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14.消えた一ヶ月と、消えない違和感

 ――ピピピピッピピピピッ♪


 スマホのアラームが鳴っている。

 ワイはいつものように目を覚ました。


 時刻は六時。 七月六日……木曜日……?


「……は?」


 スマホの画面を二度見する。


「七月六日……木曜日……!?」


 頭が一瞬、止まる。


「え? ……は? 昨日は六月四日やろ?

 何で一ヶ月も飛んでるねん!」


 ミクちゃんと乗ったスライダー。

 カコが持ってきた激辛焼きそば。

 大波プールで矢名井さんがポロリして……。


 そこまでは、はっきり覚えとる。


「ほなら次は……、六月五日やろ……?」


 当然や。

 そのはずやのに。


「なんで……七月やねん」


 指でカレンダーをスクロールする。


 五日。六日。七日。八日。九日――


 全部、“過去”になっとる。


「……いやいやいや、笑えへんで」


 全く記憶にない一ヶ月が、そこに存在しとる。


「……おじさん、朝から独り言うるさいッス」


 布団の中からカコが顔を出す。


「カコ、今日何月何日や?」


「七月六日ッスよ……」


「昨日は?」


「昨日……?」


 カコは少しだけ考えて――


「何言ってんスか、六の前は五ッスよ……?」


「で、何した?」


「……分かんないッス」


 背筋に、じわっとした寒気。


「なあ、カコ。

 ワイら、なんか……一ヶ月飛んでへんか?」


 カコはボリボリ頭をかく。


「言われてみれば、そんな気もするッスね」


「軽いな!!」


「でも実際、身体は普通ッスよ?」


「それが余計に怖いねん!

 ……ほな、ニュース見るか」


 リモコンを手に取り、テレビをつける。


『今朝のニュースです。

 国内外の複数の基幹システムにおいて、約一ヶ月分の記録欠落が確認されました。

 金融取引、交通履歴、通信ログなど、独立したシステム間で同一期間のデータが消失していることが判明しています。

 なお、物理的なインフラや人的被害は確認されておらず、政府は「記録上の問題」として調査を――』


「……一ヶ月」


 思わず呟く。


 カコも画面を見つめたまま固まっとる。


 ◇


 いつも通り会社に着く。


 ……普通や。


 本当にいつも通りすぎて、逆に気持ち悪い。


「ザンテツ課長、おはようございます……」


 自分の席で頭を抱えていると、ミクちゃんが事務所に入ってきた。

 

 ……って、何でパジャマ姿やねんっ!!

 でも、ミクちゃん……げっそりしとるな……。


「おはよ……。 なぁ、ミクちゃん。

 なんで……、パジャマなんや?

 なんか相当疲れとるみたいやで……?」


「……はい。

 今朝、スーツにお味噌汁を溢してしまいまして……」


「そりゃ災難やったな……。

 それと、もう一つ聞きたいことがあるんやけど………。

 ワイって、昨日何してた?」


 ミクちゃんはやれやれと言った仕草で答える。


「はいはい、今日もその質問ですね。

 えっと……先月からずっと新商品の開発とかされてますよ」


「具体的には?」


「……それは、多分……教えられません。

 ……パソコンを見たら分かると思いますけど」


 ミクちゃん、なんか変な言い方やな……。

 それに、なんか無愛想やし……。


 言われるがままパソコンを見ると、試作品の記録がちゃんと残っとる。


 日付は――六月五日から七月五日。

 びっしり……かと思いきや、日を追うごとに試作の数は減っていってた。

 しかしながら、確実に仕事はしている。

 

 でも、その一ヶ月が……、一個も思い出されへん。


「――合理性が崩壊していますわね」


 矢名井さんも出社してきた。


「矢名井さん、これ……」


「現象としては明確です」


 彼女は淡々と言う。


「六月五日から七月五日まで。

 その期間の“記憶”が消失しています」


「でも、これ……」


 一ヶ月、毎日試作をしていたであろうレシピを指さす。


「残っとるやん?」


「結果は残っていますわ」


「……ほな何が消えたんや」


「……“観測可能な過程”ですわ」


「……は?」


「出来事は存在した。

 ですが、それを裏付ける記憶が存在しない。

 ……つまり、簡単に言えば、“やったことだけ残って、やってる最中が全部消えている”状態です」


「……なんやそれ」


「こんなこと、通常はありえませんわ。

 はっきり申し上げて、私も理解不能です」


 きっぱりと言い切る。


 ワイも理解できへんかった。

 ミクちゃんやカコの事実改変の能力とは全く異質な能力の影響なんかな……。


 ◇


 時刻はお昼過ぎ。

 昼休憩中、ワイは一人で机に突っ伏していた。


「一ヶ月て……」


 それが、丸ごと抜け落ちとる。


「せやのに……、なんか……やった気はする」


 この感覚だけが残っとる。


 空っぽのはずやのに、中身があった痕跡だけがある。


「気持ち悪すぎるやろ……」


 ワイは喉が乾くような感覚に陥った。


 ……よぉく思い出すんや。

 六月四日は……、みんなで楽しくプールに行って……。

 そこまではええ……、問題は、その“あと”や。


「そのあと、ワイ……何した?」


 考えても、出てこない。

 六月五日から七月五日までの記憶が、丸ごと……ない。


「……帳尻合わせたんか」


 ぽつりと呟く。


 非合理なものを生んだ代償……。

 地球の天使や悪魔なんかよりも上位の存在が、整合性を取ったんや。

 しかも……、一ヶ月分も削ってな。


 周りの奴ら、案外普通にしとるな……。


 気づいてないんやない。

 なんかもう、諦めて受け入れとるみたいな感じや。

 ……でも、確実に“何か”が消されとるんや。


 ワイは、ゆっくりと天井を見上げた。


「……ワイらの人生、勝手に編集されとるやんけ」


 ワイはミクちゃんのウェブ小説の編集長だった事を思い出した。


 ……編集、か。

 そういやワイ、前にミクちゃんの書いとる小説の添削みたいなことやってたな。

 ……“いらん部分は削ってええ”って、ワイは思っとった。


 その時、ワイは気づいた。


 あれ……?

 言われてみれば、ミクちゃんだけはワイ以上に精神をやられとったみたいやな……。


 ◇


 そして、帰り道。

 今日は仕事が順調に進み、定時で上がることができた。


 夕空は、やけに綺麗や。

 六月五日から七月五日なんて……、最初から存在しなかったみたいにな。


「……一ヶ月消えたのに、平和すぎるやろ。

 今日起きた事も、明日には忘れちまうんやろか……」


 ワイはそんな不安に駆られていた。

 明日を迎えるのが、ほんの少し怖かった。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら、  


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 ※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!

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