ファミリーレストランを支えるセントラルキッチン革命 第3話:冷凍ハンバーグとの戦い
作者のかつをです。
第十三章の第3話をお届けします。
ファミリーレストランの看板メニュー「ハンバーグ」。
今回は、その当たり前の美味しさがいかに科学的な知見と地道な努力の積み重ねによって生み出されたのか、その舞台裏を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
セントラルキッチン方式の成否を占う試金石。
それは、「ハンバーグ」だった。
子供から大人まで誰もが大好きな、洋食の王様。
このハンバーグの味をセントラルキッチンで完璧に再現できなければ、ファミリーレストランの未来はない。
開発チームは、まず理想のハンバーグの味を追求することから始めた。
一流ホテルのシェフに教えを請い、最高のレシピを作り上げた。
牛肉と豚肉の黄金比率、タマネギの炒め具合、つなぎのパン粉と卵の量。
レストランの厨房でそのレシピ通りに作れば、確かに絶品のハンバーグが出来上がった。
しかし、問題はここからだった。
その「店の味」を、どうやって「工場の味」に変換するのか。
セントラルキッチンで何千個、何万個というハンバーグのパティを手でこねるわけにはいかない。
巨大な業務用のミキサーで肉をこねなければならない。
しかし、機械でこねると摩擦熱で肉の脂が溶け出し、食感が悪くなってしまうのだ。
こねる時間、ミキサーの回転数、そして肉の温度。
開発チームは、来る日も来る日もデータを収集し、最適な条件を探っていった。
そして、最大の壁は「冷凍」だった。
工場で作ったパティは冷凍して、各店舗へと配送される。
しかし、一度冷凍したハンバーグは解凍して焼くとどうしても肉汁が流れ出てしまう。
あのナイフを入れた瞬間にじゅわっと溢れ出す肉汁の幸福感。
それが、冷凍ハンバーグでは再現できないのだ。
「なぜ、肉汁が逃げてしまうんだ……!」
彼らは再び、第五章の冷凍食品の開拓者たちと同じ壁にぶつかっていた。
冷凍する際にできる氷の結晶が、肉の細胞組織を破壊してしまうのだ。
彼らは冷凍技術の専門家と共同で、ハンバーグ専用の急速冷凍トンネルを開発した。
マイナス40度の猛烈な冷風で、パティの芯まで一瞬で凍らせる。
氷の結晶を極限まで小さくすることで、細胞の破壊を最小限に食い止めるのだ。
さらに、彼らは焼き方にも革命を起こした。
店の厨房では冷凍されたパティを解凍せずに、そのまま鉄板の上で焼く。
そして、表面に一気に焼き色をつけた後オーブンに移し、芯までじっくりと火を通す。
この二段階の加熱法によって、肉汁をパティの中に完全に閉じ込めることに成功したのだ。
何年もの歳月をかけた戦いの末、ついにそのハンバーグは完成した。
それはセントラルキッチンで作られ冷凍され、そしてアルバイトの店員が焼いたハンバーグ。
しかし、その味は一流レストランのシェフが注文を受けてから手ごねして焼いたハンバーグと、少しも遜色がなかった。
いや、それ以上にいつどこで食べても絶対に味がぶれないという、究極の「安心感」をその一皿は持っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この冷凍ハンバーグの開発で培われた技術は、後に家庭用の冷凍ハンバーグという巨大な市場を生み出す礎ともなりました。まさに、外食と中食の技術は繋がっているのですね。
さて、ついに最強の武器を手に入れたファミリーレストラン。
いよいよ、その革命が日本の郊外の風景を永遠に変えることになります。
次回、「ロードサイドの灯台」。
ファミリーレストランがなぜあれほどまでに人々の心を掴んだのか、その秘密に迫ります。
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