日本初のドライブスルーは牛丼屋だった 第4話:神業の、オペレーション
作者のかつをです。
第十五章の第4話をお届けします。
吉野家の「はやさ」の秘密。
今回は、その神業のようなオペレーションがいかに科学的な分析と緻密な計算の上に成り立っているのか、その舞台裏を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
最高の器はできた。
しかし、吉野家のドライブスルー革命はまだ完成していなかった。
最大の、そして最も重要な課題。
それは、いかにして吉野家の魂である「はやさ」を、この新しいシステムの中で実現するかだった。
開発チームは、ストップウォッチを片手に来る日も来る日もシミュレーションを繰り返した。
車が店の敷地に入ってから出るまで。
そのすべてのプロセスを秒単位で分解していく。
まず、注文口。
客が迷うことなくスムーズに注文できるように、メニューは可能な限りシンプルにする必要がある。
そして、店員は客の注文を間違いなく厨房に伝えなければならない。
彼らが導入したのは、マイクとヘッドセットを使った双方向のコミュニケーションシステムだった。
客の声はスピーカーを通して、厨房の中にいるすべての店員の耳に届く。
注文を受けたその瞬間から、厨房は一斉に動き出すのだ。
一人が丼にごはんをよそう。
一人が鍋から肉とタレをかける。
一人が紅生姜を添え、蓋を閉める。
そして、一人が袋に箸とおしぼりと共に商品を入れる。
その一連の流れは、まるでF1のピットクルーのように無駄がなく洗練されていた。
一人一人の役割分担が完璧に決められている。
そして、車がゆっくりと受け渡し口へと進んでいく、そのわずか数十秒の間にすべての準備は完了しているのだ。
客が窓口に到着した時には、にこやかな店員がすでに温かい商品とお釣りを手に持って待ち構えている。
客は金を払い、商品を受け取り、そして走り去る。
そのすべての所要時間、わずか1分以内。
店内で食べるのとほとんど変わらない驚異的なスピード。
それは単なる気合いや根性で実現されたものではなかった。
人間の動きを科学的に分析し、徹底的に無駄を排除したオペレーションズ・リサーチの結晶だった。
セントラルキッチンで味を標準化したように、吉野家は今度は店舗での人間の「動き」そのものを完璧に標準化してみせたのだ。
日本のお家芸ともいえる「カイゼン」の精神。
その精神がアメリカ生まれのドライブスルーというシステムを、日本の道路事情に最適化された究極の形へと昇華させた瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この徹底したオペレーションの標準化こそが、吉野家が巨大なチェーン帝国を築き上げることができた最大の成功要因の一つです。まさに、「はやさ」はシステムによって作られていたのですね。
さて、器もオペレーションもすべてが整った。
いよいよ、日本の道路に革命が起こります。
次回、「環八の、実験店」。
日本初のドライブスルー牛丼店が、ついにオープンします。
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