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【ハズレスキル】鑑定しかない俺がダンジョン配信したら、隠し部屋も罠もボスの弱点も丸見えで世界最速クリアしてしまった件  作者: ぽんぽこライフ


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111/125

深層の群狼——連携する牙

 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <生体反応検出:59F通路> │


 │ │


 │ 検出数:12体 │


 │ 種別:深層結晶獣(Sランク相当) │


 │ 配置:通路両側面の結晶内部に潜伏 │


 │ │


 │ ⚠ 戦闘推奨度:回避推奨 │


 │ 個体戦闘力:極めて高い │


 │ 連携度:高(群体行動プロトコル確認) │


 │ │


 │ 特記:攻撃パターンに異常あり(詳細解析中) │


 └──────────────────────────────────┘


 12体。Sランク相当が12体。


 結晶の壁面の中に影が見えた。透明度の高い結晶の奥で、巨大な獣のシルエットが蠢いている。体長3メートルはある狼のような姿。結晶質の甲殻に覆われた体表。琥珀色の眼が結晶越しにこちらを見つめている。


 12対の琥珀色の眼が、一斉にこちらを向いた。


 冷や汗が背中を伝った。一人だ。蒼真も三島も久我山もいない。武器もない。あるのは鑑定だけ。Sランク1体ですら通常のパーティなら全滅しかねない相手が12体。戦闘は——不可能。


 だが鑑定ウィンドウが追加データを展開した。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <深層結晶獣:行動アルゴリズム解析> │


 │ │


 │ プロトコル名:連携プロトコルv3.7 │


 │ 行動パターン:包囲殲滅型 │


 │ │


 │ フェーズ1:左右から同時に飛び出し挟撃 │


 │ フェーズ2:後方から回り込み退路を断つ │


 │ フェーズ3:頭上からの急降下で仕留める │


 │ │


 │ ⚠ 連携の同期ラグ:0.3秒 │


 │ 原因:個体間の結晶共鳴通信に微小な遅延 │


 │ → フェーズ移行時に0.3秒の隙が発生 │


 │ │


 │ 回避ルート算出中……完了 │


 │ 最適回避成功率:68% │


 └──────────────────────────────────┘


 68%。三回に一回は失敗する確率。営業の成約率で言えば悪くない数字だが、ここでの失敗は死を意味する。


 だが——他に選択肢はない。


 0.3秒。連携の隙間。フェーズが切り替わる瞬間の0.3秒だけ、包囲に穴が空く。その穴を縫って突破する。


「凛——聞こえてるか。モンスター12体、Sランク相当。回避する」


「——データ——受信——がんば——」


 切れた。だが最後の一言は聞こえた。


 結晶獣が動いた。


 壁面の結晶を突き破って、左右から同時に二体が飛び出した。フェーズ1。挟撃。巨大な結晶の爪が空気を裂く。鑑定のカウントダウンが視界に表示される——フェーズ移行まで2.1秒。


 走った。正面に向かって全力で走った。左右の結晶獣が着地して方向転換する——その動きに0.3秒の遅延がある。右側の個体が左側より0.3秒遅れて追尾を開始する。その瞬間、右寄りのルートに体をねじ込んだ。


 結晶の爪が背中の上を通過した。風圧で体が前のめりになる。


 フェーズ2。後方から三体が回り込んでくる。鑑定が軌道を表示——右斜め前に跳べ。


 跳んだ。結晶の突起を蹴って加速する。後方の獣が空振りする。爪が結晶の床面を抉り、破片が飛散した。鋭い破片が頬をかすめる。熱い。血が一筋流れた。


「っ——」


 フェーズ3。頭上。見上げる暇はない。鑑定が「伏せろ」と表示する。体を前に投げ出した。頭上を巨大な体が通過する。結晶の甲殻が天井の結晶に激突して轟音が響き、通路全体が振動した。不協和音。結晶が共鳴して生み出す耳をつんざく高音。


 立ち上がった。走り続ける。フェーズ1に戻るまで——鑑定のカウント——1.8秒。


 その1.8秒で10メートル走った。


 だが——獣たちが追ってこなかった。


 足を止めた。振り返る。12体の結晶獣が通路の一画に固まっている。琥珀色の眼がこちらを見つめている。だが——追撃しない。


 おかしい。


 鑑定ウィンドウが新たな分析結果を表示した。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <行動パターン再解析> │


 │ │


 │ ⚠ 重要な発見: │


 │ 攻撃に「誘導パターン」を検出 │


 │ │


 │ 分析: │


 │ ・フェーズ1の攻撃角度が殺傷最適値から6度ずれている│


 │ ・フェーズ3の急降下は着地点を意図的にずらしている │


 │ ・包囲の「穴」は設計されたもの(偶然ではない) │


 │ │


 │ 結論:殺害が目的ではない │


 │ 攻撃は深層方向への誘導 │


 │ 回避ルートは意図的に「正解のルート」に設定されている│


 │ │


 │ 推測:ダンジョンが侵入者をコアへ導いている │


 └──────────────────────────────────┘


 殺しに来ていたのではなく——導いていた。


 結晶獣の攻撃は俺を殺すためではなく、正しいルートを走らせるためのものだった。包囲の穴は偶然のラグではなく、コアが設定した「正解の道」。回避行動を取ることで自動的にコアへの最短ルートを走らされていた。


 営業時代を思い出す。優秀な先輩が客を「誘導」する話術。選択肢を提示しているように見せて、実は答えを一つに絞っている。「AとBどちらにしますか?」——どちらを選んでも先輩の思い通りだ。Cという選択肢がそもそも提示されない。


 このダンジョンも同じだ。俺に選択肢を与えているように見せて、全てのルートがコアに繋がっている。


「——なるほどね」


 恐怖と感嘆が混じった声が出た。


 結晶獣たちが通路の壁面に引っ込んだ。任務完了、とでも言うように。琥珀色の眼が結晶の奥に沈んでいく。後には爪痕と破片だけが残った。


「配信見てる人——聞こえるか。今のモンスター、俺を殺すつもりじゃなかった。導いてたんだ。ダンジョンが俺をコアに案内してる」


 【ダンジョンが一颯を待ってるってこと?】


 【怖すぎる。歓迎されてるの逆に怖い】


 【マコト:理にかなっている。コアが対話者を求めているなら、その対話者を排除する理由がない。むしろ安全にコアまで送り届けたいはずだ】


 【でも頬切れてるじゃん。誘導にしては乱暴すぎね?】


 【シロ:攻撃角度のずれは最小限です。「本気ではない」ことの証明として十分な精度。ただし完全に無傷で通すつもりもなかった——試験としての側面もあります】


 試験。そうだ。ここは試験でもある。コアに至る資格があるかどうかを測っている。0.3秒の隙を読み取れる鑑定力。その隙を体で通過できる判断力。そして——導かれていると知っても前に進む意志。


 頬の傷から血が顎を伝った。指で拭う。赤い血が結晶の光で琥珀色に見えた。



  ◇



 59層の奥に進むと、通路が再び広くなった。


 結晶獣との遭遇から数分。壁面の結晶が巨大化し、通路というよりは洞窟のような空間に変わっていた。天井から垂れ下がる結晶の鍾乳石が、床面から伸びる結晶の石筍と接合して柱を形成している。


 その柱の一つに——手を触れた瞬間、鑑定が反応した。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <結晶柱内部データ検出> │


 │ │


 │ 種別:生体痕跡 │


 │ 残留者:三島鋼一郎 │


 │ 推定滞在期間:数時間~数日 │


 │ │


 │ 検出された装備痕跡: │


 │ ・片手剣の柄(結晶に取り込まれた状態) │


 │ ・防具の破片(肩当て、すね当て) │


 │ ・応急処置の痕跡(布の断片) │


 │ │


 │ 壁面メモ(59F-2区画):未確認の刻文あり │


 │ → 奥の壁面を確認してください │


 └──────────────────────────────────┘


 柱の奥——壁面に向かった。


 あった。59層のさらに奥、結晶の壁面に刻まれたメモの断片。55層や59層入口のものより小さく、弱々しい筆跡。力が残っていなかったのだろう。鉱石の破片で必死に刻んだ文字が、結晶化で半ば埋もれている。


 鑑定が復元した。


 ┌──────────────────────────────────┐


 │ <刻文復元:59F-2区画> │


 │ │


 │ 筆跡:三島鋼一郎(一致率91%) │


 │ │


 │ 内容(断片的): │


 │ 「真理が60層で何かを見つけた 結晶の繭…… │


 │  彼女は中に入ると言った 止められなかった │


 │  俺はこれ以上進めない 体が動かない │


 │     ダンジョンが俺を……保護している? │


 │  痛みがない 不思議と穏やかだ  │


 │  息子に伝えてくれ 父さんは最後まで……」 │


 │ │


 │ <記録途絶> │


 └──────────────────────────────────┘


 壁面の文字に指を当てた。結晶化した文字の凹凸。十年前の男の指先がここに触れた。同じ凹凸を、俺の指がなぞっている。


 「息子に伝えてくれ」。


 伝えるよ。必ず。三島に。


 ペンダントが穏やかな金色の光を放っていた。壁面の刻文を照らす光。父の最期のメッセージを照らす、息子の形見の光。


 【……もう言葉にならん】


 【三島のお父さん、最後まで藤堂さんを守ろうとしてたんだ】


 【ダンジョンが「保護」してるって何? 敵じゃないの?】


 【マコト:重要な情報だ。ダンジョンは三島鋼一郎を殺していない。「保護」している。コアの意思は単純な排除ではないことの証拠だ】


 保護。敵ではなく、保護。


 このダンジョンは——何なんだ。モンスターで人を殺し、都市を脅かす脅威であると同時に、侵入者を導き、倒れた者を保護する。矛盾した存在。だが——鑑定データは嘘をつかない。


 壁面から手を離した。指先に残る結晶の冷たさと、ペンダントの温かさ。二つの温度が重なっている。


「先に進む。鋼一郎さんが藤堂さんを送った60層——結晶の繭。あそこに答えがある」


 独り言だ。だが二千万人に聞こえている。


 結晶の通路を進んだ。コアの鼓動がますます強くなる。壁面の結晶が内側から光を放ち始めている。琥珀色の光。心臓の鼓動のように明滅する光。


 60層の入口が近い。結晶のアーチが見えてきた。大きな空間の気配。そして——微かに感じる人の気配。人ではないかもしれない。かつて人だったものの気配。


 ペンダントの光が最大になった。通路全体が金色に染まる。


 アーチをくぐった。


 そこに——彼女がいた。


 結晶の繭の中で、十年間眠り続けた女性。


 藤堂真理。


 最初の読み手レベル4。コアとの対話を試みた先駆者。三島鋼一郎が最後の力で送り出した女性。凛が追い続けた足跡の主。


 琥珀色の結晶が、心臓の鼓動のように明滅していた。

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