世界を麺で満たしたカップヌードル開発物語 第5話:真ん中が空いた麺の塊「サスペンション製法」
作者のかつをです。
第十二章の第5話をお届けします。
カップヌードルの最大の秘密の一つ、「サスペンション製法」。
今回は、その天才的な発明がいかにして絶体絶命のピンチの中から生まれたのか、その劇的なドラマを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
器、麺、スープ、そして最高の具材。
すべての役者は揃ったかに見えた。
開発チームはそれらを試作のカップに詰め込み、実際に輸送のテストを行ってみた。
トラックの荷台に乗せ、わざと悪路を何時間も走り回らせる。
そして、恐る恐るカップの蓋を開けてみると……
そこには無惨な光景が広がっていた。
「……麺が、ボロボロやないか」
瞬間油熱乾燥法で作られた麺は、非常に脆く壊れやすい。
輸送中のわずかな振動でカップの中で麺がガタガタと揺れ動き、粉々に砕けてしまっていたのだ。
これでは、商品にならない。
「ならば、麺をカップの底にぎゅうぎゅうに詰め込んでしまえばいい」
誰かがそう提案した。
しかし、その方法には別の問題があった。
麺が底に密集していると、お湯を注いでも対流が起きず下の方まで熱湯が行き渡らない。
結果、上の麺は伸びきっているのに下の麺はまだ硬いままという、最悪の事態を招いてしまうのだ。
衝撃から麺を守らなければならない。
しかし、お湯の通り道も確保しなければならない。
この二律背反、矛盾した難題をどうやって解決するのか。
プロジェクトは、最後の、そして最大の壁にぶつかっていた。
安藤百福は、来る日も来る日もこの問題に頭を悩ませていた。
夜も眠れずに試作品のカップを天井にかざしながら、考え続けた。
そんなある夜のことだった。
薄暗い自室の天井をぼんやりと眺めていた彼の頭に、天啓のようなひらめきが舞い降りてきた。
「……せや。麺をカップの真ん中で固定すれば、ええんやないか」
底でもない。上でもない。
麺を、カップの中空に、いわば「宙吊り」の状態で保持するのだ。
そうすれば、輸送中の衝撃はカップと麺の間の空気の層がクッションとなって吸収してくれる。
そして、麺の下には十分な空間ができるためお湯は底までスムーズに行き渡る。
まさに、一石二鳥。
完璧な解決策だった。
問題は、どうやって麺を宙吊りにするかだ。
彼は、すぐに設計図を描いた。
カップの金型そのものを改良する。
容器の中間部分を少しだけ内側にくびれさせるのだ。
そうすれば、そのくびれに麺の塊がちょうど引っかかり、宙吊りの状態になる。
「中間保持構造」。
それは、カップヌードルに数多ある発明の中でも最も独創的で、最も偉大な発明の一つだった。
この天才的な逆転の発想によって、すべての問題は解決した。
一つの完璧な小宇宙が、ついにそのカップの中に完成したのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
安藤百福は、このひらめきを自室で横になって天井を眺めている時に得たと語っています。リラックスした状態こそが、偉大なアイデアを生むという好例かもしれませんね。
さて、ついに完璧な製品は完成した。
しかし、その革新的な製品はすぐには世の中に受け入れられませんでした。
次回、「あさま山荘の生中継」。
カップヌードルの運命を一夜にして変えた、歴史的な事件が起こります。
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