主婦を火の番から救った自動炊飯器 第2話:「はじめチョロチョロ」の機械化という難題
作者のかつをです。
第二章の第2話をお届けします。
どんな偉大な発明も、最初からうまくいくわけではありません。
今回は開発チームが直面した高く分厚い「技術の壁」と、彼らの焦燥感を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「誰でも失敗なく、自動でごはんが炊ける機械を作る」
その技術者の情熱は、やがて会社を動かし数人の仲間と共に正式な開発プロジェクトが発足した。
しかし、彼らの前に立ちはだかった壁はあまりにも高く厚かった。
それは、「はじめチョロチョロ、中パッパ」という先人たちの知恵の結晶そのものだった。
最初は弱火で米にじっくり水を吸わせる(はじめチョロチョロ)。
次に一気に強火にして釜の中の温度を百度以上に引き上げ、沸騰させる(中パッパ)。
そして、蒸らしの工程へ。
この流れるような火加減の変化を、どうやって電気で再現するのか。
「単純なタイマーではダメだ。米の量やその日の気温で炊きあがりが変わってしまう」
「サーモスタット(自動温度調節器)で一定の温度を保つだけでも、美味しくは炊けない」
開発チームは、来る日も来る日も試作品と格闘した。
研究室には炊飯に失敗したお米の山が、いくつも築かれていく。
ある時はべちゃべちゃのお粥になり、ある時は芯が残ったままの生煮えのごはんになった。
プロジェクトが始まって一年以上が経過した。
それでも、成功の糸口はまったく見えてこない。
社内からは冷ややかな声が聞こえ始めた。
「電気釜なんて、そもそも無理な話だったんだ」
「そんなものより、もっと売れる製品を開発しろ」
焦りとプレッシャーが、チームの肩に重くのしかかる。
それでも彼らは諦めなかった。
プロジェクトリーダーは毎晩家に帰ると、妻が当たり前のようにかまどでご飯を炊いている姿を見ていたからだ。
「ここで諦めたら、何も変わらない」
彼は仲間たちを鼓舞した。
「今までのやり方がダメなら、まったく違う方法を考えるしかない。発想を根底から変えるんだ」
行き詰まった彼らは、一度すべての理論を白紙に戻した。
そして、「いかに火加減を制御するか」という問題そのものと向き合い直すことにしたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「はじめチョロチョロ、中パッパ」の唄には実は続きがあります。「ぶつぶついうころ火を引いて、赤子泣いてもフタ取るな。蒸らし終われば、みんなでいただく」というものです。この一連の流れを機械化することがいかに難しかったかが窺えますね。
さて、行き詰まり発想の転換を迫られた開発チーム。
そんな彼らの元にある日、奇跡のような「逆転の発想」が舞い降ります。
次回、「二重釜という逆転の発想」。
物語が大きく動き始めます。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!
ーーーーーーーーーーーーーー
もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。
▼作者「かつを」の創作の舞台裏
https://note.com/katsuo_story




