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【ハズレスキル】鑑定しかない俺がダンジョン配信したら、隠し部屋も罠もボスの弱点も丸見えで世界最速クリアしてしまった件  作者: ぽんぽこライフ


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鑑定が命を救った日

 ホールの中央。天井の見えない円形空間。壁面は27層で見た脈動する黒曜石の素材で覆われ、0.87秒のリズムで膨張と収縮を繰り返している。照明はない。壁面自体が放つ淡い青白い光だけが、空間を幽冥に照らしている。


 その光の中に——蒼真がいた。


 神代蒼真は壁際に背を預けて立っていた。二本の剣を構えたまま。右手の長刀が——折れていた。刃の半分が失われ、残った部分が青白い光を鈍く反射している。左手の短刀だけが無事だ。白いシャツは仲間の血で汚れ、右腕に裂傷がある。


 蒼真の視線の先に——それがいた。


 巨大な甲殻を持つ四足歩行の獣型モンスター。体高三メートル。全身が黒い装甲で覆われ、関節部分だけが赤く脈動している。頭頂部にクリスタルのような透明な核が露出し、赤と青を交互に明滅していた。呼吸のたびに——地鳴りのような重低音がホール全体を震わせる。空気が振動する。胸骨に響く振動。こいつの呼吸一つで、人間は恐怖を感じるようにできている。


 鑑定眼鏡のレンズが46度に達していた。こめかみが焼けるように熱い。だがその熱と引き換えに——データが洪水のように流れ込んだ。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <モンスター鑑定:層守護者・変異種> │


 │ ランク:S-(推定) │


 │ 種別:隠しボス(28層守護者の強化個体) │


 │ 特性: │


 │  自己修復機能(装甲再生周期:30秒) │


 │  コア位置可変 │


 │   Phase1: 頭頂部(現在) │


 │   Phase2: 背部に移動 │


 │   Phase3: 胸部(最終防御位置) │


 │ 弱点: │


 │  Phase2移行時、コアが背部に移動する際 │


 │  0.5秒間だけ背面の装甲が開く │


 │  その瞬間のみコアへの直接攻撃が可能 │


 │  30秒以内にコアを攻撃しないと自己修復完了 │


 │ HP残存率:推定78% │


 └──────────────────────────────────┘


「ランクS-——Aランクを超えてる」


 声が震えた。S-ランク。蒼真のチームが壊滅した理由が分かった。これは——正面から力で倒せる相手ではない。


 蒼真がこちらに気づいた。


「——来たのか、配信者」


 蒼真の声は低く平静だった。だがその目には——焦燥があった。鑑定で読める。感情パターン:戦闘集中+焦燥+わずかな諦め。長刀を失い、チームメンバーは全員倒れ、一人で持ちこたえている。それでも撤退しないのは——仲間を残して退けないからだ。


「逃げろ。お前たちの手に負える相手じゃない」


「知ってる。S-ランクだ」


 俺は一歩前に出た。三島が俺の後ろで剣の柄を握っている。


「——だが、弱点が見えた」


 蒼真の目が鋭くなった。Aランクの戦闘経験で、この言葉の意味を即座に理解している。自力では見抜けなかった情報——鑑定でなければ読めないデータ。


「Phase2に移行する時、コアが頭頂部から背部に移動する。その瞬間——0.5秒間だけ背面の装甲が開く。そこがコアへの唯一の攻撃窓だ」


 蒼真が黙った。二秒。三秒。戦闘中に分析する余裕はない。剣を振るうことに全神経を集中させる蒼真には、弱点の解析まで手が回らない。だが鑑定なら——戦わずして弱点が見える。


「それだけじゃない。自己修復のクールダウンが30秒。修復中は装甲硬度が40%落ちる。つまりPhase2でコアを叩いた後、30秒間が追撃のチャンスだ。——ただし、30秒以内にコアを攻撃しないと修復が完了して元に戻る」


「……」


 蒼真が折れた長刀を見下ろした。使えない。残された武器は短刀一本。だがその目は——諦めていなかった。


「お前の目を信じてやる」


 層守護者が動いた。


 四本の脚が床を蹴る。巨体が信じられない速度で蒼真に向かって突進する。床が軋む。蒼真が回避した——Aランクの身体能力が全開で発揮された横跳び。層守護者の前脚が壁を打ち、黒曜石が砕け散った。壁面の脈動が乱れる。


 『S-ランクのボス!!!!!やべえ!!!』


 『蒼真が追い詰められてる——一颯、何とかしろ!』


 【マコト】『Phase2の0.5秒。蒼真の剣速でなければ間に合わない。一颯が指示し、蒼真が斬る——それしかない』


 【ドクター】『三島くんは絶対に前に出るな。S-ランクにCランクが出たら即死だ』


 『同接25万突破!!!過去最高更新!!!!』


「蒼真! Phase2に移行させるには頭頂部のクリスタルに連続衝撃を与えろ! 割る必要はない! 衝撃でコアが防御反応を起こして背部に移動する!」


「何回だ」


「五回以上の連撃!」


 蒼真が跳んだ。


 Aランクの身体が宙に舞う。床を蹴る音が爆発のように響いた。蒼真の体が層守護者の頭上三メートルに達した。短刀が頭頂部のクリスタルを叩く。一撃。金属と結晶がぶつかる高い音。二撃。三撃。蒼真が空中で体を捻りながら連撃を繰り出す。四撃。五撃。


 層守護者が咆哮した。ホールの壁面が振動する。壁の脈動が激しく乱れた。痛みではない——防御反応だ。頭頂部のコアが移動を開始した。


「来るぞ! Phase2移行——背中を見ろ!」


 コアが頭頂部から背部に向かって移動する。その軌道上——背中の装甲板が、コアを通過させるために一瞬だけ開いた。黒い装甲の隙間から、赤く脈動するコアが見えた。


 0.5秒。


「右に三メートル! 今背中が開く!」


 俺は叫んだ。25万人が見ている配信の中で。Dランクの鑑定士が、Aランクのエースに指示を出す。


 蒼真が——空中で体を捻った。着地の瞬間、右に三メートル跳躍。層守護者の背後に回り込む。短刀が弧を描いた。残された一本の刃に——全ての力を乗せた一撃。


 短刀がコアに突き刺さった。


 層守護者が全身を震わせた。壁面の脈動が乱れに乱れる。咆哮が——叫びに変わった。コアに刀身が食い込み、赤い光が短刀の刃を伝って飛び散った。蒼真の刀が空を切る風圧が俺の頬を撫でた——五メートル離れているのに。それほどの力が乗った一撃だった。


「蒼真、離れろ! 自己修復に入る! 30秒カウント開始!」


 蒼真が短刀を引き抜いて後退した。層守護者の装甲に亀裂が走り始めた。自己修復の開始——全身の装甲が一度崩壊し、再構築される過程。30秒間。


「今から30秒——装甲硬度が40%落ちる! 叩け!」


 蒼真が再び飛び込んだ。短刀が装甲の弱い関節部分を正確に突く。一撃ごとに装甲が砕ける。修復中の装甲は脆い。Aランクの剣速で——着実にダメージを積み重ねていく。


 凛の声がイヤホンから聞こえた。


「柊さん、HP残存率——52%。半分を切りました。もう一回Phase2攻撃を決めれば——」


「分かった。蒼真! もう一回だ! 頭頂部を叩いてPhase2を引き出せ!」


「何度でもやってやる」


 蒼真が再び跳んだ。短刀が頭頂部のクリスタルを叩く。一撃、二撃、三撃、四撃、五撃。


 Phase2移行。コアが背部に移動する。装甲が開く。0.5秒。コアが赤く脈動しながら露出する——一瞬の光。


「今っ!」


 蒼真の短刀が——コアの中心を貫いた。今度は深い。刀身の半分がコアに沈んだ。赤い光が爆発的に散って、ホール全体が血のような赤に染まった。


 層守護者が——倒れた。


 四本の脚が折れ、巨体が床に崩れ落ちた。地面が震動した。壁の脈動が——一瞬止まった。そして再開した時、リズムが変わっていた。0.87秒から——0.85秒へ。ダンジョンの心臓が、守護者の死を認識したかのように。


 静寂。


 蒼真が——血まみれの短刀を下ろした。肩で息をしている。全身から汗が蒸気のように立ち上っている。Aランクでも、S-クラスの相手を仕留めるのは——全力だったのだ。


「……悪くない」


 蒼真が俺を見た。


 その目に侮蔑はなかった。25層で「スキル依存の弱者」と言った男の目が——変わっていた。鑑定で読む必要もない。認知。この男の目を、戦闘の中で使った者の目。


「お前の目——使えるな」


 それが蒼真の最大限の賛辞だと分かっていた。「悪くない」「使える」——不器用な二語に込められた、Aランクエースの承認。営業マン時代なら、難攻不落の大口顧客がようやく見積もりを見てくれた瞬間だ。契約はまだ先——だが、テーブルにはついてもらえた。


 『倒したああああああ!!!!!!!!』


 『一颯の指示と蒼真の剣!! 最強コンビ爆誕!!!』


 『「右に三メートル!今背中が開く!」 ←この台詞神すぎる』


 『同接27万!! 配信史上最も視聴された戦闘じゃねえか!!!』


 【マコト】『Dランクの鑑定がS-ランクのボスを攻略する鍵になった。探索の概念を変える戦いだ。歴史的瞬間を目撃したことを忘れるな』


 【ドクター】『蒼真さん、右腕の裂傷と全身の打撲。チームメンバーの応急処置を急げ。回復薬はあるか?』


 層守護者の巨体が崩れ、装甲が灰のように崩壊していった。その中心にコアの残骸——赤い光が消えかけたクリスタルの欠片が転がっていた。


 鑑定した。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <ボスコア鑑定:層守護者・変異種> │


 │ コア種別:選別型守護コア │


 │ 機能:適格者の戦闘能力を評価 │


 │ 記録データ: │


 │ 「被験者選別プロトコル:実行中 │


 │  対象者:柊一颯(読み手レベル3) │


 │  評価:情報支援による戦術的勝利を確認 │


 │  結果:選別基準・適合 │


 │  次の試練へのアクセスを許可する」 │


 │ 付記:このプロトコルは設計者が │


 │  設定した自動評価システムである │


 └──────────────────────────────────┘


「被験者選別プロトコル——実行中」


 声が震えた。この戦闘自体が——ダンジョンによる選別試験だった。そして俺は——合格した。


 蒼真が鑑定ウィンドウの文字列を見つめていた。「被験者選別プロトコル」。その目に複雑な感情が浮かんでいる。Aランクの実力で深層を切り開いてきた男にとって、ダンジョンが「テストしていた」という事実は——プライドに触れるものがあるのだろう。


 27万人の視聴者が見守る中——ダンジョンの真実がまた一つ、剥がれ落ちた。

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