ファミリーレストランを支えるセントラルキッチン革命 第5話:マニュアルという名の聖書
作者のかつをです。
第十三章の第5話をお届けします。
今回は、料理そのものではなくそれを支える「人」と「仕組み」の物語です。
「マニュアル」という言葉が持つ少し冷たいイメージ。その裏側にある合理性と、そして意外なほどの人間的な温かさを描いてみました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
セントラルキッチンは、味の均一化を実現した。
しかし、ファミリーレストランの革命はまだ道半ばだった。
どんなに工場で完璧な料理を作っても、それを客席に届ける最後のワンマイル、すなわち店舗での「サービス」の質がバラバラでは意味がない。
「いらっしゃいませ」の声のトーン。
お冷を出すタイミング。
ハンバーグの焼き加減。
クレームへの対応の仕方。
これまでは、すべて現場の店長やベテラン従業員の「経験」と「勘」に委ねられていた。
しかし、これから何百、何千という店舗を展開していく上で、その属人的なやり方には限界があった。
「サービスもまた、標準化できるはずだ」
経営者たちはそう考えた。
そして、彼らがそのお手本としたのがアメリカで巨大な成功を収めていたハンバーガー帝国、マクドナルドだった。
マクドナルドの強さの源泉。
それは、分厚い「マニュアル」にあった。
ポテトを揚げる秒数から客への笑顔の作り方まで、店舗運営のありとあらゆる行動がそこに詳細に定義されていた。
これにより、マクドナルドは世界中のどの店に行っても全く同じ品質の商品とサービスを提供することができたのだ。
日本のファミリーレストランの開拓者たちも、この「マニュアル経営」を徹底的に導入した。
彼らはセントラルキッチンで料理の「味」を標準化したように、今度はマニュアルという聖書によって人間の「行動」を標準化しようとしたのだ。
それは一見すると非常に非人間的なやり方に見えるかもしれない。
個性を奪い、人間をロボットのように扱うものだと。
しかし、その真の目的は逆だった。
誰がやっても一定の品質を保てるように、基本の「型」を徹底的に教え込む。
そうすれば、経験の浅いアルバイトの高校生でも自信を持って客の前に立つことができる。
そして、基本ができるようになった上で初めて、その人なりの「おもてなし」や「気遣い」といった応用が生まれてくる。
マニュアルは、人間を縛るための鎖ではない。
むしろ、誰もが安心してスタートラインに立つための「お守り」だったのだ。
このセントラルキッチンという「ハード」の革命と、マニュアルという「ソフト」の革命。
その両輪が完璧に噛み合った時、ファミリーレストランは誰にも真似のできない巨大なチェーンストア帝国を築き上げるための、最強のエンジンを手に入れた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「マニュアル経営」は、ファミリーレストランだけでなくコンビニエンスストアなど、その後の日本のあらゆるチェーンビジネスの基本思想となりました。まさに、サービス業における産業革命だったのです。
さて、完璧なシステムを手に入れたファミリーレストラン。
しかし、時代は彼らに次なる進化を求めます。
次回、「深夜営業と、ドリンクバー」。
ファミリーレストランが単なる「食事の場所」から人々の「居場所」へと変わっていく物語です。
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