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虚飾の歴史に、夢は解けて。――二人の罪人は再演の旅を  作者: はる
【第四章】染まらぬ世界

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第三十五話:虚飾を染める笑顔

第四章、開幕です。

ルヴィエラから更に東。

 アステリアの王都の倍の規模を誇る、『不変の都エテルナ』。

 そこは、白亜の建物が建ち並び、『停滞の神』を祭り上げている。

 至るところに、サラとファルの手配書が掲示されていた。


 目に映るもの全てが、雪を固めたように白く、無機質。

 その「清潔すぎる白」は、二人を浮かび上がらせるように佇んでいる。


「真っ白だし、色々落ち着かないね」


 ファルは気にすらしていない。

 サラは、ファルが染めてくれている赤茶色の髪を弄りながら、辺りを見回す。

 自分の髪の色さえも、浮き上がっているような錯覚に陥る。


「見つかったら盛大に暴れようか」


 ファルが僅かに笑いながら言うが、それは無機質に聞こえた。

 冗談として笑い飛ばすには、冷たい声。


「……冗談に聞こえないからやめてよ、もう」


 サラは少しだけ眉をひそめ、彼の袖をぎゅっと握り直した。


 ファルの言う、暴れるという選択。


 それが、単なる強がりではないことを知ってしまった。

 それが、できてしまうことも。

 それが、歴史から消されていることも。 

 それが…孤独であったことも。


「すまない。…悪ふざけが過ぎたな」


 ファルは、軽く笑い飛ばす。

 それが、サラには泣いているように見えた。

 サラの迷いが、少しずつ解けていく。


 握った袖を離さないように、離れて行かないように握り直す。


「サラ、なんで袖を離さないんだ?」


「ん…秘密」


 ファル静かに息を吐いて、サラに視線を合わせた。


「サラ、最初から約束しているだろ。一緒にいると」


 優しく、包むような声。

 儚く、散ってしまいそうな声。


「…わかってるけど」


 サラは名残惜しむように、ファルの袖からゆっくりと手を離そうとした。

 その時、袖から覗いたファルの指に、まだ消えない傷が覗く。


「その傷、王都での傷、だよね?なんで消えないの?」


 サラに言われて、ファルは手を眺める。


「消えたく、ないのかもしれないな」


「…なにそれ。傷は治るものでしょ」


 サラの心に、冷たい、小さな棘が刺さる。

 本当に小さな、でも、痛い棘。


「それに、ファルなら大丈夫だよね?」


 サラは誤魔化すように笑い飛ばす。

 棘が刺さらないように。


 自嘲するように、でも認めるように、ファルは軽く笑った。

 その笑顔が、サラに決意を促す。


「ごめん。ファル、今の、違うよね…」


 サラは息を深く吸い、拳に力を込めた。

 袖の感触が、いつでもそこにあると言い聞かせるように。


「ファル…もう、隠すのやめよう?」


 唐突な宣言。


 少しだけ暖かくなった風が、蝦夷菊の香りを運びながら、二人の間を吹き抜ける。


「だから、色、戻して…」


「サラ、それは――」


「お願い」


 サラは、ファルの言葉を遮った。

 その瞳は、揺らぐことなくファルを見つめた。


 ファルは僅かに目を伏せた。

 迷いではなく、覚悟を決めるように。

 

「…わかった」


 ファルがサラの額に手を翳す。

 音も無く、静かに、ゆっくりと色が戻る。


 透き通るような青みがかった銀の髪、そして深い蒼の瞳。

 それは、白亜の建物を青く照らした。

 同時に、ファルの色も戻り、街の光をすべて吸い込むような絶対的な黒が浮かび上がる。

 

 白亜て混じる蒼と黒。

 その存在が、街を静寂で支配した。


 サラは、少女の笑顔で、藍宝石の首飾りを撫でた。


「暴れちゃおっか」


 満面の笑みで言われた、突拍子もないサラの一言。


 だが、初めての一言。

 それは、歴史から消された物語とは違う一歩。

 それが、サラの決めた決意の一つ。


 ファルは驚いた後、笑いを堪えるように口を押さえた。


「まったく…予想外すぎるだろ」

 


 二人の楽しげな笑い声を包んでいる静寂を、人々の声が染め始めた。

 悪意の無い、無慈悲な声が。

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