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4話・逃走劇

 町の夜は、森とは違った雰囲気を醸し出していた。

 その町を、まるで子供のように目を輝かせながら彼は歩いていた。

 様々な店が並ぶ中、店頭に仮面が飾られた店が目に留まる。

(……待てよ、仮面とか手袋とかで完全に肌を隠したら昼も地上で活動できるのでは?よしっ、やってみよう!)

 彼が店に入ると、中にも子供が着けていそうなかわいらしいものからどこかの中二病が着けていそうな怪しげなものまで様々な仮面がある。

 彼はできるだけ穴が開いていない仮面を探す。……すると、一つの仮面に興味をひかれた。

 デザインは、真っ黒の仮面の真ん中に目のような白いマークが一つだけ。穴やスリットは一つもない。

(ウーン、デザインいいんだけど、これ周り見えるのか?)

 彼が?を浮かべていると、店の奥から60歳くらいの男性が出てきた。

「おっ、客か?珍しいな。その仮面に興味があるのかい?」

「あっ、店員ですか?ありはするんですけど、これ周り見えるのかなーと思いまして。」

「もっともな疑問だ。それは魔法が掛けられていて、仮面をつけても視界に何の影響もないんだ。俺も実際つけてみたときは驚いたよ。……それから、俺は店長だよ。」

「すみません、店長だったんですね。……なるほど、魔法か……」

 しばし考える彼。そして、店長に聞く。

「これ、一回つけてみてもいいですか?」

「もちろん。つけてみないと信じられないだろうからな。」

「ありがとうございます。」

 そう言ってフードを外す彼。

 店長は彼の素顔を見て息を吞んだ。

「アンタ……凄い整った顔してるな。」

(こんな美男子なかなか見ないな。まるで人の手で作られたみたいだ。)

「えっ?あ、ありがとうございます。」

(確かに、自分でも顔整ってるなとは思うけど、この世界の基準からしてもそうなのか?……あんまり顔は出さない方がいいな。)

 また一つ、仮面をつける理由が増えた彼は、黒い仮面を手に取り顔に着けてみた。

 彼の視界は……何の変化もなかった。

「——これ、いくらですか?」

「おっ!買ってくれるのかい!それは銀貨3枚だ。」

 彼はローブの袖に手を入れて〈シャドウボックス〉を発動する。

 そして、ちゃんと銀貨を3枚取り出し店主に渡す。

「銀貨3枚、確かに受け取った。これでその仮面はお前のものだ。」

「ありがとうございました。……経営、頑張ってください。」

「ハハッ。こちらこそ、ありがとう。」

 仮面をつけたままフードをかぶり、店を出た。

 すぐ近くの店で黒の手袋を買い、両手に着ける。

(よしっ、これで肌は全部隠せたな。後は朝を待つか。)

 朝まで暇なので彼は町を散策することにした。

 冒険者ギルドのような場所を見つけたり(念のため入りはしなかった)、教会を見つけて十字架に目を焼かれそうになったり、住宅街で酔いつぶれたおじさんを発見したり……

 そして広場についた。

 噴水のそばに座り、何気なく、夜空を眺める。すると——

「おい、そこのお前!痛い目見たくなかったら金を出せ!」

 視線を下げると、目の前には刃物を持って布で顔を隠した男が。

 切っ先はもちろん彼に向けられている。

 広場にいた人たちは悲鳴を上げたり、逃げ出したりしている。

 そんな中彼は、

「えっ?ヤダ。」

 平然と断った。

 当然、刃物男は荒々しい声で怒鳴る。

「うるさい!殺すぞ!」

「いや~、君には無理だろうな~。」

「ってめぇ!」

 刃物を突き刺そうとする刃物男。

 しかし、その切っ先は彼に届く前に二本の指で挟まれていた。

「なっ!?放せっ!この化け物!」

「いいよ。ただしその前に……一発殴らせろ!」

「なっ……」

 彼は()()()と言われて、かなりイラっときていた。

 だから無意識のうちにいつもより力がこもっていたのかもしれない。

 刃物男の顔面目掛けて振りかぶった右手は——

 ——頭部を吹っ飛ばしていた。






「おいっ、そこの男、止まれっ!」

(……な~んでこうなったんだろうな~。)

 彼は町の中を小走りする。

 後ろに兵士を引き連れて。

 驚異的な身体能力によって、小走りで逃走に十分な速度を保っている。

(力加減間違えたな~。)

 なぜ追いかけられているのか。

 それは、刃物男を殺してしまったから。

 さらに、タイミング悪く兵士が来てしまったから。

 理由はそれで十分だ。

 路地を走り、屋根の上を走り、大通りを走り、一般民家に玄関から入り、二階の窓から飛び出す。

 そうこうしているうちに、兵士の数も増えてきていた。

 ついでに野次馬もちらほら見るようになった。

(……さて、どうやって逃げ切ろう?)

 思考を割いていたからか、彼の進む先には兵士がこれ以上人が道を通らないように並んで立っていることに気がづかなかった。

「あっ!おいっ、来たぞ!」

 兵士の一人が彼に気づく。

 しかし、彼は動じない。

(これくらいなら、魔法は使わなくていいか。)

 彼は純粋な身体能力で兵士の上を飛び越える。

 ……が、その向こうには野次馬(?)が想像よりもたくさんいた。

「ヤッバ!」

 彼は人々の肩を足場にしてどうにか進んでいく。

 しかし、最後の一人は身長がほかの人より低かった。

 結果、目測を誤り彼の足はその人物の顔を踏みつけていた。

「ふぎゅっ」

「あっ」

 一瞬、体が固まる。

 が、後ろから聞こえる兵士の声で我に返った彼は、また逃走を開始する。

 屋根を飛び越え、兵士の上を飛び越え、逃げ続ける。

 そのまま数分走っていると、

「待てぇ!キサマあぁ!」

 という幼さがある女性の声が。

 後ろを振り向くと、子供ではなさそうだが、小柄な人物が猛スピードで走ってくる。

「あれってもしかしなくても、俺が顔踏みつけた人だよなあ……」

 なんとなく走ってくる人物から鬼のような雰囲気が。

「……逃げよ。」

 彼は()()で疾走した。






 魔法を使っていなくても、全力疾走した彼は高速道路の車並みのスピードがある。

 それなのに……

「まぁぁぁてぇぇぇ!」

「うわぁぁぁ!まだついてきてるぅぅぅ!」

 全く引き離せないでいた。

 かれこれ10分も町中を縦横無尽に走り回っている。

「だから謝るって!顔踏んで悪かったって!」

「そっちはもういい!キサマ、我のことを小さいといっただろう!」

「別に身長高くないじゃん!」

「キサマぁぁぁぁぁ!」

「ギャァァァァ!ゴメンってぇぇぇ!」

 この調子でエンドレスなのだ。

 しかし、この追いかけっこも終わりが見えてきている。

 なぜなら彼の視線の先に一つの門があるからだ。

「この勝負、俺の勝ちだな!」

「キサマ!町の外に逃げる気だな!」

「当たり前だろ!逃げなきゃ終わらないじゃん!」

 そういって高く跳躍し、門を飛び越える。

「フウ。ここまでこれば大丈……」

「逃げられると思ったかぁぁぁぁ!」

 なんとあの人物も門を飛び越えてきた。

「ヤッバ!もう奥の手だ!」

 彼がローブに手をかざすと、瞬時に蝙蝠の翼のような形になる。

「またな!」

 そう言い残して飛び去る。

 そんな彼にあの人物は手を向けて言う。

「このまま逃がすと思うな!〈バーニングブラスト〉!」

 その瞬間、彼へと向かってくる炎の極太ビーム。

「これはマズイ。〈ダークバリア・フルシールド〉」

 黒い膜は球体のように彼を包み込む。

 そして彼は、〈バーニングブラスト〉の直撃で地平線の彼方へ飛んで行った。

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