世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語 第8話:3分間のフロンティア(終)
作者のかつをです。
第十二章の最終話です。
一人の男の壮大な夢が、いかにして世界中の人々の日常と、そして非日常さえも支える文化となったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら、カップヌードルの物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
安藤百福がその波乱万丈の生涯を閉じた後も、彼が世界に放った3分間の魔法は輝きを失うことはなかった。
それは時に災害の被災地で、冷え切った人々の心と体を温める一杯の希望となり、時に宇宙空間で無重力と戦う宇宙飛行士の故郷の味となり、そして時には世界の貧困に喘ぐ地域で子供たちの貴重な栄養源となった。
カップヌードルは、もはや単なる便利な食品ではなかった。
それは人類のあらゆるフロンティア(辺境)に寄り添う、一つの文化となっていた。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場した、あのコンビニエンスストア。
一人の若きバックパッカーが、旅の資金を稼ぐため深夜のアルバイトに励んでいる。
休憩時間、彼はバックヤードで一つのカップヌードルにお湯を注いだ。
彼は、知らない。
今、自分が当たり前のように手にしているその一杯が、かつて一人の不屈の発明家がどんぶりも箸もない国で見た、一つの光景から始まったということを。
その何の変哲もない一つのカップの中に、発泡スチロールという器の革命、フリーズドライという具材の革命、そしてサスペンション製法という構造の革命、数え切れないほどの知恵と工夫が小宇宙のように詰め込まれているということを。
歴史は、分厚い成功者の自伝の中だけにあるのではない。
私たちの、このささやかな3分間の待ち時間の中に、確かに息づいているのだ。
やがて、3分が経過した。
彼はカップの蓋を開ける。
ふわりと立ち上る懐かしい匂い。
彼は、プラスチックのフォークでその麺を勢いよくすする。
明日、彼はまた新しい国へ旅に出る。
その未知なるフロンティアへ挑むための、ささやかな、しかし確かなエネルギーが彼の体を優しく満たしていく。
安藤百福が、生涯をかけて切り拓いた3分間のフロンティア。
その開拓の物語はまだ終わってはいない。
世界中の誰かの空腹と挑戦を支えながら、今この瞬間も続いているのだから。
(第十二章:3分間のフロンティア ~世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語~ 了)
第十二章「3分間のフロンティア」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
安藤百福は96歳で亡くなるその前日まで、新しい製品開発の陣頭指揮を執っていたと言われています。まさに、生涯現役のフロンティア・スピリットの塊のような人物でした。
さて、外食、そして中食の世界に革命をもたらした物語が続きました。
次なる物語は、今度はレストランの「仕組み」そのものを根底から変えた開拓者たちの物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十三章:誰でもシェフになれる厨房 ~ファミリーレストランを支えるセントラルキッチン革命~**
熟練のコックがいなくても、どの店でも同じ味を安く早く提供する。
その魔法のような「セントラルキッチン」というシステムは、いかにして生まれたのか。
引き続き、この壮大な食文化創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十三章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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