幕間:世界一下手な嘘
王城は、塵ひとつが落ちる音すら響くのではないかと思えるほど、静まり帰っていた。
変えたものは、友だった者の祈りか。
伏せたものは、師だった者の願いか。
消したものは、統べるもの達の希望か。
栄華の象徴たる城には、もはや憎悪の叫びも、野心の熱も残っていない。
ファルが通り過ぎた後に残されたのは、ただ白く乾いた無機質な静寂だけだった。
王都は既に夜が更け、朝日が闇を優しく照らそうとしている。
サラはファルの後ろを、少しだけ離れて歩く。
少しだけ、遠くなってしまったような気がする背中が、ふと歩みを止めた。
サラは手を伸ばし描けて、届かないことに気付く。
「サラ、私は…」
振り返らず、言葉を探すファルの背中が小さく見えた。
「大丈夫。分かってるよ」
ただそれだけ。
それを聞いて、ファルは返事をしないまま歩きだす。
その背中が、少しだけ近くなった。
「ねえ、私は誰なのかな…」
答えなど分かっている。
「サラは、サラですよ」
当たり前の答え。
「…うん。……ファルはファル、だよね」
「…そう、ですね」
その答えは、サラにとって苦しい答え。
「うそ、下手だよね」
ファルの背中が、手を伸ばせば届く距離。
でも、伸ばしかけてやめてしまう。
「うそは得意なはずなんですが」
ファルが自分を蔑むように、静かに、笑った。
手を伸ばしたら、漸く、届いた。
「…うそつき。…世界一うそが下手なくせに」
掴んだファルの漆黒の衣は、いつも通り温かい。
「お見通し、ですか」
振り返ったファルは、消えてしまいそうなほど儚く、綺麗に見える。
「サラ、東へ行きましょうか」
「東って?」
ファルが少しだけ、子供のような笑みを浮かべた。
「美の都…ルヴィエラです」
サラの目が少しだけ見開かれ、期待が滲むように揺れた。
ファルはそれを見逃さなかった。
「決まり、ですね」
「うん!」
サラは、笑顔と期待に釣られて、ファルの隣を歩く。
もう、いつでも届く場所に――。




