表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ハズレスキル】鑑定しかない俺がダンジョン配信したら、隠し部屋も罠もボスの弱点も丸見えで世界最速クリアしてしまった件  作者: ぽんぽこライフ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/80

29層——設計者の回廊

 正確には、鑑定眼鏡のレンズが震えた瞬間だ。


 28層から29層への階段を降りた途端、レンズの表面に細かな文字が滝のように流れ始めた。通常の鑑定ではこんなことは起きない。情報量が多すぎて、処理が追いつかないのだ。


「先輩、大丈夫っすか。目が——」


「ああ。ちょっと待て」


 三島が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。汗が額を伝っている。28層でのボス戦から三時間——体力は回復したが、神経はまだ張り詰めていた。蒼真が去った後の静けさが、逆に緊張を高めている。


 配信のコメント欄が動いた。


 【なんか画面がバグってる?】


 【アイリスの表示おかしくね?】


 【マコト:レンズに情報が流れ込んでいる。鑑定が自動起動している】


 【シロ:確認しました。アイリスが受信しているデータ量が通常の47倍です。処理負荷が限界に近い】


「凛、聞こえるか。鑑定が——勝手に起動している」


「聞こえています。データログを確認中——これは鑑定結果じゃない。29層そのものが情報を発信しています」


 凛の声が通信越しに鋭くなった。キーボードを叩く音が背景に聞こえる。アイリスのモニターを確認しているのだろう。


 29層は——回廊だった。


 上も下も左右も、全てが石の壁に囲まれた一本の長い通路。天井は五メートルほど。幅は三メートル。モンスターの気配はない。罠の反応もない。ただ——壁一面が文様で覆われている。


 いや、文様ではない。


 鑑定眼鏡を通して見ると——文字だった。壁面の模様に見えたものは、全て微細な文字列。天井まで、隙間なく。文字の大きさは一ミリ以下。肉眼では模様にしか見えないが、鑑定眼鏡のレンズはそれを読み取っている。


「これは——」


 声が出なかった。


 営業マン時代、年次報告書を読み込むのは得意だった。数字の羅列から意味を読み取る——それが仕事だったから。しかしこの壁は、年次報告書の比ではない。十年分の、全探索者の活動記録だ。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <鑑定結果> │


 │ 名称:記録回廊アーカイブ・コリドー


 │ 階層分類:29層固有構造体 │


 │ 機能:探索活動ログの自動記録・保存 │


 │ 記録期間:3,652日(約10年) │


 │ 記録対象:全探索者の行動・戦闘・取得物 │


 │ 記録密度:壁面1㎡あたり約240万エントリ │


 │ 読取可能レベル:読み手レベル3以上 │


 │ 注意:記録は時系列順ではなく │


 │  階層深度順に配列されている │


 └──────────────────────────────────┘


「十年分の——全探索者の活動記録。ダンジョンが記録している」


 配信越しに凛が息を呑む音が聞こえた。コメント欄が爆発した。


 【は? 全員の記録??】


 【つまりダンジョンは探索者を監視してるってこと?】


 【マコト:ダンジョンが意思を持っている仮説の補強材料だ】


 【ドクター:生体データまで記録されているなら、医学的にも重大な発見だ】


 【怖すぎるだろ……俺たち全員監視されてたのかよ】


 【シロ:データ量が膨大すぎて処理が追いつきません。優先度の高い記録から順に解析します】


 俺は壁に手を触れた。冷たい石の感触。だがその表面を鑑定眼鏡越しに見ると——無数の文字が脈打つように明滅している。生きた記録だ。今この瞬間も、俺の行動が記録されている。


「凛。アイリスで特定の記録を検索できるか」


「やってみます。キーワードを」


「久我山修。十年前の記録」


 凛のキーボードが激しく鳴った。数秒の沈黙。モニターの処理バーが動いている映像が、配信画面の隅に小さく表示されていた。


「見つかりました」


 凛の声が震えている。


「久我山修、元Bランク探索者。十年前——サードダンジョン深層調査隊の記録。メンバー五名。久我山修、三島鋼一郎、渡辺誠一、高田和美、そしてもう一名——記録が途中で消去されています」


「消去?」


「五人目のメンバーの名前と記録が、途中で意図的に削除されている痕跡があります。削除コマンドの痕跡が残っています。発行者は——管理局の内部コードです」


 管理局が——十年前の調査隊メンバーの記録を消した。


 【おいおいおいおい】


 【管理局が記録消してるって——隠蔽じゃん】


 【五人目って誰だよ】


 【マコト:管理局が消せるということは、管理局はこの記録回廊の存在を知っていたということだ】


 【影山ああああ!!!】


 三島が壁に近づいた。自分の手を壁につけて——声が低い。


「先輩。親父の記録——見えますか」


「ああ」


 俺は鑑定の焦点を絞った。三島鋼一郎の記録を追う。壁面の文字が再配列された——読み手の要求に応じて情報を提示する。ダンジョンが俺に協力している。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <個人記録:三島鋼一郎> │


 │ ランク:A │


 │ スキル:剣聖 │


 │ 最深到達層:47層(公式記録) │


 │ 最終記録日:2016年9月14日 │


 │ 最終記録位置:47層→未登録領域への移行検出 │


 │ 記録状態:途中終了(信号ロスト) │


 │ 備考:47層以降の記録は回廊の記録範囲外 │


 │ 付記:同行者の記録に不一致あり │


 │  →五名中一名の記録が削除済み │


 └──────────────────────────────────┘


「47層まで到達していたんすか……」


 三島の声が掠れた。公式記録では最深到達層は30層台とされていた。十年前の時点で47層——現在の公式最深到達記録すら超えている。


「三島くん。お前の親父は——十年前に、今の人類の限界より先に行っていた」


 三島が拳を握りしめた。壁にぶつけそうになって——寸前で止めた。記録を壊すわけにはいかない。


「先輩。五人目——消された記録のメンバー。分かりますか」


「凛、もう少し解析できるか」


「削除痕跡から——スキルタイプだけ復元できました」


 凛の声が静かに告げた。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <削除済み記録・部分復元> │


 │ メンバー5/5:名前=削除済み │


 │ スキルタイプ:鑑定(特殊) │


 │ ランク:D │


 │ 記録削除日:2016年10月2日 │


 │ 削除権限者:管理局内部コード AX-0017 │


 │ 備考:本記録の完全版は │


 │  30層ノードに格納されている │


 └──────────────────────────────────┘


 鑑定スキル持ち。Dランク。十年前の深層調査隊に——もう一人の鑑定持ちがいた。


 久我山が言っていた「記憶を全て失った女性鑑定持ち」。


 管理局が、その存在そのものを消そうとした。


 【鑑定持ちがもう一人いた!?】


 【消された鑑定持ち——これは闇が深い】


 【管理局マジでやべえな】


 【マコト:プロジェクト・アポストルとの関連を疑うべきだ】


 【30層ノードに完全版がある——行くしかないだろ】


 回廊の奥へ進んだ。文様——いや、記録の密度がさらに上がっていく。壁だけでなく天井にも床にも。歩くたびに足元の文字が光る。俺の足跡さえも記録されている。


 空気の温度が下がった。金属と鉱物の匂い——深層特有の、地球の奥から立ち上る匂いだ。湿度が高い。呼吸が白くなる。


 三十分歩いた。


 回廊の最奥部——巨大な扉があった。


 高さ十メートル。幅五メートル。壁の記録文字が扉の周囲に集中して、渦を巻くように文字が流れている。扉の中央に——数字が浮かんでいた。光る文字。鑑定眼鏡なしでも視認できるほど明るい。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <30層ゲート> │


 │ 状態:施錠(時限解除待ち) │


 │ 更新までの残り時間:52:17:33 │


 │ 解除条件:読み手レベル3以上(充足) │


 │ 開放方法:カウントダウン終了時に自動開放 │


 │ 警告:更新は全構造に影響を及ぼす │


 │ 推奨:更新前に30層ノードへのアクセスを │


 │  完了すること │


 └──────────────────────────────────┘


「52時間——約二日後に、この扉が開く」


 三島が扉を見上げた。首が痛くなるほど巨大な扉だ。


「先輩。待つっすか?」


「いや」


 俺はレンズを見た。カウントダウンの数字が、一秒ごとに減っていく。52:17:32。52:17:31。


 配信のコメントが溢れている。40万人が見ている。


 【52時間後に30層が開く!】


 【世界最速30層到達クルー!?】


 【D-rankが世界最速とか笑うしかない】


 【マコト:いや笑えない。これは歴史だ】


 【一颯さん頼む——見届けさせてくれ】


「皆さん」


 俺はカメラに向かって言った。配信者としての声ではない。探索者としての声だ。


「52時間後——この扉が開きます。その先にあるものが何であれ、俺は全て配信します。それが約束です」


 営業マン時代なら、こういうのをクロージングと呼ぶ。だがこれは——営業じゃない。約束だ。


 扉のカウントダウンが、静かに刻まれていた。52:16:48。


 壁の記録が、俺を見ている。十年分の記録が——次の読み手を、待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ん?だいぶ前の話で公式の踏破記録は47層ってなってた→今話だと公式30、三島くんのお父さん達が47以降まで行ってる(47以降は記録されず)になってますね。 途中で設定を変えたのなら、以前の話も修正して…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ