01.ワイはブラック企業のサビ残くん
「この刀に、ワイの全てを賭ける……!
ミクちゃん、天使の力借りるでぇ!
敵が宇宙の検閲官だか何だか知らへんが――ワイは地球のサビ残くんや!!」
目の前におるのは、銀色の皮膚を持つ、のっぺらぼうの宇宙人。
人型やのに、“顔”だけが存在してへん。
だが……、確実にワイを“見とる”。
「その隙、もろたでっ!」
――ガキンッ!
振り抜いた刀は、確かに首を捉えた。
だが、手応えは肉やない。金属や。
「な、なんやて……」
弾かれた反動で、体勢が崩れる。
その瞬間、宇宙人の腕がぬるりと伸びて――ワイの頭を、正確に貫こうとする。
「アカン、やられちま――」
◇
「……っ!? ハァ……ハァ……」
飛び起きたワイは、荒い息を吐いた。
「……なんや夢かいな。リアル過ぎやろ……」
全身びっしょり汗や。
心臓がまだバクバク言うとる。
……けど。
「……なんでやろな」
夢にしては、“感触”が残りすぎとる。
あの硬さ。あの視線。
妙に、現実味があった。
「……まあええか」
考えても仕方ない。ワイは天井を見る。
「――って、六時回っとるやんけ!!」
ガバッと起き上がる。
「アラームかけ忘れとるやん!!」
スマホを掴んで日付を確認する。
一月一日。日曜日。
そして――
「……四十歳の誕生日やで、ワイ」
めでたくもなんともない現実が、そこにあった。
今日は休日出勤二日目。
つまり、“休みじゃない元日”や。
「はぁ……」
とりあえずテレビをつける。
「ニュースでも見ながら黒糖パン食うか……」
別に興味があるわけやない。
ただ、クソ上司が“社会人はニュース見ろ”とうるさいだけや。
『元旦!朝からお笑い結果発表ォォォォ!
我々、ダウンタウ――』
――ピッ。
秒でチャンネルを変える。
『臨時ニュースをお伝えします。
ここ数日で活発化している宇宙の裂け目、“VOID亀裂”についてです。
先ほど、JAXAの観測機器が大規模な亀裂を捉え――』
「……よう分からんな」
黒糖パンをかじる。
「宇宙がどうとか、裂け目がどうとか……、ワイの生活に影響ないやろ」
一応、考える。
「……これでパチの当たり確率バグったら神なんやけどな」
まあ、ないやろな。
「はぁ……ワイは楽しくパチ打てたらそれでええねん」
そう呟いて、立ち上がる。
「ほな、軍資金稼ぎに行ってきますか」
着替え? そんなもんいらん。
ワイの服はな、パジャマにも仕事着にもなる万能装備や。
愛用しとるのは、UNOQLIのハイパーストレッチスーツ。
三日洗ってへんけど、まだ戦えるで。
◇
目的地は、走って十五分の小さな製菓会社。
普通は“徒歩何分”って言うやろうけど、ワイは歩かん。
毎朝ギリギリで生きてるねん。
「ほんま、ようこんな生活続けとるわ……」
会社に着いて、いつものように玄関を通る。
タイムカードは――スルーや。
忘れとるわけやない。
八時なったら切りに来るんや。
それがブラック企業の掟やからな。
「おはようござ――え?」
事務所に入った瞬間、ワイは固まった。
「おお、サビ残くん。おっは〜」
「……は?」
そこにおったんは、クソ上司――北粥鈴香部長。
元部下やったくせに、社長の娘ってだけで二年目で昇進した女や。
ちなみに、サビ残くんってのはワイのアダ名や。
別に毎日サービス残業しとるからって訳やないで?
錆田斬鉄、略してサビザンや。
「す、鈴香部長……なんでこんな時間に」
「いやねぇ、来年度の新人が見学来たいって言うから準備してんのよ」
「元日に?」
「やる気ある子は嫌いじゃないよ」
ニヤッと笑う顔が怖い。
「とりまサビ残くん、新人教育よろしく」
「丸投げっすか」
「私は二階で寝る」
「自由すぎるやろ……」
ため息をつく。
「ワイも会社と家くっついてたら、あと十五分寝れるのに」
「私と結婚するなら住めるぞ?」
「いえ、結構っす」
即答や。
顔は好みやが、どうにも中身が無理なんや。
――ピーンポーン♪
チャイムが鳴る。
「お、来たねぇ」
鈴香部長が嬉しそうにインターホンを取る。
「ミクちゃんだね? 入ってどうぞ〜」
「ミクちゃん、ねぇ……」
名前だけでちょっと可愛い予感するの、なんなんやろな。
しばらくして、事務所のドアが開く。
――ガチャ。
入ってきたのは、高校の制服姿の女の子やった。
青みがかった髪が、蛍光灯の下でやけに綺麗に光っとる。
……いや、光り方が少しおかしい。
照明と、微妙にズレとる気がする。
彼女と視線が合う。
その瞬間――妙に、“見られている”感覚が強くなった。
「この子が来年度の新人よ。挨拶しな」
「はい!」
彼女は、ぴしっと姿勢を正した。
「都立天柄高校の天導未来です!
本日はよろしくお願いします!」
声がやけに通る。
クリアすぎるくらいに。
「じゃ、サビ残くん、後は任せたわよ〜」
鈴香部長はさっさと引き上げようとする。
「分かってると思うけど、JKに手ぇ出したらクビよ?」
「出しませんて」
「あとアンタの家、スケベな本ばっからしいからね」
「余計なこと言わんでくださいよ!!」
最悪や。
高校生の女の子の前でなんて事言うんや……。
「ザンテツ課長、よろしくお願いします!」
「……え?」
ワイは思わず固まった。
「なんでワイの名前知っとるんや?」
「あっ――」
一瞬、空気が止まる。
◇
時刻はお昼前。
ミクちゃんは何かを隠しとる感じがした。
なんつーか、失言をしないように言葉を一つ一つ選んでいる感じや。
その時やった。
――ピシッ。
窓ガラスに、ヒビが入る。
「……は?」
次の瞬間。
――バリンッ!!
ガラスが砕け散った。
飛び込んできたのは、銀色の“何か”。
のっぺらぼうの、宇宙人。
「◎△$♪×¥●#!」
「な、なんやコイツ!?」
フワッとした感覚と共に腰が抜ける……。
体が……動かへん。
今朝の夢と同じや。
あの質感、あの異様さ。
けど今は――現実や。
なのに。
「……はぁ」
ミクちゃんだけが、ため息をついた。
「あーもう、最悪……」
さっきまでの丁寧な口調が消えとる。
「元日から夢の中でバグを起こすなんて……信じられないわよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、宇宙人の前に立つ。
「ちょ、ミクちゃん!?」
「課長は下がっててください」
振り返らずに言ったその声は、妙に落ち着いていた。
まるで――何度も経験しているみたいに。
「仕方ないですね……」
一瞬、間があって。
「今回は――リセットします」
その言葉と同時に、世界がわずかに“ズレた”。
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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!




