世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語 第7話:常識を、ひっくり返せ
作者のかつをです。
第十二章の第7話をお届けします。
一つの製品がいかにしてグローバルなブランドへと成長していくのか。
今回は、安藤百福の柔軟な「ローカライズ」戦略と、「常識を疑う」という彼の普遍的な哲学に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
カップヌードルの国内での成功は、安藤百福にとって一つの通過点でしかなかった。
彼の最終的な目標。
それは、この一杯を国境も人種も文化も超えた、「世界食」へと育てることだった。
しかし、その道は平坦ではなかった。
彼は、まず因縁の地アメリカに現地法人を設立した。
しかし、そこで彼は再び食文化の分厚い壁に直面することになる。
アメリカ人にとって「スープ」は、あくまで食事の前菜だった。
スープの中に麺が入っているという、ラーメンの概念そのものがなかなか理解されない。
「これは、スープなのか? 食事なのか? 一体どっちなんだ?」
さらに、彼らは日本人と違って麺を「すする」という習慣がない。
フォークで食べやすいように、日本のものよりも麺を短くする必要があった。
味もまた大きな問題だった。
醤油ベースの日本の味は、そのままでは受け入れられない。
ビーフ味やチキン味といった、彼らにとってより馴染みの深い味付けが求められた。
安藤は、悩まなかった。
彼は、即座に決断した。
「郷に入っては郷に従え。日本の常識を押し付けてはいかん」
「食のローカライズ(現地化)を、徹底的にやるんや」
その柔軟な思想こそが、彼の真骨頂だった。
彼は現地の食文化を深くリスペクトした。
そして、躊躇なく自らの「常識」をひっくり返してみせたのだ。
その思想は、世界各国への展開でさらにその輝きを増していく。
イスラム圏では、豚肉やアルコールを一切使わない「ハラル認証」を取得したカップヌードルを開発する。
インドでは、ベジタリアン(菜食主義者)が多い食文化に合わせて、野菜ベースのスパイシーな「マサラ味」を生み出した。
ブラジルでは、国民食である豆の煮込み料理「フェイジョアーダ」味のカップヌードルさえ登場した。
カップヌードルは、行く先々の国でその土地の食文化と見事に融合し、まるでカメレオンのようにその姿を変えていった。
変わらないのは、ただ一つ。
お湯を注いで3分待つだけという、その画期的なプラットフォームだけだった。
「食に、国境はない」
安藤百福が生涯口にし続けたその信念。
その信念がカップヌードルを、単なる日本のヒット商品から世界中のあらゆる人々の空腹と心を満たす、真の「グローバル・ブランド」へと育て上げていったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
現在、カップヌードルは世界80カ国以上で販売されています。そして、その味は国や地域によって驚くほど多様です。世界各地のご当地カップヌードルを食べ比べてみるのも、面白いかもしれませんね。
さて、ついに世界食へと羽ばたいたカップヌードル。
その3分間の魔法は、現代の私たちに何をもたらしたのでしょうか。
次回、「3分間のフロンティア(終)」。
第十二章、感動の最終話です。
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