ラーメン屋の行列をなくした食券機の誕生 第6話:行列の、その先へ(終)
作者のかつをです。
第十四章の最終話です。
一杯のラーメンの裏側にある壮大な物語。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、食券機の物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
高見沢純が夢見た、食券機のある風景。
それは、日本の食文化の一つの象徴となった。
食券機は、その後も進化を続けた。
ボタンはタッチパネルになり、現金だけでなく電子マネーやQRコード決済にも対応するようになった。
日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語も表示される。
その進化の根底に変わらずに流れ続けていたもの。
それは、「店主を助けたい」「客を待たせたくない」という、高見沢が最初に抱いたあの温かい思想だった。
食券機は、日本の外食産業の生産性を飛躍的に向上させた。
そして、その合理的なシステムは海を越え、日本食レストランの世界的なブームと共に海外の大都市にも少しずつ輸出されていくことになる。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あのラーメン屋。
一人の外国人観光客が、少し戸惑いながらもタッチパネルの食券機の前に立っている。
英語の表示に切り替え、彼は写真付きのメニューの中からお目当ての「TONKOTSU RAMEN」のボタンを見つけ出した。
彼は、知らない。
今、自分が当たり前のように操作しているこの便利な機械が、かつて一人の日本の技術者が湯気の立つラーメン屋のカウンターで抱いた、ささやかな義憤から始まったということを。
濡れた手でお金を触ることなくラーメン作りに集中したい。
そんな名もなき職人の切実な願いを叶えるために生まれた、知恵の結晶だということを。
歴史は、大きな会議室の中だけで作られるのではない。
私たちの、この日常のささやかな一杯のラーメンの中に、確かに息づいているのだ。
やがて、プラスチックの札が彼の手の手に渡される。
席に着き待つこと数分。
彼の目の前に、湯気の立つ完璧な一杯が運ばれてきた。
彼は慣れない手つきで箸を手に取り、そのスープを一口すする。
その驚きと感動に満ちた表情。
その最高の表情を引き出すために、厨房の奥では店主が一切の雑念なく、ただひたすらに麺と向き合っている。
無言の注文受付係は、今日もその最高の舞台を静かに支え続けている。
(第十四章:無言の注文受付係 ~ラーメン屋の行列をなくした食券機の誕生~ 了)
第十四章「無言の注文受付係」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
高見沢純が創業した高見沢サイバネティックスは、今や食券機だけでなく駅の券売機や様々な自動機でトップクラスのシェアを誇る大企業へと成長しました。まさに、一つの善意が巨大な産業を生み出したのですね。
さて、飲食店の「効率化」の物語でした。
次なる物語は、今度は少し視点を変えて日本の道路の風景を変えた、もう一つの食の革命です。
次回から、新章が始まります。
**第十五章:ドライブスルーという名の時間革命 ~日本初のドライブスルーは牛丼屋だった~**
車に乗ったまま注文し、商品を受け取る。
そのアメリカ生まれのシステムが日本で初めて導入されたのは、意外にもハンバーガー店ではありませんでした。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十五章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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