ファミリーレストランを支えるセントラルキッチン革命 第2話:厨房を、工場に変える
作者のかつをです。
第十三章の第2話をお届けします。
「セントラルキッチン」というファミリーレストランの心臓部。
今回は、その革命的なシステムの基本思想とメリットを描きました。
当たり前の光景の裏側には、常にそれを支える合理的な「仕組み」が存在するのですね。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「腕の良いコックが全店舗にいないのなら、いっそのことコックのいないレストランを作ればいい」
若き経営者たちがたどり着いたのは、まさに逆転の発想だった。
彼らが思い描いた新しいレストランの姿。
それは、店の中にある「厨房」の役割を根底から変えてしまうものだった。
店の厨房で行うのはもはや「調理」ではない。
温める、焼く、盛り付けるといった、ごくごく簡単な「最終加工」だけ。
アルバイトの高校生でも訓練すればすぐにできるような、シンプルな作業だけだ。
では、肝心の「調理」はどこで行うのか。
その答えこそが、彼らが起こした革命の心臓部だった。
「セントラルキッチン(集中調理施設)」である。
郊外に巨大な食品加工工場を建設する。
そこに腕利きのコックや食品加工の専門家を集結させるのだ。
ハンバーグのパティも、デミグラスソースも、ドリアのホワイトソースも。
味の根幹となるすべての料理を、このセントラルキッチンで一括して調理してしまう。
そこは、もはやレストランの厨房ではない。
衛生管理が徹底された巨大な「食品工場」だ。
最高の食材を最高のレシピで、最高の技術者が機械化された合理的なラインの上で、寸分の狂いもなく調理していく。
そして、そこで作られた料理を冷凍やチルドの状態で各店舗へと毎日配送するのだ。
このシステムには、計り知れないほどのメリットがあった。
第一に、「味の均一化」。
どの店で食べても味は絶対にぶれない。セントラルキッチンのマスターの味が、すべての店の味になるのだから。
第二に、「コストダウン」。
食材を一括で大量に仕入れることで、仕入れコストを劇的に下げることができる。
各店舗の厨房は最小限の設備で済み、人件費も大幅に削減できる。
そして、第三に「品質と安全性の向上」。
工場では専門家が食材の品質を厳しくチェックし、衛生管理も完璧に行うことができる。
それは、外食産業におけるまさにフォード・システム。
職人技の世界だったレストランの厨房を、近代的な「工場」へと変えてしまう壮大な産業革命だった。
しかし、その壮大な夢を実現するためには料理そのものを根本から再発明する必要があった。
「店の味」を「工場の味」へと変換するという、誰もやったことがない未知の挑戦が彼らを待っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
このセントラルキッチン方式は、ファミリーレストランだけでなくその後の多くのチェーン店のビジネスモデルのお手本となりました。まさに、日本の外食産業のゲームチェンジャーだったのです。
さて、壮大な構想はできた。
しかし、それを現実の「料理」として完成させることは、想像を絶するほど困難な道のりでした。
次回、「冷凍ハンバーグとの戦い」。
ファミリーレストランの王様、ハンバーグ。その当たり前の美味しさが、いかにして生まれたのか、その舞台裏に迫ります。
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