深夜営業を始めた喫茶店の静かなる挑戦 第2話:誰も来ない、レストラン
作者のかつをです。
第十六章の第2話をお届けします。
新しい文化が定着するまでには時間がかかる。
今回は、開店当初の厳しい不振と、それでも未来を信じ続けた経営者の不屈の信念を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
鳴り物入りでオープンしたロイヤル青山店。
しかし、その船出は嵐の中だった。
昼間は青山という一等地もあって、そこそこに客は入った。
問題は夜だった。
夜が更け街から人影が消えていくにつれて、客足はぴたりと途絶えた。
終電の時間を過ぎると、広々とした店内には客は一人もいなくなった。
がらんとした客席。
虚しく輝き続けるシャンデリア。
手持ち無沙汰にテーブルを拭き続けるウェイトレス。
その静寂の時間は、まるで永遠のように感じられた。
「やはり、無謀だったのか……」
現場の店長や従業員たちの間に、不安と焦りの色が広がり始めた。
毎晩毎晩、膨大な赤字だけが積み上がっていく。
しかし、社長の江頭は動じなかった。
彼は現場のスタッフにこう檄を飛ばした。
「今は、耐える時だ」
「今は種を蒔いている時期なんだ。花が咲くのを焦ってはいけない」
「我々がここで灯りを消してしまえば、この街の夜はまた砂漠に戻ってしまう。灯台の火を消してはならんのだ」
彼はただ信じていた。
この場所にこの時間に温かい光が灯っていること。
その「事実」そのものがやがて人々の行動を変えるはずだと。
そして、その信念は少しずつ形になり始めた。
深夜、仕事を終えたタクシーの運転手たちがその煌々とした明かりに吸い寄せられるようにやってくるようになった。
彼らにとって、仮眠を取ったり同僚と情報交換をしたりできるこの場所は、まさに砂漠のオアシスだった。
やがて、その噂は夜の街で働く人々へと広がっていった。
放送局の深夜番組のスタッフ。
デザイン事務所の徹夜続きのクリエイター。
夜通し飲み明かした若者たち。
彼らは気づき始めたのだ。
この街には午前0時を過ぎても、温かいコーヒーと食事が待っている奇跡のような場所があるということを。
客は一人また一人と増えていった。
それはまだ細々とした流れだった。
しかし、その流れがやがて大きな川となることを江頭は確信していた。
彼の孤独な賭けは、まだ終わってはいなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この時、深夜に集まってきたタクシー運転手たちは非常に重要な役割を果たしました。彼らが口コミの伝道師となり、「青山に夜中もやってるレストランがあるらしい」という情報を街中に広めてくれたのです。
さて、少しずつ夜のオアシスとして認知され始めたロイヤル青山店。
しかし、その運営には昼間の営業とは全く違う困難が待ち受けていました。
次回、「深夜の、もう一つの顔」。
防犯、そして従業員の確保。その知られざる戦いに迫ります。
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