10.宇宙レベルの新人現る
――ピピピピッピピピピッ♪
スマホのアラームが鳴っている。
ワイはいつもの時間にいつものように目を覚ました。
時刻は六時。 今日は五月一日の月曜日。
長い長い四月が終わって、今日から五月や。
「……ほな、朝のニュースみるか」
『政府が先日発表した、企業の生産性向上のための新人研修制度の強化についてです。
独自調査の結果――』
新人を育てるんやなくて、壊れにくい社畜を量産する制度なんやろな。
こりゃどんどん人間の幸福度が下がって、ホンマに宇宙検閲官に消されてまうで……。
「……ほな、会社行くか」
◇
会社に着くと、なんやかんやで午前中は普通に過ぎた。
普通と言っても、ワイとミクちゃんとカコは地球滅亡の件を抱えたままやが……。
時刻は一時。 お昼休憩が終わった後や。
まあ……、休憩中も仕事しとったんやが……。
事務所に鈴香部長が入ってきた。
「開発部のみんな、ちょっといいかしら?
今日から我が開発部に新人が入ることになったから、紹介するわ」
このタイミングで……?
てか、今年新人増えすぎやろ!
今朝のニュースでやってた新人研修制度の強化って、この事かいな。
ミクちゃんが独り言を呟いている。
「……こんな時期に新人なんて、今までのループでは一度もなかった……」
すると、鈴香部長の背後から、女性が入ってきた。
「本日から配属されました、矢名井ですわ。
よろしくお願い申し上げますわ」
……なんや、言葉遣いに違和感があるな。
歳は二十代前半くらいで、黒髪ショートで眼鏡をかけて、真面目そうな女性なんやが……。
……いや! スーツピチピチ過ぎるやろ!
胸のボタン飛んでまいそうやし、しゃがんだらパンツ見えるでアレ……!
カコもミクちゃんも固まっとる。
鈴香部長が言った。
「サビ残くん、矢名井さんには、お前の席の隣を使わせるから、仕事を教えてやってくれ」
「りょ、了解っす〜」
ワイの仕事を問答無用で増やし、鈴香部長は去った。
新人は変に堂々とした態度でワイの隣に座る。
「よろしくお願いしますわ。 矢名井です」
矢名井さんはメガネをクイッと上げた。
「お、おう。 ワイは課長の錆田斬鉄や」
なんや、えらい真面目そうやな。
こっちが日和ってしまいそうやわ……。
「矢名井さんやな。 よろしくやで。
ほな、まずパソコン開いてみ?
ほんでな――」
ワイはパソコンを指さしたりして、ひとまず教えられる事から教えた。
もちろん、ミクちゃんとカコへの指示も出しながら。
ワイが色々と教えると、矢名井さんはおもむろにメモ帳を取り出した。
そして、真面目にメモを取っとる。
しかし次の瞬間。
「錆田課長、質問よろしいでしょうか?」
「ああ、ええで」
「なぜ地球人は一日八時間以上の労働をするのですか?」
地球人って……、妙な言い方やな。
「それ、ワイに聞いちゃう……?
ワイが一番聞きたいくらいなんやけど」
矢名井さんは熱心にメモを取っている。
「観察の結果、合理性が見えませんわ」
「なあ、さっきから何を言っとるんや?」
矢名井さんはワイの質問を無視してこう続ける。
「昨日のニュースでは“働き方改革”とありましたが、実際の労働時間は増加しているように見えますわ。
矛盾、分析対象ですわ」
ワイらの様子が変なことに気づいたカコが小声で言った。
「おじさん、コイツ宇宙人ッス」
「……やっぱり?」
矢名井さんはメモを取りながら言った。
「もう一つ質問いいでしょうか?」
「ええけど……」
「残業とは何ですか?」
ワイは自慢げに言った。
「それはな、その日の仕事が終わらんくて、会社から帰られへんことや」
「なぜ?」
「地球人、特に日本人は仕事が第一なんやで。
アホくさい文化やろ?」
矢名井さんは真剣な顔でメモを取っている。
と思ったら、急にワイの方をじーっと見つめた。
「な、なんや? この見つめられる感覚……。
もしかして、矢名井さんってこないだワイの家に来た宇宙人さん……?」
矢名井さんは驚いたような表情に変わり、小さく頭を下げて言った。
「錆田課長、流石ですわね。
ええ。 私はこの間、錆田課長のお宅にお邪魔したあの宇宙人です。
そしてあの後、私は宇宙検閲官直属の観察員に昇進いたしました。
今回は地球人の姿に変身し、地球文明の調査を任されています」
ワイはしばらく考えて言った。
「……なぜにワイの会社の新人研修に来たん?」
「はい。 地球文明の調査には……ブラック企業が最適との司令ですわ。
地球では日本語の過労死という言葉が“Karoshi”として広く使われているの、ご存知ですか?」
「……ん? ああなんか聞いた事あるで。
日本以外ではあんまり起きないから、そのまま広まったとか……」
「それだけじゃないですわ。
実は宇宙の公用語でも“Karoshi”は使われています。
全宇宙みても、そんなことする生命体は地球でしか確認されていないからです」
ワイは天井を見た。
……んなアホな話あるんか。
……ワイの会社は地球代表、いや、宇宙代表のブラック企業なんかいな……。
矢名井さんは事務所内をキョロキョロと見渡しながメモを取っている。
「それ、何をメモしてんの?」
「観察ですわ。
老齢の地球人は随分と暇そうにしているのに比べて、若い地球人は忙しそうですね」
「まあ、年功序列ってやつ……? 違うけど」
ワイが冗談を言うと、隣でカコが小声で言った。
「こういうのって、宇宙でも珍しい文化なんスかね」
「……さぁ?」
矢名井さんはメモ帳を見ながら言う。
「地球に来る前に、私は仮説を立てましたわ」
「なんや?」
「地球文明は……苦しみを美徳とする文化」
カコは頷いた。
「それは正しいッスね」
ミクちゃんが慌てて言った。
「ちょ、違うって!」
矢名井さんはメモを取る。
「地球担当の天使と悪魔でも意見が分裂……。
こないだも喧嘩してましたし……、チームワークの乱れもバグの原因ですわね」
ミクちゃんとカコは机の下でお互い脚で蹴り合っている。
ガンッガンッと音を立てているが、気にせず矢名井さんが質問してきた。
「錆田課長、あなたは先週ずっと午後八時頃まで働いていました。
それは労働契約に含まれていますか?」
「含まれてへん」
「ではなぜ働くのですか?」
「帰りにくいからや」
「……それは、合理的ですか?」
「いや、全然……」
矢名井くんはメモを取った。
「理解不能ですわ」
◇
それから時は流れ、定時の一時間前になった。
しかし、ここで残業確定演出や。
鈴香部長がこの時間に部内会議の予定を入れていたんや。
会議後にすぐ帰る鈴香部長はちょうど定時で帰れるが、ワイらにはその会議の後処理があるんや。
そして、会議が始まった。
鈴香部長が言う。
「サビ残くん、今月の売上が下がっているが――」
一気に重たい空気に変わった。
「――残業を増やして対応してくれないかい?」
矢名井さんが手を挙げた。
新人のいきなりの暴挙に全員が注目する。
「新人ですが質問よろしいでしょうか?」
「どうした? 矢名井」
「売上が下がっている原因は分析されていますか?」
鈴香部長が答える。
「気合いが足りんのよ、気合いが」
矢名井さんが固まった。
「……それって、部長の感想ですよね?」
論破王で有名な、ゆきひろを彷彿とさせる生意気な態度に、鈴香部長がブチギレる。
「うっさいわねぇ……、新人が口答えするなっての!」
矢名井さんはなんとも思ってない様子で、黙ってメモを取っている。
そうして、会議が終わった。
◇
夜。 気づけばまた八時や。
社員はほとんど帰って、ワイら四人だけ残っとる。
矢名井さんが言った。
「本日の観察結果をまとめますわ。
地球文明は、その文明の長さの割には高度な技術を持っています。
しかし、社会構造が極めて非合理……」
カコが笑う。
「ププ、正論ッス」
矢名井さんが続ける。
「特にブラック企業文化だけを見ると、検閲官が地球を消去対象に選んだのも頷けます。
これでは地球に配属された天使が可哀想です。
逆に悪魔は仕事がないくらいでしょうね」
カコはミクちゃんの顔を見てニヤついている。
「ミクが頑張らないと、おじさんの会社みたいなブラック企業が地球滅ぼすッスね」
ミクちゃんが慌てる。
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないわ!」
矢名井さんは、またもやワイをじーっと見つめる。
「しかし、希望はありますわ。
錆田課長、あなたです」
「……ワイ?」
矢名井さんはワイを見つめたまま、どんどん距離を詰めてくる。
「あなたの存在は、宇宙の観測データに存在しないバグです。
バグは通常、削除されますが、あなたは生きている」
そしてついに、巨大な胸をワイの肩に押し付ける程の距離まで近づいてきた。
「私は錆田課長みたいなバグが検閲官打倒の鍵になると思っていますわ。
私にも地球存続のお手伝いをさせてください」
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ったら、
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援をお願いいたします!(つまらなかった星一つで大丈夫です。)
どんどん投稿しますので、ブックマークも是非ご利用ください!
※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!




