

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