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食文化創世記~味の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:食卓の革命編 ~家庭の「当たり前」が生まれた瞬間~
9/18

かまどの前の解放宣言 第3話:二重釜という逆転の発想

作者のかつをです。

第二章の第3話、物語が大きく動きました。

 

絶望的な状況の中から、いかにしてブレークスルーが生まれるのか。

今回は、そんな発明の「奇跡の瞬間」を描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

どうすれば、釜の中の温度を、理想的にコントロールできるのか。

開発チームが、議論を重ねていた、ある日のことだった。

 

一人の技術者が、ぽつりと呟いた。

 

「いっそ、直接、釜を熱するのをやめてみませんか?」

 

その一言に、部屋が、しんと静まり返った。

釜を熱さずに、どうやってごはんを炊くというのか。

 

彼は、続けた。

 

「釜の外側に、もう一つ、別の釜をかぶせるんです。そして、その外側の釜に水を入れて、その水を熱する。つまり、湯煎のような形で、内側の釜を、間接的に温めるんです」

 

それは、まさに、コロンブスの卵だった。

 

この「二重釜方式」には、驚くべき利点があった。

外側の釜の水が沸騰している間、内側の釜は、常に百度前後の、安定した温度に保たれる。

これで、「中パッパ」の状態を、完璧に維持できるのだ。

 

そして、最大のブレークスルーは、火を消すタイミングにあった。

 

外側の釜の水が、すべて蒸発してなくなると、釜の温度は、百度から、急激に上昇し始める。

この、急激な温度変化を検知して、スイッチが自動的に切れるようにすればいい。

 

火加減を「制御」するのではなく、水の蒸発という、物理現象そのものを利用して、スイッチを「作動」させる。

複雑な電子制御など、何一つ必要ない。

シンプルで、確実で、そして、天才的なアイデアだった。

 

「……それだ!」

 

チームリーダーが、叫んだ。

暗闇の中に、一筋の、まばゆい光が差し込んだ瞬間だった。

 

すぐに、試作品が作られた。

外側の釜に、コップ一杯の水を入れる。

内側の釜に、研いだ米と、規定量の水を入れる。

 

スイッチを入れる。

 

やがて、ぐつぐつと沸騰する音が聞こえ始めた。

そして、十数分後。

外側の釜の水が蒸発し尽くした瞬間、カチリ、という音と共に、スイッチが切れた。

 

あとは、蒸らしの時間だ。

誰もが、固唾を呑んで、その時を待った。

 

蓋を開ける。

そこに現れたのは、ふっくらと炊きあがった、つやつやと輝く、真っ白なごはんだった。

一口、食べてみる。

 

「……炊けてる。美味しく、炊けてるぞ!」

 

研究室に、歓喜の声が響き渡った。

何年にもわたって彼らを苦しめてきた、分厚い壁が、ガラガラと崩れ落ちた瞬間だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

スイッチを切る仕組みには、「バイメタル」という、温度によって曲がり方が変わる金属が使われました。外釜の水がなくなって温度が急上昇すると、この金属がぐっと曲がって、物理的にスイッチを切る、という非常にシンプルな仕組みでした。

 

さて、ついに完成した、完璧なプロトタイプ。

しかし、本当の戦いは、ここからでした。研究室での成功が、そのまま製品の成功に繋がるほど、モノづくりは甘くはありません。

 

次回、「700軒の失敗と苦情の嵐」。

彼らは、地獄のような、現実の壁に直面します。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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この物語の公式サイトを立ち上げました。


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