ラーメン屋の行列をなくした食券機の誕生 第2話:駅と、ラーメン屋の、大きな違い
作者のかつをです。
第十四章の第2話をお届けします。
安易な応用ではイノベーションは生まれない。
今回は、高見沢がラーメン屋という現場のリアルな課題と真摯に向き合うことで、自らの発明の本当の難しさに気づいていく過程を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「ラーメン屋向けの券売機を作る」
高見沢純は、その画期的なアイデアを会社に持ち帰った。
彼は自社が作っている駅の自動券売機の技術を応用すれば、すぐにでも実現できるだろうと楽観していた。
しかし、開発は早々に大きな壁にぶつかることになる。
「駅」と「ラーメン屋」。
その二つの場所には、似ているようで全く違う決定的な「違い」が存在していたのだ。
第一に、「メニューの数」である。
駅の券売機が売るのは、せいぜい数種類から十数種類の行先までの切符だ。
ボタンの数も、少なくて済む。
しかし、ラーメン屋は違う。
醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメン。
大盛り、チャーシュー増し、味玉トッピング。
餃子にライス、そしてビール。
メニューは多岐にわたり、その組み合わせは無数に存在する。
それらすべてのボタンを、限られた小さな券売機の盤面にどうやって分かりやすく配置するのか。
「ボタンだらけの複雑な機械になっちまったら、客が迷っちまうだけだ」
高見沢は、頭を悩ませた。
第二に、「金の流れ」である。
駅の券売機は、鉄道会社が一括で管理する巨大なシステムの一部だ。
釣銭の補充も売上の回収も、専門の係員が定期的に行う。
しかし、ラーメン屋は違う。
店主がたった一人で切り盛りしている個人商店なのだ。
釣銭が途中でなくなってしまっては話にならない。
かといって、何十万円もの釣銭を常に機械の中に入れておくのは、防犯上あまりにも危険だ。
そして、何よりも売上金の回収。
一日の営業が終わった後、疲れ果てた店主がそこからさらに何時間もかけて売上を計算するような、面倒な仕組みでは本末転倒だ。
「店主を楽にするための機械が、逆に店主の仕事を増やしてどうするんだ」
高見沢は、自らの考えの甘さを痛感した。
これは単に駅の券売機を小型化すればいいというような、単純な話ではなかった。
ラーメン屋という特殊な環境。
そして、店主というたった一人のユーザー。
その小さな世界のすべての悩みに寄り添う、まったく新しい思想の機械をゼロから発明しなければならない。
彼の挑戦は、単なる技術開発から人間工学と店舗経営の深淵を覗き込む、壮大な探求へと姿を変えていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
確かに、食券機のボタンって独特の分かりやすさがありますよね。ラーメンの種類、トッピング、サイドメニュー、ドリンクといった具合にうまくグループ分けされています。あのレイアウトも長年の知恵の結晶なのです。
さて、ラーメン屋のリアルな課題に直面した高見沢。
彼はこの難題を、どうやって乗り越えていったのでしょうか。
次回、「店主の、右腕になる」。
彼のユーザーに寄り添う地道な改良が始まります。
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