ラーメン屋の行列をなくした食券機の誕生 第3話:店主の、右腕になる
作者のかつをです。
第十四章の第3話をお届けします。
徹底的な現場主義。
今回は、高見沢がユーザーである「ラーメン屋の店主」に深く、深く寄り添うことで真のイノベーションを生み出していく、その過程を描きました。
すべての答えは、現場にあり、ですね。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
高見沢純の戦いの舞台は、開発室から街のラーメン屋へと移った。
彼は来る日も来る日も様々なラーメン屋のカウンターの隅に座り、ただひたすらに店主の動きと客の流れを観察し続けた。
時には自ら皿洗いを手伝いながら、厨房という戦場のリアルな空気を肌で感じた。
その地道なフィールドワークの中で、彼はいくつもの重要なヒントを掴んでいく。
まず、「ボタンの配置」。
彼は、客の視線の動きをストップウォッチで計測した。
客はまず店のいちばんのおすすめである「看板メニュー」を探す。
次にトッピング、そして餃子などのサイドメニュー。
ならば、ボタンの配置もその視線の流れに合わせればいい。
左上の一番目立つ場所に、店の看板メニューである「ラーメン」のボタンを置く。
その下に大盛りやチャーシュー麺といったバリエーション。
右側にはトッピングやサイドメニューをまとめて配置する。
誰もが迷うことなく直感的に操作できるレイアウト。
その最適解を、彼は何十種類もの試作パネルを作りながら探っていった。
次なる課題、「釣銭」。
彼は、ラーメン屋の一日の客単価と客が使う紙幣や硬貨の種類を、徹底的にデータ化した。
そのデータに基づいて彼は、釣銭として常備しておくべき最適な金種の組み合わせを算出した。
そして、釣銭が一定の枚数を下回ると自動的にランプが点灯し、店主に補充を促す警告機能を考案した。
さらに、「売上管理」。
彼は、一日の営業が終わった後、店主が鍵を回すだけでその日の売上金がすべて一つの金庫に自動的に収納される、シンプルな機構を開発した。
同時に、どのメニューが何杯売れたかというデータがレシートとして自動で印字される。
これなら、店主は閉店後の面倒な計算作業から完全に解放される。
それどころか、翌日の仕込みの量の目安にもなる。
一つまた一つと、ラーメン屋の親父が抱える小さな、しかし切実な悩みを、彼は技術の力で丁寧に解決していった。
彼が作っていたのは、もはや単なる「券売機」ではなかった。
それは、店主の痒い所にすべて手が届く最高の「右腕」。
無言の、しかし誰よりも頼りになる最高の相棒だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この売上データを自動で集計する機能は、後の「POSシステム」の原型ともいえる画期的なものでした。単なる省力化だけでなく、経営の「見える化」にも貢献したのです。
さて、ついに理想の機械は完成した。
いよいよ、その機械が初めて戦場へと投入されます。
次回、「日本初の、食券機」。
しかし、そのデビューは意外なほどの静けさの中で迎えられました。
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