日本初のドライブスルーは牛丼屋だった 第6話:止まらない、時間革命(終)
作者のかつをです。
第十五章の最終話です。
一つの新しいシステムがいかにして私たちのライフスタイルそのものを変えていったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、ドライブスルーの物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
吉野家が切り拓いたドライブスルーという新しい道。
それは、日本の外食産業の可能性を大きく押し広げた。
牛丼、ハンバーガーだけでなく、フライドチキン、コーヒー、そして回転寿司さえも。
ありとあらゆる業態が、ドライブスルーというプラットフォームの上に乗り込んできた。
それは、単に食事の提供方法が変わっただけではなかった。
それは、私たちの「時間」の使い方そのものを変える、静かなる革命だった。
子供が車の中で眠っていても、わざわざ起こすことなく食事を買うことができる。
雨の日でも傘をさす煩わしさなく、温かいコーヒーを手にすることができる。
忙しい仕事の合間に、ほんの数分でエネルギーをチャージすることができる。
ドライブスルーは、現代社会を生きる私たちのささやかな、しかし切実な「時産」のニーズに完璧に応えてみせたのだ。
そして、その革命は今も止まることなく進化し続けている。
スマートフォンのアプリであらかじめ注文と決済を済ませておき、店では商品を受け取るだけという新しいサービス。
AIが客の声を認識し、注文を自動で受け付ける無人のシステム。
形は変われど、その根底に流れる思想は同じだ。
「もっと、早く」
「もっと、便利に」
「もっと、ストレスなく」
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あのドライブスルー。
一台のミニバンがゆっくりと受け渡し口へと進んでいく。
後部座席では、小さな子供たちが楽しげに窓の外を眺めている。
運転席の父親は、知らない。
今、自分が当たり前のように享受しているこの数分間の利便性が、かつて一人の牛丼屋の主人がカウンターだけの男の聖域を家族の笑顔で満たしたいと願った、大きな夢の続きだということを。
熱々の汁だくの牛丼をどうやって安全に車の中へ届けるか、名もなき開発者たちが頭を悩ませ戦い続けた知恵の結晶だということを。
歴史は、遠いアメリカのハイウェイの上だけにあるのではない。
私たちのすぐそばの、この何気ない日常の道路の風景の中に、確かに息づいているのだ。
やがて、窓口から温かい紙袋が手渡される。
車内にふわりと広がる、食欲をそそる匂い。
そのささやかな幸福を乗せて、車はまた未来へと走り出す。
時間という名の革命の道を、まっすぐに。
(第十五章:ドライブスルーという名の時間革命 ~日本初のドライブスルーは牛丼屋だった~ 了)
第十五章「ドライブスルーという名の時間革命」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
近年ではコロナ禍を経てドライブスルーの価値はさらに見直されることになりました。非接触で安全に食事を手に入れることができる、その社会的なインフラとしての重要性が再認識されたのです。
さて、外食の新しい「時間」を創造した物語でした。
次なる物語は、今度は夜の街の「時間」を永遠に変えたもう一つの静かなる挑戦です。
次回から、新章が始まります。
**第十六章:午前0時のコーヒータイム ~深夜営業を始めた喫茶店の静かなる挑戦~**
終電後の静まり返った街で煌々と明かりを灯し続けるレストラン。
あの「24時間営業」という常識破りの文化は、いかにして生まれたのか。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十六章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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