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3話・湖底散歩

「バンガボ(何だよ)!ベッガグベベバボビ(せっかく寝てたのに)!」

湖に引きずり込まれ、機嫌悪く目を覚ます彼。……誰であろうと寝てるときにいきなり冷水ぶっかけられたら怒るだろうが。

(なんだ?この()()

彼の目の前には、人の身長の2倍ほどの大きさのイカが足を広げていた。

(クラーケンでは無いな。けど、100%魔物ではありそうだ。)

彼が目の前のイカについて思案している間にも、彼はどんどん口に運ばれていく。

齧られたくないな、と思った彼は水魔法〈ウォータースラッシュ〉を発動。

三日月型の水の刃が彼に巻き付いているイカの足を切断する。

「ギシャァア!」

叫び声?を上げたイカ。

(イカって鳴くんだ!?)

少し驚きつつ〈ウォータースラッシュ〉を連発して、イカを八つ裂きにする彼。

イカも負けじと〈ウォーターウォール〉を発動し、壁を作って防ごうとするが簡単に破壊する。

足を伸ばして攻撃するもするが、すべて〈ウォータースラッシュ〉で切断する。

吸血鬼は溺死の心配もない。

イカとの攻防を数分続けた彼は、期待外れの現状にため息をつく。

(……なんか思ってたより弱いな。)

魔法ではイカより彼のほうが上、呼吸のハンデは無い。見たところ再生能力も彼のほうが高そうだ。

あまりにも一方的な展開に、少し不満を覚える彼。

すると突然、

「ギシャァァァアッ!!」

一際大きな叫び声を上げ、イカが墨を吐いた。

(なんだなんだ?)

驚きと好奇心で、一瞬動きを止める彼。その隙を見逃さず、イカは猛スピードで逃走を始めた。

(あっ!待てっ!)

〈エアボート〉を水中で使い、イカを追いかけ始める彼。

しかし、イカもなかなか速く、距離を詰めることができない。

だが逆に、両者がこれ以上離れることもない。

命がかかった巨大イカと完全に楽しんでいる吸血鬼の、奇妙で絶望的な追いかけっこが始まった。





(わぁぁお。何体いるんだ?これ?)

水中で漂う彼を360度グルっと囲む巨大イカの群れ。

一匹の巨大イカを追いかけていたら、いつの間にか囲まれていた。

しかし、そんな状況にいる中、彼は平然としていた。

いや、むしろこれから起こるであろう戦闘に思いを巡らし、高揚感を得ていた。

(よしっ!100%本気で行くかっ!)

そして次の瞬間、戦闘が始まった。

まず最初に向かってきた比較的小柄なイカを、長く伸ばした爪で一刀両断し、

次に後ろからくる何体かを、〈ウォータースラッシュ〉で八つ裂きにし、

上から飛んできた魔法を〈ウォーターウォール〉で防ぎ、

突進してきた個体の足をつかむと魔法と驚異的な筋力で振り回し、ほかのイカを攻撃、

振り回したイカをそのまま岩に叩きつけ、

連発した〈ウォータースラッシュ〉で数十体まとめて倒し、

足を巻き付けてきたイカを完全に巻き付かれる前に爪で切り裂く。

イカの群れの中で、目を輝かせ、純粋に戦闘を楽しむ彼。

群れの存続をかけて、命がけで向かっていくイカ達。

——一体、爪で切り裂き、あたりを見回して次の獲物を探す彼。

彼の周りにはもう、数多くの死骸のみが転がっていた……

(あれっ?……もう終わったのか。)

彼は疲労の色すら見せず、少し残念がる。

吸血鬼の体になってから、彼は人間だった時には感じていた様々ものをまともに感じなくなっていた。

命を、雑草を抜くのと同じ感覚で奪えるようになっている彼。

……まるで心までもが、人間のものではなくなっているかのようだ。

心の片隅に浮かんだ言葉を頭を振って追い出し、とりあえず陸に上がろうと思った彼は、水から顔を出して、日光に顔を焼かれた。

「いっだぁぁあ!!」

慌てて潜る彼。

彼は久しぶりに発見したこの新しい情報について軽く考える。

(フーム、どうやら日光に当たっていても、水中なら問題ないらしい。)

「……ばんべびばばべぎづががばっがんがぁぁぁ(なんで今まで気づかなかったんだぁぁぁ)!」

思わず声に出して叫んでしまう彼。

(落ち着け落ち着け、今更後悔しても意味は無い。昼も外で活動できたのかもとか思っても仕方がない。とりあえず、なぜ燃えないのかだけど、水の手助けによって、再生能力でうまく対抗できてるから……かなあ?まあ、今は詳しい仕組みはわからなくていいか。)

焼けてしまった顔の再生も終了し、思考も一旦終了させた彼は、

(吸血鬼の、のどかな湖底散歩!)

湖の中から街を目指すことにした。




静かな湖底をすべるように進む影が一つ。

〈エアボート〉を発動した彼である。

散歩とは言っていたが、今日の夜までに町についていたかったため、使うことにした。

(それにしても、きれいな湖だなあ。)

彼の思う通り、この湖の水はとても澄んでいる。

——だから()()を見つけることができたのかもしれない。

(ん?なんだあれ?……船?)

ふと岩ではない何かを見た気がし、近づいてみるとそれは沈没船のようだった。

(やっぱりこういうのは入ってみないとね。お宝とかあるかなー)

ワクワクしながら船の中を捜索し始める彼。果たしてお宝は——

あった。

(ィヨッシャァァァアア!)

ガッツポーズをとり、喜ぶ彼。

彼の目の前には蓋の空いた宝箱。その中に光る、金貨や銀貨、それから少ししかないが、宝石が使われたアクセサリー!

(別にアクセサリーに興味はないけど、宝を見つけた時のこの気持ちは100%最高だ!)

嬉々として宝箱ごと〈シャドウボックス〉に収納する彼。

そのあと、ひとしきり調べたあと、船の外に出た。

(……この船、なんか使えそうだな。持っていくか。)

という軽いノリで船そのものも〈シャドウボックス〉に収納して、〈エアボート〉を発動する彼。

とても満足して、その場を後にした。




その数時間後、月が空に昇り始めたころ、彼は町に到着していた。

人気のないところで陸に上がり、火魔法で身体と衣類を乾かしてフードを深くかぶり町の入り口にある門に向かう。

そこには門番らしき男が立っていた。

「おい、そこのお前、町に入りたいのか?」

「入りたいんですけど……どうやったら入れるんですかね。」

「何、そんなことも知らないのか。」

「旅人なんですよ。ここら辺に来るのは初めてで。」

「なるほどな。町にはギルドなどから発行される許可証を使うか、銅貨一枚で入れるぞ。」

「なるほど!ありがとうございます!えーっと銅貨、銅貨……」

彼はローブの袖に手を入れて、見えないように〈シャドウボックス〉を発動する。

(いやー、沈没船見つけてホントよかった。あっ、これかな?)

出した彼の手には、銀色の硬貨——銀貨が握られていた。

「あれっ?これじゃない……」

そう呟き、また手を入れて探し始める。

「よしっ、これだ!」

そういった彼の手には、今度は金貨が握られていた。

「あっれ~、これでもないなぁ。」

「なあ、あんた、ここで両替できるぞ。」

「えっ、そうですか!ありがとうございます!」

そうお礼を言い、再び出した銀貨を手渡す。

門番は門の向こうに姿を消し、小袋を持って帰ってきた。

「ほら、銅貨九枚だ。一枚はもう引いてある。入っていいぞ。」

「ありがとうございました!それではまた。」

小袋を受け取り、門番に手を振りながら歩きだす彼。

門をくぐった彼は、門番に見えないところで大きく息を吐く。

(やっぱ、敬語は疲れるなあ。まあ、使った方がいい印象を持たれるとは思うから使うけど……)

彼は頭を軽く振って思考を中断させると、目を輝かせながら歩きだす。

(何はともあれ、町には着いた。面白いことがあればいいな。いや、100%あると信じたい!)

彼は夜の街を歩いていく。

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