深夜営業を始めた喫茶店の静かなる挑戦 第1話:終電後の、砂漠
作者のかつをです。
本日より、第十六章「午前0時のコーヒータイム」の連載を開始します。
今回の主役は、今や当たり前の「深夜営業」や「24時間営業」という文化。
その知られざる黎明期の物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京・渋谷。
終電を逃した若者たちが、スクランブル交差点をあてもなくさまよっている。
始発まであと4時間。
カラオケボックスか漫画喫茶か、あるいは煌々と明かりが灯るあのファミリーレストランか。
私たちはその光景を当たり前のものとして享受している。
眠らない街、東京。
24時間いつでも温かい食事と屋根のある空間が、私たちを迎え入れてくれる。
その夜のインフラが、かつて一人のレストラン経営者が抱いたささやかな「願い」から始まったということを知る者は少ない。
これは、日本の都市に「眠らない時間」を創造した、名もなき開拓者たちの静かなる挑戦の物語である。
物語は1960年代後半、日本がいざなぎ景気に沸き、人々の生活が急速に夜型化し始めていた時代に遡る。
テレビの深夜放送が始まり、若者たちは夜遅くまで街で遊ぶようになった。
企業戦士たちは残業や接待で、終電を逃すことも珍しくなくなった。
しかし、ひとたび終電の時間が過ぎると大都会・東京はまるで砂漠のように静まり返った。
シャッターは固く閉ざされ、ネオンサインもその光を消す。
行くあてのない人々が寒空の下、駅のベンチで始発を待つ。
そんな光景が、当たり前のように見られた時代だった。
この夜の砂漠に、一つの「オアシス」を作りたい。
そう願った男がいた。
江頭匡一。
福岡で産声を上げたロイヤル株式会社(後のロイヤルホールディングス)を率いる若き経営者である。
彼は第十三章でも登場した、日本のファミリーレストランの父の一人だ。
彼は、来るべきマイカー時代の到来を誰よりも早く予見していた。
そして、1969年、日本の外食産業の常識を覆す大胆な実験に打って出る。
東京・青山、国道246号線沿い。
そこに彼がオープンさせた新しいレストラン「ロイヤル青山店」。
その店の営業時間はこうだった。
「午前11時から、翌朝の6時まで」
深夜営業。
いや、もはやほとんど徹夜営業である。
誰もがその挑戦を、無謀だと笑った。
「終電後の客もいない時間に店を開けてどうするんだ」
「人件費と光熱費で大赤字になるに決まっている」
「そもそも深夜に従業員が集まるわけがない」
常識的に考えればその通りだった。
しかし、江頭には確信があった。
これからの時代、必ずこの「夜の時間」に価値が生まれると。
彼は単にレストランを作ろうとしていたのではなかった。
彼は東京という巨大な都市の、新しい「時間」を創造しようとしていたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十六章、第一話いかがでしたでしょうか。
ロイヤルホストの創業者、江頭匡一は非常に先見の明がある経営者でした。セントラルキッチンやファミリーレストランという業態を日本でいち早く導入したのも彼です。深夜営業もまた彼の未来を見通す目があったからこそ生まれた挑戦でした。
さて、無謀とも思える深夜営業。
その挑戦には、数々の困難が待ち受けていました。
次回、「誰も来ない、レストラン」。
開店当初、彼らが直面した厳しい現実に迫ります。
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