ファミリーレストランを支えるセントラルキッチン革命 第1話:コックさんのいないレストラン
作者のかつをです。
本日より、第十三章「誰でもシェフになれる厨房」の連載を開始します。
今回の主役は、日本の外食文化を象徴する「ファミリーレストラン」。
その当たり前の光景の裏側で静かに稼働し続ける、巨大な心臓部「セントラルキッチン」の誕生秘話に迫ります。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京郊外のロードサイド。
休日の昼下がり、おなじみの看板を掲げたファミリーレストランは多くの家族連れで賑わっている。
子供たちがはしゃぐ声、若いカップルの楽しげな会話、老夫婦の穏やかな時間。
人々はハンバーグやスパゲッティ、ドリアといった多彩なメニューを思い思いに楽しんでいる。
私たちはその光景を当たり前のものとして享受している。
どんな地方のどの店に入っても、メニューの写真と寸分違わぬ安定した品質の料理が、手頃な価格で素早く提供される。
その魔法のような「当たり前」が、かつて日本の外食産業が抱えていた深刻な課題を打ち破るために生まれた、壮大な「システム革命」の結晶であったことを知る者は少ない。
これは、レストランの心臓部である「厨房」から熟練のコックを不要にした、名もなき開拓者たちの静かなる戦いの物語である。
物語は1960年代、日本が高度経済成長とモータリゼーションの波に乗り、大きく変わろうとしていた時代に遡る。
人々の暮らしは豊かになり、週末にはマイカーで郊外へドライブに出かけるという新しいライフスタイルが生まれ始めていた。
しかし、当時の郊ailにはその家族連れが気軽に立ち寄れるようなレストランはほとんど存在しなかった。
街には昔ながらの食堂や蕎麦屋、あるいは高級な料亭があるだけ。
子供からお年寄りまで三世代が同じテーブルを囲んで、安心して楽しめるような場所がどこにもなかったのだ。
この時代のニーズにいち早く気づいた男たちがいた。
「すかいらーく」の茅野亮、「ロイヤルホスト」の江頭匡一。
後に日本のファミリーレストランの父と呼ばれることになる、二人の若き経営者である。
彼らは夢見ていた。
「郊外の幹線道路沿いに広々とした駐車場を備えた、明るく清潔で誰もが楽しめる新しいレストランを作る」
しかし、その夢を実現するためには乗り越えなければならない巨大な壁があった。
それは「料理人」という、属人的な技術の問題だった。
レストランの味はコックの腕で決まる。それが当時の常識だった。
もし多店舗展開を目指すなら、その全ての店に腕の良いコックを確保しなければならない。
しかし、そんなことは不可能に近い。
腕の良いコックは一朝一夕には育たないし、その分給料も高い。
そして、もしその店のコックが辞めてしまえば、その日から店の味は変わってしまうのだ。
「味の均一化」と「コストダウン」。
この二律背反した巨大な壁を、どうやって乗り越えるのか。
彼らがその答えを見出したのは意外な場所だった。
それはレストランの厨房ではなく、食品加工工場の合理的な生産ラインの中に隠されていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十三章、第一話いかがでしたでしょうか。
「コックの腕」という職人技の世界だったレストランに、「システム」という近代的な経営手法を持ち込もうとする。まさに、外食産業における産業革命の物語の始まりです。
さて、食品工場の中にヒントを見出した若き経営者たち。
彼らがたどり着いた革命的なアイデアとは、一体何だったのでしょうか。
次回、「厨房を、工場に変える」。
レストランの常識が覆ります。
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