日本初のドライブスルーは牛丼屋だった 第5話:環八の、実験店
作者のかつをです。
第十五章の第5話をお届けします。
ついに日本初のドライブスルー牛丼店がオープンしました。
今回は、その記念すべき第一号店の熱狂と、それが日本の外食史に与えた大きなインパクトを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1977年。
東京の主要な環状線道路である環状八号線沿い、杉並区にその歴史的な店舗はオープンした。
吉野家、高円寺店。
日本初のドライブスルーを備えた牛丼店である。
それは、吉野家にとって大きな賭けだった。
日本の狭い道路事情の中で本当にドライブスルーは機能するのか。
そもそも、車に乗ったまま牛丼を買うという新しい文化が日本人に受け入れられるのか。
すべてが未知数だった。
開店初日。
開発チームのメンバーたちは、固唾を飲んで店の様子を見守っていた。
しかし、彼らの心配は杞憂に終わる。
オープンと同時に、店の前には車が次々と吸い込まれていったのだ。
噂を聞きつけた新しいもの好きの若者たち。
そして、仕事の合間に昼食を手早く済ませたいタクシーやトラックの運転手たち。
彼らは、物珍しさと好奇心で初めてのドライブスルー体験を楽しんでいた。
「へえ、本当に車から降りなくていいんだな」
「こりゃ、楽でいいや」
完璧に訓練された店員たちのスムーズなオペレーション。
そして、熱々の牛丼があっという間に手渡される驚きのスピード。
その革新的なサービスは、客たちの心を瞬時に掴んだ。
高円寺店は、連日大盛況となった。
特に深夜、公共交通機関がなくなった後も煌々と明かりが灯るその店は、夜の環八を走るドライバーたちにとって砂漠のオアシスのような存在となった。
実験は、大成功に終わった。
吉野家は、この成功を足がかりに次々と郊外のロードサイドへとドライブスルー店舗を展開していく。
そして、その成功を横目で見ていた黒船がついに動き出す。
マクドナルドである。
吉野家の成功から遅れること一年、マクドナルドもまた環八沿いに日本第一号店となるドライブスルー店舗をオープンさせた。
日本のドライブスルー戦争の火蓋が切って落とされた瞬間だった。
ハンバーガーの巨人と牛丼の巨人。
二つの巨大チェーンが郊外のロードサイドを舞台に激しく覇権を争う。
その熾烈な競争こそが、結果としてドライブスルーという新しい食文化を爆発的に日本中に普及させていく大きな原動力となったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この吉野家・高円寺店は残念ながら2012年に閉店してしまいましたが、その跡地には「我が国ドライブスルー発祥の地」という記念のプレートが設置されているそうです。まさに、歴史の証人ですね。
さて、ついに日本の道路の風景を変えたドライブスルー。
その革命は、現代の私たちに何をもたらしたのでしょうか。
次回、「止まらない、時間革命(終)」。
第十五章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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